24 / 44
第5章 国王と貴族院
貴族院での戦い?
しおりを挟む
「古竜様に何かあったらどうするつもりだ、王よ!」
「い、いや、戦場に行くとはいえ、砦の中でシオンと一緒に兵士の鼓舞を……どうしたのだ、ジャルバ卿?」
王が困惑する中、ジャルバと呼ばれた細身の貴族は席から立ち上がって怒鳴っている。
「どうしたもこうしたも無い! なんなら私が私財を放出して大傭兵団を組織してやろう! 古竜様を戦場に連れて行く危険性を考えれば安いものだ!」
ジャルバがそう告げると、皆がざわざわと顔を見合わせて動揺した。ジャルバの勢いに流されているのか、少しずつ僕を戦場に連れて行くべきでは無い派が増えてきているようだ。
シオンは難しい表情で自らの唇を親指でなぞる。
「……流石はジャルバ卿ですね。恐らくマナヴ様のお母様の存在を知ったのでしょう。サタナキア村の村人にお母様の存在はハッキリと確認されていますから」
「で、でも、マナヴ様がいないと戦争は負けてしまうのでは?」
「ジャルバ卿は貴族院最大派閥を背後に持つウォーク家当主です。もし本気で兵をかき集めたならば、一時とはいえ帝国に兵の数で上回るかもしれません」
「良いことのような気がしますが」
「それが手なのでしょう。既に、かなりの数の貴族がジャルバ卿の側に回っているように思います。このままでは、マナヴ様は戦場に行かず、代わりにジャルバ卿が組織した大兵団が戦地へと向かいます。そうなると、もし帝国軍を打ち破れた際には、ジャルバ卿は貴族院を完全に掌握してしまうでしょう」
シオンの説明にセーレは頭を捻って眉根を寄せる。あまり良く分かっていなさそうだな。
でも、この王国の危機を救えるというのなら、それは確かに凄いことだ。貴族院の貴族だけでなく、民衆もジャルバ卿を英雄として讃えるだろう。
それに、勝てる算段があるならば古竜を連れて行くなんて危険を冒す必要が無いという理論にも無理は無い。
確かに、シオンの言う通り貴族院は気の抜けない相手だ。とりわけ、ジャルバという貴族は格が違いそうだ。
僕の方をチラチラと見ることしか出来なかった他の貴族と違い、まるで細部まで観察するように堂々と僕を凝視している。もしかしたら、いまだに古竜の偽物の可能性を捨てきれていないのかもしれない。
僕は顔を上げると、困ったように頭を抱える王と険しい顔をしたジャルバを見た。
「ちょっと良いかな?」
そう言うと、皆の視線がこちらに向く。
「言っておくけど、僕はシオンを友達だと思ってるよ。だから、王国というよりもシオンの為に此処に来てるんだ。それでも、その砦に行ってはダメなのかな?」
お前らは僕の決めたことに何で横から文句を言うのか。そんなニュアンスを込めて尋ねたのだが、何故か王が一番戸惑っていた。
いや、ジャルバも同じように動揺している。
「し、しかし、古竜様。砦といえどいつ陥落するか分かりませんぞ。そのような危険な場所に行っては、その美しい鱗に傷が……」
「うろこ?」
セーレが首を傾げて呟くと、ジャルバは顎を引いて口を開いた。
「いや、失礼。古竜様の殿下を想う優しさは大変素晴らしいものと思います。そのように私も想われたいですな」
「わたしも?」
セーレが目を細めて唸った。すると、ジャルバは首を左右に振って深い溜息を吐く。
「……仕方ありませんな。どうしても行くと言われるのならば、私が同行致しましょう。我が騎士団を護衛とし、傭兵団を組織して隊列を組みます。私のすぐ近くに居るという条件ならば、戦場へ赴くことに反対は致しません」
「すぐちかくに?」
またセーレが頭を捻った。
「……怪しいですね。ジャルバ卿は何かを企んでいるようですが、こちらには反論する糸口が……」
口惜しそうなシオンに、僕は顔を向ける。
「まさか、古竜を隷属させる魔法とか? あ、もしかして僕の皮を剥いで飾りたいなんて危ない趣味なんじゃ……」
想像に身を震わせていると、セーレが疑問符をいくつも浮かべながらこちらを見た。
「あの貴族の人、マナヴ様が大好きなだけでは?」
セーレにそう言われ、僕とシオンは顔を見合わせる。
「そんなバカな」
「セーレ様? ジャルバ卿は自らの本心を決して見せません。あのように、まるでマナヴ様を心配しているように見せているのは、それによって自分に有利になる何かがあるからでしょう」
シオンの言葉に頷いていると、セーレは口を両手で押さえて驚いた。
「まさか、あれが演技なんですか? 貴族というのは恐ろしい人たちなんですねぇ……」
セーレはそう呟き、周りの貴族に目を向ける。
僕はセーレの言葉が気になり、ジャルバの方を見てみた。
僕と目があったジャルバは片方の口の端を上げ、僕をじっと見据えている。
「うん、あれは何か企んでるね。間違いない」
「はい、間違いありません」
ジャルバの邪悪な笑みに、僕は人間に対して初めて恐怖心を抱いたのだった。
「い、いや、戦場に行くとはいえ、砦の中でシオンと一緒に兵士の鼓舞を……どうしたのだ、ジャルバ卿?」
王が困惑する中、ジャルバと呼ばれた細身の貴族は席から立ち上がって怒鳴っている。
「どうしたもこうしたも無い! なんなら私が私財を放出して大傭兵団を組織してやろう! 古竜様を戦場に連れて行く危険性を考えれば安いものだ!」
