x回目の9月9日

こむぎこ

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第1章 日常が変化する話

x回目の9月9日(前)

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b回目が終わり、c回目に突入したときの俺は何を考えていただろう。今では、ずっとずっと昔のように感じる。確かあの後もずっと足掻いて来たんだよなぁ。

俺は9月9日の金曜日を、永遠に繰り返してきた。時雨との時間はとてもとても幸せで、わざわざループから抜け出さなくてもいいのではないかと思う時もあった。でも今の俺はそうは思わない。時雨がうちの学校に来た時のように、また変化が欲しい。幸せは、不幸があることで感じられるものなのだと分かった。この日常は俺にとってはとても幸せなものではあるが、だんだんと飽きてきたのだ。だからここから抜け出したい。そのために最近は昔のように、努力をしている。

b回目のあと数回ほど繰り返す間は数えていたが、その後最初の頃のように無に感じてしまってからは、それすらもやめて家に引きこもっていた。しかし先ほど言ったように変化が欲しくなったのだ。それはついこの間のことだ。それからは昔試した方法を再度試したり、時雨に言われたというものをやってみたりした。しかしそんなことをしても無駄で、気がついた時には同じ朝を迎えている。そして今回もまたをするつもりだ。しかし、何をするのかは決めていない。その場で思いついたことをする。行き当たりばったりというやつだ。これまでにわかったほぼ確実である条件、つまり「時雨が俺の気持ちを知ること」と、「俺が時雨に告白をしないこと」、この2つをクリアする行動をとるのだ。今考えても何も思いつかないし、2つの条件は明らかに矛盾しているとしか思えない。だからこそ、行き当たりばったりでやるのだ。そうすれば何かが起こるかもしれないし、起きないかもしれない。

こうして何も考えずにやるのは初めてな気がする。これからはこの方法でやってみるか。じゃあ今回は、昔の数え方に習ってx回目ということにしとこう。そういえばさっきから昔と言っているが、時間が通常通り流れていたとしたらどれ位なんだろうか。ざっと数年位かな。それだったら全然昔でもなんでもないな。まあいい、今日は何も考えずに楽しもう。1回目のように。

学校に着くと、既に時雨は俺の机にもたれていた。毎回毎回同じ姿勢で飽きないのだろうか、などと完全に自分にしか分からない感覚で考えながら話しかけた。

「おはよう」
「おはよう。今日はいつもよりほんの少しだけ早いね」
「そうか?あ、そうだ。朝食食べ忘れたんだった」
「そんな1日の中の大イベントを忘れるなんてことってあるの?」
「実際に経験しちゃったんだよなぁ、それが」
「授業中にお腹空いたりとか大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなかったら早弁でもするよ」
「その手があったか」

こんな話をしていると、自分の行動1つでだいぶ変わるもんだなと思う。俺が朝食を食べ忘れたことで、時雨の言動が変わる。この程度で言うのも大袈裟だと思うが、これもバタフライエフェクトの1種なのだろうか。だとしたら、このまま芋づる形式に解決、なんてことにはならないよな。残念。

その後もいつも通り時は進んで行き、授業も何も変わったことはなく、HRも終わった。休み時間は時雨と話していたが、授業中は多分何も考えていなかったのだろう。ほとんど覚えていない。そんなことを考えていると時雨が俺の机に寄ってきて、いつもの姿勢で手をついて言った。

「今日少し話したいことがあるんだけどいい?」
「あぁ、いいよ。それで、話したいことって何?」
「今ここじゃ言えないから後で屋上で」
「分かった。また後でな」

時雨はそのまま、何も持たずに廊下に出ていった。
屋上では何を話されるんだろうか。わざわざ呼び出しておいて雑談とかなのだろうか。それとも、俺がやったことと同じことをするのだろうか。少なくとも後者はなさそうだ。別に逆フラグとかを建てて期待するとか、そういうわけではない。断じてそういうのではない。
それにしても、この展開は今までで初めてだな。いやこの話し方だと、まるでギャルゲーのプレイヤーみたいになっちまう。ちなみにやったことはないし、今後やるつもりもない。
俺が何もアクションを起こさなかったことに関しては、確かa回目と一緒だ。でもその時はこうはならなかったはず。あぁ、あの時はアイスの件があったのか。それなら違うのも納得だな。

じゃあそろそろ行くか。時雨も待ってるだろうし。そう心の中で言って俺は立ち上がり、時雨と同じようにバッグとその他もろもろを置いて屋上へ繋がる階段へと向かった。
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