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52:思いは口にして6
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「ふう、一件落着といったところだな」
輪舞曲のお茶会。
勉強会は次の試験のときにまた始まるけれど、何かあったら集まる場所という秘密の場所扱いだ。
オーガストの企みから一転、輪舞曲は貴族区でも有名なティーサロンになった。
テリッツ殿下、並びに皇家御用達の噂は広く知れ渡り、第一皇子が気に入り、皇家のお茶会に並んだというお菓子が食べられるとあって、今では予約必須の人気店に。
そんなに人気なのに、イワンが声をかければすぐにいつもの部屋に通してくれる。いつ来ても良いように、部屋はほとんど空けてあるという。感謝されているらしい。
「約束通り、しばらくオーガストは表に出られないよ。まあ、普通なら、だけど」
「個人資産で持っていた店をビリビオ銀行に買い叩かれたというのは……しかも普通なら赤字でとうの昔に破産していたはずなのに誤魔化していたんでしょう?」
スミレが苦笑している。彼女はオーガスト・ノプライアン本人にはあったことがないけれど、輪舞曲の件で迷惑な貴族という印象にはなったようだ。
「借金が到底返せないと知った支援者に詰め寄られたときのうろたえよう……しばらくあの顔を思い出しただけで楽しめるよ」
「悪趣味だな」
言いながらメルクリニはどうでもよさそうだった。
「……もう一度、教えてくださるかしら」
ミズリィは相変わらずだった。
慣れたもので、イワンはもう一度説明してくれた。
輪舞曲を買収しようとしたオーガストに、イワンたちが行った報復は、ひとつは輪舞曲を第一皇子の御用達にしてイメージアップすること。もうひとつは、ノプライアン名義の店や資産をできるだけ大げさに買い叩く、というものだった。
輪舞曲を卑怯な手で潰そうとしたのだから、同じようにしてやろうというイワンの提案だった。
ただ、店などには嫌がらせはしない。ひどい状況の店や赤字だらけの事業のひとつやふたつ、絶対にあるはずだと考えていた。それを公表して噂を流せばいいだけだ。
そして探せば簡単に、劣悪な、しかもオーガストが持っていた店を発見した。紳士用の服飾を扱った大店だが、度重なる借金でそろそろ首が回らなくなっているはず、とイワンは当たりをつけて調べると、予想以上に悪い結果が出た。彼は人のところのことだが、頭を抱えたそうだ。
あとは簡単、事実を噂にして、社交界に流す。
かろうじていた顧客も離れ、そして、同時に支援者もどういうことだと騒ぎ始める。
そこで、ビリビオ銀行の登場。
華麗に店を救い、店は独立した。
「店の方もいいかげんオーナーのオーガストには大変に困ってて、ビリビオが出ていったら感謝されたよ」
「まあ、良いことですわね」
アリッテルがケーキを取り、フォークを刺した。
「ノプライアンのすることだからみんな驚いてはいないようだけど、老舗の大店だったし、しばらくこの話題で社交界は賑わうだろう」
「見事に仕返しができたわけだな。これでようやく落ち着いて菓子を食べられる」
「あらぁ?いつも美味しく食べているじゃない、誰よりも」
「ばっ、食いしん坊みたいに言うな!」
からかうオデットメルクリニは真っ赤になる。
「ふふ、本当に良かったわ」
「そういうミズリィも進展があったんだろう?」
「……ええ」
オーガストの店のことで忙しくしていて、テリッツとのことはよく知らないイワンだった。ミズリィはためらいがちにうなずき、ことのあらましを語る。
おたがいの思いを語り、婚約の件は保留になったことを伝えると、彼は少し笑ったようだった。
「なんだ、結局単純なことだったんだね」
「難しく考えすぎていたのかもしれませんね、私たち」
「けれど、ミズリィが変わらなければ、こんなこともわからなかったはずよぉ……私たちもなんとなくこのままだと思っていたから」
「それじゃあ、まあ、今回はすべてうまくいったということで。今日はお祝いだな」
「私、あれ頼みたいですわ、いちごとベリーのタルト!」
「アリッテルのつやつやのおめめと一緒のいちごよね」
「私の目は美味しくなくてよ」
わいわいと、みんな騒がしくしているのに誰も邪魔をしない。