ジャルバがそう告げると、皆がざわざわと顔を見合わせて動揺した。ジャルバの勢いに流されているのか、少しずつ僕を戦場に連れて行くべきでは無い派が増えてきているようだ。
シオンは難しい表情で自らの唇を親指でなぞる。
「……流石はジャルバ卿ですね。恐らくマナヴ様のお母様の存在を知ったのでしょう。サタナキア村の村人にお母様の存在はハッキリと確認されていますから」
「で、でも、マナヴ様がいないと戦争は負けてしまうのでは?」
「ジャルバ卿は貴族院最大派閥を背後に持つウォーク家当主です。もし本気で兵をかき集めたならば、一時とはいえ帝国に兵の数で上回るかもしれません」
「良いことのような気がしますが」
「それが手なのでしょう。既に、かなりの数の貴族がジャルバ卿の側に回っているように思います。このままでは、マナヴ様は戦場に行かず、代わりにジャルバ卿が組織した大兵団が戦地へと向かいます。そうなると、もし帝国軍を打ち破れた際には、ジャルバ卿は貴族院を完全に掌握してしまうでしょう」
シオンの説明にセーレは頭を捻って眉根を寄せる。あまり良く分かっていなさそうだな。
でも、この王国の危機を救えるというのなら、それは確かに凄いことだ。貴族院の貴族だけでなく、民衆もジャルバ卿を英雄として讃えるだろう。
それに、勝てる算段があるならば古竜を連れて行くなんて危険を冒す必要が無いという理論にも無理は無い。
確かに、シオンの言う通り貴族院は気の抜けない相手だ。とりわけ、ジャルバという貴族は格が違いそうだ。
僕の方をチラチラと見ることしか出来なかった他の貴族と違い、まるで細部まで観察するように堂々と僕を凝視している。もしかしたら、いまだに古竜の偽物の可能性を捨てきれていないのかもしれない。
僕は顔を上げると、困ったように頭を抱える王と険しい顔をしたジャルバを見た。
「ちょっと良いかな?」
そう言うと、皆の視線がこちらに向く。
「言っておくけど、僕はシオンを友達だと思ってるよ。だから、王国というよりもシオンの為に此処に来てるんだ。それでも、その砦に行ってはダメなのかな?」
お前らは僕の決めたことに何で横から文句を言うのか。そんなニュアンスを込めて尋ねたのだが、何故か王が一番戸惑っていた。
いや、ジャルバも同じように動揺している。
「し、しかし、古竜様。砦といえどいつ陥落するか分かりませんぞ。そのような危険な場所に行っては、その美しい鱗に傷が……」
「うろこ?」
セーレが首を傾げて呟くと、ジャルバは顎を引いて口を開いた。
「いや、失礼。古竜様の殿下を想う優しさは大変素晴らしいものと思います。そのように私も想われたいですな」
「わたしも?」
セーレが目を細めて唸った。すると、ジャルバは首を左右に振って深い溜息を吐く。
「……仕方ありませんな。どうしても行くと言われるのならば、私が同行致しましょう。我が騎士団を護衛とし、傭兵団を組織して隊列を組みます。私のすぐ近くに居るという条件ならば、戦場へ赴くことに反対は致しません」
「すぐちかくに?」
またセーレが頭を捻った。
「……怪しいですね。ジャルバ卿は何かを企んでいるようですが、こちらには反論する糸口が……」
口惜しそうなシオンに、僕は顔を向ける。
「まさか、古竜を隷属させる魔法とか? あ、もしかして僕の皮を剥いで飾りたいなんて危ない趣味なんじゃ……」
想像に身を震わせていると、セーレが疑問符をいくつも浮かべながらこちらを見た。
「あの貴族の人、マナヴ様が大好きなだけでは?」
セーレにそう言われ、僕とシオンは顔を見合わせる。
「そんなバカな」
「セーレ様? ジャルバ卿は自らの本心を決して見せません。あのように、まるでマナヴ様を心配しているように見せているのは、それによって自分に有利になる何かがあるからでしょう」
シオンの言葉に頷いていると、セーレは口を両手で押さえて驚いた。
「まさか、あれが演技なんですか? 貴族というのは恐ろしい人たちなんですねぇ……」
セーレはそう呟き、周りの貴族に目を向ける。
僕はセーレの言葉が気になり、ジャルバの方を見てみた。
僕と目があったジャルバは片方の口の端を上げ、僕をじっと見据えている。
「うん、あれは何か企んでるね。間違いない」
「はい、間違いありません」
ジャルバの邪悪な笑みに、僕は人間に対して初めて恐怖心を抱いたのだった。
0
お気に入りに追加
2,135
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~
桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。
そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。
頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります!
エメルロ一族には重大な秘密があり……。
そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる