78 / 116
空間魔法1
しおりを挟む
それから、ようやく、下手すると、自分が死にかけていたんじゃないか?という事実に思い至り、ぶるり、と体を震わせる。
「あっ。ごめーん」
超軽い感じで謝られた。
いやいや、土下座するレベルの奴でしょ。え?いや、いやいや、確かに、確かにね。急に背後に立った俺も悪いよ。悪いけどさ。えっ。殴りかかるとか酷くない?
しかもあれは、おふざけとかじゃなかった。本気で殺しにかかってきてたよ。それを、そんな軽い、感じで謝られても……。
抗議したいのはやまやまだったが、驚きからなのか、恐怖からなのか、何なのか知らないが、声が出ない。仕方ないから、八束の足を、げしげしと、踏ませていただく。
「おい、何すんだよ」
と、嫌そうな顔はするものの、全く痛そうではない。俺の攻撃力では、こいつに太刀打ちできない、とでもいうのか?!
いやまあ、そりゃそうなんだけど。なんか悔しいな……。
俺は、不服そうな八束を無視して、ラルゴさんの方を向く。彼は、何かを必死に書き込んでいた。……あれ、俺の呪文をメモ、してるんだよなあ……?多分。
「あの、すいません。何を書いてるんですか?」
「おお、お主の呪文を書いておるのじゃ。何かの手掛かりになれば、と思っての」
話している間も、紙から目を離すことはない。
やっぱりね。
「あんまり参考にはならないんじゃないでしょうか?」
そのあまりにも必死な姿に、つい思っていたことが零れる。
「ふむ。どうしてそう思ったのかの?」
純粋にただ疑問に思っただけなのだろう。その証拠に、彼の瞳にそれ以外の感情は映っていない。けれど、余計なことを言ってしまったような気がした。ここで今更撤回する訳にもいかず、しぶしぶ説明をする。
「いえ、大した理由じゃないんですが、私が思ったのは、呪文も個人個人で違うんじゃないかなあ、と。だから、他の人が、私の真似をしたところで上手くいくとは思えません」
「なるほどのう……」
もさもさ、と髭を触りながら、唸った。
何か可愛らしい気がする。こんな年上の人に、可愛いっていうのは失礼かもしれないけど……。マスコットキャラ的な可愛さがある。
「例え、個人個人で適する呪文が違うとしても、お主の成功した、呪文を書き留めるのは、無駄ではないぞい。将来的に、お主と似た人間が現れないとも、限らないし、こういう個人の事例が集まると、ある法則性が見えるかもしれんしのう。」
それはもっともである。現代で言う、統計学、みたいなもんかな。未来のために、データを残して悪いことはないだろう。うん。
「すいません……差し出がましいことを言ってしまって……」
「いやいや、寧ろ言ってくれて嬉しいわい。お主らにはわしとは違う価値観がある。だからこそ、常識にとらわれない発想が出てくることもあるじゃろう。重圧には思ってほしくないんじゃが、そういう意味で、期待しておる。だから、今後も、思ったことがあったら、どんどん言ってくれると、わしとしても、嬉しいのう」
……なんだろ。凄い嬉しい。
何にも知らないくせに、要らない口出しをしてしまった、と後悔していた時に、言われたから、尚更。もしかして、俺が思っていたことが、バレていたのかもしれない。
何にせよ、凄い……うん。凄い人だなあと思う。
だって、タイミングは、なしにしても、こんな若輩者の意見を取り入れられる人間なんて、そうそういない。若輩者、どころではないかもしれない。なんせ他の世界の住民。それも、来たてホヤホヤだもんなあ。数日たったとはいえ、まだ湯気は出てるはず。
しかも、ラルゴさん、結構な重鎮?ぽいし。偉くなればなるほど、思考は凝り固まって、偉そうになっていく気がする。所謂、老害、と言うやつね。
まーでも、本当に優秀な人は、ラルゴさんみたいな考えがあるだろうし、偉い人は、その、両極端になるのかもね。超優秀か、役立たずか。
「あ、じゃあ、空間魔法で、空間を切断!とかはできないんすか?」
意見、と言うよりは、質問を八束はする。
「空間を切断……?歪ませることは出来るようじゃが」
「歪ませるとどうなるんすか?」
「そこにあるものが壊れるのう」
「何それ怖っ」
ぶるり、と体を震わせるが、本当に怖がっている、と言うよりは、茶化している要素の方が多いと思う。
それにしても空間を歪ませる、か。そんなこと出来るんだなあ。いや、前の世界とここでは物理法則とかが違うのかもしれない。それなら、空間が歪もうが、切断されようが納得できる。
「やってみてくれよ」
不意に肩を、ぽん、と叩かれた。
え?やるって空間を歪ませる、とかいうやつのこと?
いやあ、それはちょっと……。ここでやるのは危険すぎやしないだろうか?
その辺の判断を聞くために、俺はラルゴさんの方を見た。
「ふむ、そうじゃな。かなり危険な魔法じゃからのう……。カシオカがもう少し魔法に慣れてから、場所を変えて行うことにしようかの」
「ちぇ……」
「あっ。ごめーん」
超軽い感じで謝られた。
いやいや、土下座するレベルの奴でしょ。え?いや、いやいや、確かに、確かにね。急に背後に立った俺も悪いよ。悪いけどさ。えっ。殴りかかるとか酷くない?
