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第五話 神託〜いっかいめ〜

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聖女が王座の間で、一同に集まった貴族たちに、とても信じられないようなことを告げたのは、偽聖女事件から1週間経ったころだった。

「近々、リングエベルの森に魔物の異常発生が起こるという神託がくだりました」
「神託……!?」
「それほどまでの聖女であらせられるのか」
「いや、一度追放された身だ、気を引こうと必死なのかも……」
「しかし、イシス様だぞ」
「皆のもの、静まりなさい」

ベアフレートの声に、ぴたりとひそひそ話は終わった。

「イシスよ、神託なるものは一体どのようなものか詳しく教えてくれ」
「承知しました、陛下」

一礼して、イシスは説明し始める。

「神託とは、神からのお告げです。決まった運命や未来に起こりうる予言とも言えるでしょう。主に聖なる者としての格が高い司祭や修道士、聖女に起こることと文献にはあります。しかし、ごくまれであり、教会が把握しているかぎりではこの100年、神託はないということです」

「今回そなたが受けた、そういった魔物の大氾濫なども過去にはあったのか?」
「ございます。そして、どれも放置すれば国ひとつ滅ぶような大氾濫だったと」

またざわざわと騒ぐ臣下たちを国王は手を振り鎮めた。

「その他は?」
「吉兆もございます。聖女が生まれたというお告げや、教会を建てたところ疫病が消えた、貧困にあえぐ村に、お告げ通りの場所を掘ると熱い水が湧き出て、その湯に浸かれば病気が癒えると噂が広まり、今では栄えた街になったとか。逆に、今回のような不幸も告げられます。
街を吹き飛ばすような大嵐や、火山の噴火、地面が揺れて小国が壊滅した、などというものも」

「なるほど。では、お告げとはそなたにどのような形で行われたのだ?」
「夜、眠っている私に神は話しかけてくださった……のだと思います。声などは聞こえませんでした。ただ、頭の中に言葉が残って……起きたときにはっきりと、リングエベルの森の魔物が異常発生すると、分かりました」
「抽象的ではあるな。お姿が見えたりはしなかったのか」
「はい。過去のものすべて、とは言いませんが、文献に残っているお告げを受けた者たちと同じような現象です。ですから、私は確信しました」

実のところ、そんなに自信があるわけではない。
神からの直接のお言葉なんて信じられない。自分が真の聖女だからといって、ありえないと言いたい。
けれど、不思議な感覚だった。
言葉だけははっきりと頭に残っていて、信じきっている自分がいる。
そして、文献には同じように神託を受けた者たちが、この感覚に近いことを一生懸命言葉に直して書き残してくれていた。
それに、自信があるなしではなく、それが本当だった場合、この国の危機であるということのほうが重要だった。

(間違いだったら、私の失敗だけでいいわ。本当だったら、目も当てられない)

そしてこの神託を、国王はどう考えるかだ。

「近々と言うが、いつ頃それは起こるかは分かっているのか」
「いいえ、具体的な日数は……けれど、逼迫した事態だということはなんとなく、分かります」
「そうか。では、早急に討伐軍、及び防衛軍の編成を指示する」

ここで、控えていた貴族から一歩前に出る者が。

「発言のお許しを、陛下」
「許す」
「恐れながら。今一度聖女様の発言を教会へ照会するべきでは。お若い女性であり、妄想や空想を現実と思い込むことも多々ありますからな」

なにやら小馬鹿にしたような顔つきで、王の前に立つイシスを見てくるので、無視してやった。
国王はしたり顔だった。

「うむ。もう教会へは報告し、正式な回答を得ておる。神託は、聖女が受けたことといい、過去のことを鑑みても本物である可能性は高いという」

当たり前である。
こんな重要なこと、たった今思いついたようにお披露目をするわけがない。
イシスはお告げを受けてすぐさまベアフレートに相談したし、王太子から報告を受けた国王は寵臣と密談して、教会へはまっさきにこの奇跡の知らせを送った。
何を期待していたのか、小娘の空想、と決めつけていた貴族は顔色をなくした。

「な、なんと、先に仰ってくだされば……」
「うっかりしておった。なにせこの国に数々の貢献をしてくれた聖女イシスの誠意を疑うものなどいるとは思わなくてな」

訳:聖女と教会、それと真に受けた国王を馬鹿だと言ったな。
絶句し青くなった貴族は宰相のブラックリスト入だろう。

「国防に関わることだ、可能性がある以上備えずにはいられまい。魔物の大氾濫など起こらぬのなら、変わらずの平和を神に感謝すれば良いこと」

1週間後。討伐軍が森に着いて防衛線を築いた次の日に、突如魔物が群れをなして襲ってきた。
四方に配置した軍と、聖女イシス、それに教会から派遣された聖女ペトラの尽力により、森からほとんど魔物は溢れず。三日三晩討伐軍は剣をふるい、魔法を放ち、聖女らが祝福と浄化、治癒を駆使し、リングエベルの森は平定された。


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