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第二話 陰謀にはご用心

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その報告がされたのは、国王の執務室で、国王陛下、宰相と副官、第一騎士団長、書記室長、王太子とその婚約者の聖女がそろっていたときのことだ。

「ふむ、ゴイドンに叛意ありとな」
「一概に言えませんが、可能性は高いかと」
「どの程度の計画だ?」
「話によりますと、貴族たちに秘密裏にコンタクトを取っています。自派と、ヴァイロス伯派の主な貴族たちです」

初老に入りかけた、厳しい顔つきの宰相が報告書を読み上げると、国王はつるりとした顎を撫でた。

「ふうむ、それだけでは断言できないが」
「それと……最近妙なことを始めています。自領の孤児院から、少女を引き取って手厚く保護しているとか」
「……少女?」
「……侯の息子たちはすでに結婚しております」
「まだ何も言っておらぬではないか」
「邪推にもほどがあるかと、陛下。断言はできませんが侯爵の女性の趣味は豊満な女性かと」
「そちらのほうが邪推してないか?モートン伯」
「陛下方。面白おかしくお話するのは私がいなくなった後にしてください」

話がズレていくし、ひとり女性のイシスは冷ややかに言ってしまった。さらに王太子ベアフレートの呆れた目。

「そうですよ、うら若い乙女の前で何を話しているんですか父上」

ともかく、ここまではただの雑談で、結論としては――

「聖女を仕立てるつもりでは?」

一般的な聖女の認識は、数少ない聖属性の魔力を持っている女性である、というだけだ。
本当にめずらしく、数年に一度現れるかどうかだ。
奇跡的に今代のカヤマンディ王国ではイシスとその少女が日の目を見たということか。

ただ、真の聖女は、それだけではないのだ。
魂が流転し、生まれ変わる。
つまり、生まれながらにして聖女なのだ。
けれど、そんな魂を持つ人間は数百年に一度。
現在聖女として認められている13名のうち、たったひとり、イシス・カリターニアのみが、真の聖女だった。
そんな詳細は、教会関係者や聖女を抱えた国にしか伝えられていない。秘密でもなんでもないが、聖女の権威を落とさないようにする配慮だろう。
偽物というわけでもないのに、真の聖女がいる、というのは誤解を受けかねない。

ともかく、そういった裏事情を知らないゴイドン侯爵の計画は、できたものと言えるだろう。
ゴイドン侯爵の敵は、ピリティピア公爵――王妃の実家である。
つまり、うまくいけば、聖女イシスと婚約者の王太子をまるごと引きずり下ろせるし、王太子を冊立していた国王の威信も低下、王妃の面目は丸つぶれ、王妃の実家である公爵家は地に落ちる――といったところか。
色々話したが、真の聖女相手に無謀な計画であると国王側の認識だ。
潰しても、問題はないが――

「いいかげん、蠅がうるさいとは思いませんか」

とは、宰相の積年の恨みがこもった一言だった。
その言葉で、国王側がとるべき方向性が決まったといえよう。


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