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第5章 国王と貴族院

貴族院での戦い?

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「古竜様に何かあったらどうするつもりだ、王よ!」

「い、いや、戦場に行くとはいえ、砦の中でシオンと一緒に兵士の鼓舞を……どうしたのだ、ジャルバ卿?」

 王が困惑する中、ジャルバと呼ばれた細身の貴族は席から立ち上がって怒鳴っている。

「どうしたもこうしたも無い! なんなら私が私財を放出して大傭兵団を組織してやろう! 古竜様を戦場に連れて行く危険性を考えれば安いものだ!」

 ジャルバがそう告げると、皆がざわざわと顔を見合わせて動揺した。ジャルバの勢いに流されているのか、少しずつ僕を戦場に連れて行くべきでは無い派が増えてきているようだ。

 シオンは難しい表情で自らの唇を親指でなぞる。

「……流石はジャルバ卿ですね。恐らくマナヴ様のお母様の存在を知ったのでしょう。サタナキア村の村人にお母様の存在はハッキリと確認されていますから」

「で、でも、マナヴ様がいないと戦争は負けてしまうのでは?」

「ジャルバ卿は貴族院最大派閥を背後に持つウォーク家当主です。もし本気で兵をかき集めたならば、一時とはいえ帝国に兵の数で上回るかもしれません」

「良いことのような気がしますが」

「それが手なのでしょう。既に、かなりの数の貴族がジャルバ卿の側に回っているように思います。このままでは、マナヴ様は戦場に行かず、代わりにジャルバ卿が組織した大兵団が戦地へと向かいます。そうなると、もし帝国軍を打ち破れた際には、ジャルバ卿は貴族院を完全に掌握してしまうでしょう」

 シオンの説明にセーレは頭を捻って眉根を寄せる。あまり良く分かっていなさそうだな。

 でも、この王国の危機を救えるというのなら、それは確かに凄いことだ。貴族院の貴族だけでなく、民衆もジャルバ卿を英雄として讃えるだろう。

 それに、勝てる算段があるならば古竜を連れて行くなんて危険を冒す必要が無いという理論にも無理は無い。

 確かに、シオンの言う通り貴族院は気の抜けない相手だ。とりわけ、ジャルバという貴族は格が違いそうだ。

 僕の方をチラチラと見ることしか出来なかった他の貴族と違い、まるで細部まで観察するように堂々と僕を凝視している。もしかしたら、いまだに古竜の偽物の可能性を捨てきれていないのかもしれない。

 僕は顔を上げると、困ったように頭を抱える王と険しい顔をしたジャルバを見た。

「ちょっと良いかな?」

 そう言うと、皆の視線がこちらに向く。

「言っておくけど、僕はシオンを友達だと思ってるよ。だから、王国というよりもシオンの為に此処に来てるんだ。それでも、その砦に行ってはダメなのかな?」

 お前らは僕の決めたことに何で横から文句を言うのか。そんなニュアンスを込めて尋ねたのだが、何故か王が一番戸惑っていた。

 いや、ジャルバも同じように動揺している。

「し、しかし、古竜様。砦といえどいつ陥落するか分かりませんぞ。そのような危険な場所に行っては、その美しい鱗に傷が……」

「うろこ?」

 セーレが首を傾げて呟くと、ジャルバは顎を引いて口を開いた。

「いや、失礼。古竜様の殿下を想う優しさは大変素晴らしいものと思います。そのように私も想われたいですな」

「わたしも?」

 セーレが目を細めて唸った。すると、ジャルバは首を左右に振って深い溜息を吐く。

「……仕方ありませんな。どうしても行くと言われるのならば、私が同行致しましょう。我が騎士団を護衛とし、傭兵団を組織して隊列を組みます。私のすぐ近くに居るという条件ならば、戦場へ赴くことに反対は致しません」

「すぐちかくに?」

 またセーレが頭を捻った。

「……怪しいですね。ジャルバ卿は何かを企んでいるようですが、こちらには反論する糸口が……」

 口惜しそうなシオンに、僕は顔を向ける。

「まさか、古竜を隷属させる魔法とか? あ、もしかして僕の皮を剥いで飾りたいなんて危ない趣味なんじゃ……」

 想像に身を震わせていると、セーレが疑問符をいくつも浮かべながらこちらを見た。

「あの貴族の人、マナヴ様が大好きなだけでは?」

 セーレにそう言われ、僕とシオンは顔を見合わせる。

「そんなバカな」

「セーレ様? ジャルバ卿は自らの本心を決して見せません。あのように、まるでマナヴ様を心配しているように見せているのは、それによって自分に有利になる何かがあるからでしょう」

 シオンの言葉に頷いていると、セーレは口を両手で押さえて驚いた。

「まさか、あれが演技なんですか? 貴族というのは恐ろしい人たちなんですねぇ……」

 セーレはそう呟き、周りの貴族に目を向ける。

 僕はセーレの言葉が気になり、ジャルバの方を見てみた。

 僕と目があったジャルバは片方の口の端を上げ、僕をじっと見据えている。

「うん、あれは何か企んでるね。間違いない」

「はい、間違いありません」

 ジャルバの邪悪な笑みに、僕は人間に対して初めて恐怖心を抱いたのだった。










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