このままずっと幸せだったらいいのに、とちょっとだけ思うミズリィだった。
輪舞曲のお茶会。
勉強会は次の試験のときにまた始まるけれど、何かあったら集まる場所という秘密の場所扱いだ。
オーガストの企みから一転、輪舞曲は貴族区でも有名なティーサロンになった。
テリッツ殿下、並びに皇家御用達の噂は広く知れ渡り、第一皇子が気に入り、皇家のお茶会に並んだというお菓子が食べられるとあって、今では予約必須の人気店に。
そんなに人気なのに、イワンが声をかければすぐにいつもの部屋に通してくれる。いつ来ても良いように、部屋はほとんど空けてあるという。感謝されているらしい。
「約束通り、しばらくオーガストは表に出られないよ。まあ、普通なら、だけど」
「個人資産で持っていた店をビリビオ銀行に買い叩かれたというのは……しかも普通なら赤字でとうの昔に破産していたはずなのに誤魔化していたんでしょう?」
スミレが苦笑している。彼女はオーガスト・ノプライアン本人にはあったことがないけれど、輪舞曲の件で迷惑な貴族という印象にはなったようだ。
「借金が到底返せないと知った支援者に詰め寄られたときのうろたえよう……しばらくあの顔を思い出しただけで楽しめるよ」
「悪趣味だな」
言いながらメルクリニはどうでもよさそうだった。
「……もう一度、教えてくださるかしら」
ミズリィは相変わらずだった。
慣れたもので、イワンはもう一度説明してくれた。
輪舞曲を買収しようとしたオーガストに、イワンたちが行った報復は、ひとつは輪舞曲を第一皇子の御用達にしてイメージアップすること。もうひとつは、ノプライアン名義の店や資産をできるだけ大げさに買い叩く、というものだった。
輪舞曲を卑怯な手で潰そうとしたのだから、同じようにしてやろうというイワンの提案だった。
ただ、店などには嫌がらせはしない。ひどい状況の店や赤字だらけの事業のひとつやふたつ、絶対にあるはずだと考えていた。それを公表して噂を流せばいいだけだ。
そして探せば簡単に、劣悪な、しかもオーガストが持っていた店を発見した。紳士用の服飾を扱った大店だが、度重なる借金でそろそろ首が回らなくなっているはず、とイワンは当たりをつけて調べると、予想以上に悪い結果が出た。彼は人のところのことだが、頭を抱えたそうだ。
あとは簡単、事実を噂にして、社交界に流す。
かろうじていた顧客も離れ、そして、同時に支援者もどういうことだと騒ぎ始める。
そこで、ビリビオ銀行の登場。
華麗に店を救い、店は独立した。
「店の方もいいかげんオーナーのオーガストには大変に困ってて、ビリビオが出ていったら感謝されたよ」
「まあ、良いことですわね」
アリッテルがケーキを取り、フォークを刺した。
「ノプライアンのすることだからみんな驚いてはいないようだけど、老舗の大店だったし、しばらくこの話題で社交界は賑わうだろう」
「見事に仕返しができたわけだな。これでようやく落ち着いて菓子を食べられる」
「あらぁ?いつも美味しく食べているじゃない、誰よりも」
「ばっ、食いしん坊みたいに言うな!」
からかうオデットメルクリニは真っ赤になる。
「ふふ、本当に良かったわ」
「そういうミズリィも進展があったんだろう?」
「……ええ」
オーガストの店のことで忙しくしていて、テリッツとのことはよく知らないイワンだった。ミズリィはためらいがちにうなずき、ことのあらましを語る。
おたがいの思いを語り、婚約の件は保留になったことを伝えると、彼は少し笑ったようだった。
「なんだ、結局単純なことだったんだね」
「難しく考えすぎていたのかもしれませんね、私たち」
「けれど、ミズリィが変わらなければ、こんなこともわからなかったはずよぉ……私たちもなんとなくこのままだと思っていたから」
「それじゃあ、まあ、今回はすべてうまくいったということで。今日はお祝いだな」
「私、あれ頼みたいですわ、いちごとベリーのタルト!」
「アリッテルのつやつやのおめめと一緒のいちごよね」
「私の目は美味しくなくてよ」
わいわいと、みんな騒がしくしているのに誰も邪魔をしない。
このままずっと幸せだったらいいのに、とちょっとだけ思うミズリィだった。
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