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第4章 王都凄い

王都の街並みが見たい

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 大きな丘の上に城壁が見えた。石造りの高い城壁は左右に広く延び、まるで周囲を睨んでいるかのような威圧感を放っている。

「うわぁ……!」

 隣で僕と同じように窓から顔を出していたセーレが歓声を上げた。

「大きいねぇ」

「はい! 今の王都はもう三百年以上もあそこにあって、いまだに大きく拡張され続けているそうです!」

「へぇ、凄いなぁ」

 セーレの説明に大きく頷き、丘の上にある城壁を改めて見た。

 確かに、真ん中と左右では壁の色が違う気がする。更に、遠くからでも分かる暗い色合いの巨大な城門も、真ん中と左右では大きさも形も違うようだ。

「大きいし、なんか格好良いなぁ」

 馬車が城壁に近付いていくと、その城壁の大きさが際立ってきた。

 近くにまで来ると、城壁が見上げるほど大きいと理解出来る。恐らく、高さは四十メートルはあるだろう。

 つまり、母竜とあまり変わらない大きさだ。

「……何とも言えない気持ちになった」

 我が母ながら、まるでゴジラである。困ったものだ。

 と、ついに僕達の馬車は城壁の真下まで来た。見上げれば、まるで反り返っているように見えるような巨大な城壁と城門。

「おぉー……」

 セーレと一緒に感嘆の声を上げる。すると、馬車の斜め後方にいた兵士が近づいてきた。

「申し訳ありませぬが、顔を馬車の中に入れて、窓を閉めていただきたいと……」

「え? 王都の街並みとか見たかったのに……」

 不平を述べると、兵士は背筋を伸ばして敬礼する。

「ほ、本当にすみません! ただ、民は古竜様がいらっしゃると知りませんので、騒ぎになってしまうと思い……!」

 困らせてしまった。

 まぁ、確かに馬車の窓から竜が顔を出してたら吃驚するよね。

「分かったよ。でも、少しだけ隙間作っても良い? 隙間から見るだけ」

「は、はい! 僅かな隙間なら大丈夫かと……!」

「ありがとう」

 お礼を言って、頭を引っ込める。セーレがそっと窓を閉めると、馬車の中が薄暗くなった。

 縦長の光のラインに顔を寄せ合うようにしてセーレと外を見る。

「……ごめんなさい、古竜様。私が上手く言えたら……」

「いや、セーレが上手く言いくるめても皆が驚くのは一緒だよ」

 そう言って、薄暗い中でセーレに顔を向ける。

「……シオンに言って、後でこっそり街中を見れるように頼んでみようか。夜とかなら散歩出来ないかな?」

「そうですね! シオン様なら何とかしてくれますよ!」

 僕とセーレは笑い合い、また外の景色に目を向けた。

 微かに街並みが見えるし、人の声もする。しかし、あまりよく見えない。

 少し残念に思っていると、暫くして馬車が止まった。

「お変わりありませんか?」

 そう言ってシオンが馬車の中に入ってくる。

「どうしたの? もうお城に着いた?」

 質問すると、シオンは困ったように笑いながら首を左右に振った。

「今は、下層の街とも呼ばれる王都の外周の街を抜けたところです。次の上層の街に行く前にもう一つ城壁と城門を越えないといけないのですが、この門は王族であっても手続き無しには通り抜けられないのです」

「じゃあ、今は手続き中なのかい?」

「はい。荷物などを検査されたり、指名手配された犯罪者じゃないか顔を見られたりします。大量の品を持ち込んだ商人の方なんて、丸一日近く拘束されたなんて話があるほど厳重なんですよ」

 シオンの説明に、セーレが眉根を寄せる。

「じゃ、じゃあ、この馬車も……? 大丈夫なんですか?」

 戸惑うセーレに、シオンが微笑んだ。

「この馬車には古竜様が乗っていらっしゃると伝えています。確認はするでしょうが、問題はありません」

 シオンが説明している間に、その確認のための兵士らしき人物が二人現れた。

「殿下、こちらが……っ! お、おぉ! 本当に古竜が……!」

「なんと……」

 二人は目を丸くして僕をジロジロと眺めている。

「くわっ」

 冗談がてら口を開いてみた。

「ぎゃひっ!?」

「で、殿下!?」

 大の大人二名が奇声を上げてシオンの後ろに隠れる。大丈夫か、こんな門番で。

 シオンは苦笑しながら二人に片手を上げ、僕を見た。

「あまり驚かさないであげてください」

「うん、ごめんね。冗談のつもりだったんだけど」

「喋った!?」

「で、殿下!?」

 僕とシオンの会話に、二人はまたも激しく驚く。

「古竜様はルキフェル語を使われます。くれぐれも、失礼の無いようにお願いしますね?」

「は、はいっ!」

 頼りない兵士達は背筋をピンと伸ばして返事をした。

 その兵士達が離れていったのを確認して、シオンに話しかける。

「あの、お願いがあるんだけど」

「何でしょうか? 私に出来ることなら何なりとお申し付けください」

「セーレと一緒に街並みを見たいから、何か良い方法はないかな?」

「街並みを……」

 僕の言葉を反芻し、シオンは顎を指でなぞった。

「……そうですね。多少不恰好にはなってしまいますが……」

 そう言って、シオンは一つの案を提示した。





 石畳の道と、木製の住居。そして、商売人の活気のある声が飛び交い、たまに怒鳴り声も響く。

 なかなかに味のある街並みらしい。

 そして、たまに獣の耳が頭から生えた人間や、耳の長い人間もいるようだった。アクセサリーかと思ったが、動き方を見る限り本物である。

「頭から耳が生えてるよ?」

「獣人の方ですね。エルフ、ドワーフと共に、亜人という言われ方をされています。特に悪意は無いのですが、一部は亜人という呼び方を嫌っていますね。エルフの方に特に多いようです。なので私は、獣人、エルフ、ドワーフと、種族ごとに分けて呼んでいます」

「シオン様! あの綺麗なお店は何でしょうか!?」

「あちらは歌劇という劇を行う劇場ですね。十人から三十人ほどで行う歌と踊りを交えた劇で、今最も賑わっている娯楽です」

 僕とセーレが代わる代わるにシオンに質問し、シオンはニコニコと微笑みながらそれに答えて行く。

 街を歩く人々はシオンに気が付くとその場で跪くが、僕が隣にいても特段騒ぎにはなっていない。

 どうやら成功のようである。

 僕が満足して辺りを見回していると、セーレが小さく息を漏らして笑った。

「マナヴ様、可愛いです」

「ん?」

 僕が振り向くと、セーレはまた楽しそうに笑う。

 無数の紐を結んでダラリと垂らした兜を被っているのだが、どうやら面白いらしい。

 兜を被って窓の下から目だけ出せば竜だとバレないという話だったが、万全を期してカツラ擬きも取り付けてみたのだ。

 思いの外セーレに好評だったのは良いが、なぜかシオンがこちらの馬車に乗ってきたので人々は結局驚いている気がする。

 まぁ、竜を見て驚くよりは良いか。

 僕は無理やり納得しながら、跪く獣人の女の子の尻尾を眺めた。

 フワフワの毛が気持ちよさそうである。
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