しかもあれは、おふざけとかじゃなかった。本気で殺しにかかってきてたよ。それを、そんな軽い、感じで謝られても……。
抗議したいのはやまやまだったが、驚きからなのか、恐怖からなのか、何なのか知らないが、声が出ない。仕方ないから、八束の足を、げしげしと、踏ませていただく。
「おい、何すんだよ」
と、嫌そうな顔はするものの、全く痛そうではない。俺の攻撃力では、こいつに太刀打ちできない、とでもいうのか?!
いやまあ、そりゃそうなんだけど。なんか悔しいな……。
俺は、不服そうな八束を無視して、ラルゴさんの方を向く。彼は、何かを必死に書き込んでいた。……あれ、俺の呪文をメモ、してるんだよなあ……?多分。
「あの、すいません。何を書いてるんですか?」
「おお、お主の呪文を書いておるのじゃ。何かの手掛かりになれば、と思っての」
話している間も、紙から目を離すことはない。
やっぱりね。
「あんまり参考にはならないんじゃないでしょうか?」
そのあまりにも必死な姿に、つい思っていたことが零れる。
「ふむ。どうしてそう思ったのかの?」
純粋にただ疑問に思っただけなのだろう。その証拠に、彼の瞳にそれ以外の感情は映っていない。けれど、余計なことを言ってしまったような気がした。ここで今更撤回する訳にもいかず、しぶしぶ説明をする。
「いえ、大した理由じゃないんですが、私が思ったのは、呪文も個人個人で違うんじゃないかなあ、と。だから、他の人が、私の真似をしたところで上手くいくとは思えません」
「なるほどのう……」
もさもさ、と髭を触りながら、唸った。
何か可愛らしい気がする。こんな年上の人に、可愛いっていうのは失礼かもしれないけど……。マスコットキャラ的な可愛さがある。
「例え、個人個人で適する呪文が違うとしても、お主の成功した、呪文を書き留めるのは、無駄ではないぞい。将来的に、お主と似た人間が現れないとも、限らないし、こういう個人の事例が集まると、ある法則性が見えるかもしれんしのう。」
それはもっともである。現代で言う、統計学、みたいなもんかな。未来のために、データを残して悪いことはないだろう。うん。
「すいません……差し出がましいことを言ってしまって……」
「いやいや、寧ろ言ってくれて嬉しいわい。お主らにはわしとは違う価値観がある。だからこそ、常識にとらわれない発想が出てくることもあるじゃろう。重圧には思ってほしくないんじゃが、そういう意味で、期待しておる。だから、今後も、思ったことがあったら、どんどん言ってくれると、わしとしても、嬉しいのう」
……なんだろ。凄い嬉しい。
何にも知らないくせに、要らない口出しをしてしまった、と後悔していた時に、言われたから、尚更。もしかして、俺が思っていたことが、バレていたのかもしれない。
何にせよ、凄い……うん。凄い人だなあと思う。
だって、タイミングは、なしにしても、こんな若輩者の意見を取り入れられる人間なんて、そうそういない。若輩者、どころではないかもしれない。なんせ他の世界の住民。それも、来たてホヤホヤだもんなあ。数日たったとはいえ、まだ湯気は出てるはず。
しかも、ラルゴさん、結構な重鎮?ぽいし。偉くなればなるほど、思考は凝り固まって、偉そうになっていく気がする。所謂、老害、と言うやつね。
まーでも、本当に優秀な人は、ラルゴさんみたいな考えがあるだろうし、偉い人は、その、両極端になるのかもね。超優秀か、役立たずか。
「あ、じゃあ、空間魔法で、空間を切断!とかはできないんすか?」
意見、と言うよりは、質問を八束はする。
「空間を切断……?歪ませることは出来るようじゃが」
「歪ませるとどうなるんすか?」
「そこにあるものが壊れるのう」
「何それ怖っ」
ぶるり、と体を震わせるが、本当に怖がっている、と言うよりは、茶化している要素の方が多いと思う。
それにしても空間を歪ませる、か。そんなこと出来るんだなあ。いや、前の世界とここでは物理法則とかが違うのかもしれない。それなら、空間が歪もうが、切断されようが納得できる。
「やってみてくれよ」
不意に肩を、ぽん、と叩かれた。
え?やるって空間を歪ませる、とかいうやつのこと?
いやあ、それはちょっと……。ここでやるのは危険すぎやしないだろうか?
その辺の判断を聞くために、俺はラルゴさんの方を見た。
「ふむ、そうじゃな。かなり危険な魔法じゃからのう……。カシオカがもう少し魔法に慣れてから、場所を変えて行うことにしようかの」
「ちぇ……」
14
お気に入りに追加
778
あなたにおすすめの小説

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜
ばふぉりん
ファンタジー
こんなスキルあったらなぁ〜?
あれ?このスキルって・・・えい〜できた
スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。
いいの?

同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです
砂糖流
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。
それはある人と話すことだ。
「おはよう、優翔くん」
「おはよう、涼香さん」
「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」
「昨日ちょっと寝れなくてさ」
「何かあったら私に相談してね?」
「うん、絶対する」
この時間がずっと続けばいいと思った。
だけどそれが続くことはなかった。
ある日、学校の行き道で彼女を見つける。
見ていると横からトラックが走ってくる。
俺はそれを見た瞬間に走り出した。
大切な人を守れるなら後悔などない。
神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる