x回目の9月9日

こむぎこ

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第1章 日常が変化する話

b回目の9月9日(後)

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数学の授業はまたいつもと同じように始まった。ノートに前回書いた文字は、もちろんきれいさっぱり無くなっているが、板書の内容は既に分かっているので先に書いてしまうことにした。そうすれば、その後の時間は目一杯放課後のことを考えられる。ちなみに数学では指名されることは今までなかったので、邪魔される可能性もない。

さて、まずは何から時雨に話すべきなんだろうか。何が起こっているのかを、最初に説明するのが普通だろう。そうでないと時雨も判断に困るだろうし。どちらにせよ起きている事が異常なので、判断には困ると思うけれど。起きている事を話すにしても、原因と思われるについては話すべきではないだろう。話せば自分の知っていることを、完全を説明することができるが、そんなことをすれば時雨も動揺するだろうし、多少なりとも責任を感じるかもしれない。その事を思えば原因については話さずに、起きている事を簡潔に説明して、意見なり何なりを貰うのが適切だと思う。
そもそも説明をして、時雨が理解をしてくれるのかという不安はあるが、そんなことを考えたって何かが変わるわけじゃない。説明して変わるわけでもないのかもしれないけれど、何もしないよりはましだろう。少なくとも自分ではそう思っている。なんかこんなことを考えるだけで疲れてくる。あまり深く考えるのはよそう。行き当たりばったりでもいいのだ。

あの後も授業は前回、そしてずっと前の今日と同じように進み、古典の授業ではまたも同じ問題を答え、その後の授業も1時限目と同じようなことを考えながら過ごした。考えていたとは言っても、何かいい案を思いついたわけではない。何も進んではいない。しかしもうHRも終わり、放課後を迎えてしまった。休み時間にはいつものようにたわいもない話をしていた時雨は、教室にはいない。バッグは置いてあるので、恐らく既に屋上へ向かったんだろう。待たせても仕方がない、俺もそろそろ行くか。

屋上へ行くと既に時雨は、ベンチに腰掛けてバナナオレを飲んでいた。ベンチはよくある青いやつだ。所々塗装がはげているのが気になるが、そんな事よりいつの間にバナナオレなんて買ったんだろう。校内の自動販売機にでも売っているのだろうか。

「遅いよ、心音くん!」

そう言って時雨は、自分の隣をバンバンと叩いた。俺は、叩かれて更に塗装がはげたそこへと腰掛けながら言った。

「ごめんごめん」
「それで、相談っていうのは何の話なの?」
「落ち着けよちゃんと話すからさ。じゃあまず、今俺の周りで起きてることを話すことにするよ」
「なんか大変なことでも起きてるの?」
「まあそうだな。簡単に言うと俺は今日、つまり9月9日を何度も何度も繰り返してる」
「え?冗談ならもっと面白いこと言ってよね」
「冗談なんかじゃないさ。その証拠に、この前も古典でどこを指名されるのか当てて見せただろ?」
「この前?そのこの前っていうのも何度も繰り返してるうちの1回の話?」
「あぁ、そうだった。それは前回のことだったな。でも認識は、そういうことで合ってる。ちょうど午後5時を迎えるタイミングで今日の朝に戻るんだ」
「それで、心音くんはそれを覚えてると」
「そうだ。俺だけが覚えてる。今のところ、抜け出す方法は分かってない」
「抜け出すってループから?そんなこと言っても、原因は分かってるの?」
「おおよその見当はついてる。でもそれは言えない」
「うーん。なんか信じられないような話だけど、心音くんが嘘をつくとは思えないし、顔だって真面目な顔してるし、うーん」
「なんだまだ信じてないのか?」
「当たり前でしょ?こんな話いきなりされて、すんなり飲み込める人の方が珍しいよ」

時雨はそう言ってベンチから腰を上げ、柵に背中をもたれさせてバナナオレを飲んだ。

「それはそうなんだけど」
「私だって信じたいんだけどね。そういえば、もう5時になるけど大丈夫なの?」
「多分また戻るよ」
「何だか悲しそうだね。そのさ、言っていいかどうか分からないんだけどさ」
「いいよ、なんでも言ってくれ」
「自殺とかって考えたりしなかったの?」

そんなことは思ってもみなかったので、なんと返せばいいか分からず、返事が遅れてしまった。

「時雨が俺の立場だったらするのか?」
「わかんないなぁ。なったことないし」
「だよなぁ。俺は考えたこともなかった。それに明日は、世界自殺予防デーだしな」
「じゃあ大丈夫だね。少し安心したよ。明日が迎えられるといいね」

そう言われて、時雨に相談を受けてもらったことへの感謝を伝えようと思った時にはもう、今回という今日は終わっていてベッドで新たな今回、c回目を迎えていた。
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