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改めまして2
しおりを挟む「おお、そうじゃった、そうじゃった。
ヤツカは今魔法を使う練習をしてもよいかの?と聞きたかったんじゃ」
……なんだ。何か問題があったというわけではないのね。良かった。
八束のほうはと言うと、すっかり復活したようで、赤べこのようになっていた。
「そうじゃな、では分かりやすいように、先ほど話題にも出た火力調節の魔法を練習してみようかの」
そう言うとおじいちゃんは目をつむった。
「清らかなる女神様
どうかそのお力で
火をともしてください」
すると、ぼうっと、おじいちゃんの手に小さな火が点いた。
おお、凄い。
「熱くないんですか?」
「ふぉっふぉっふぉ。魔力で手を保護しておるから、熱くないんじゃよ」
なるほど。魔力って便利だな……。魔力さえあれば、何でもできるような気がしてきた。まあ、何でもできても世界に干渉できないらしいから、意味ないような気しかしないけど。
「そうじゃな、ではわしの真似をして言ってみてくれ」
八束は神妙な面持ちで、静かにうなずいた。そしておじいちゃんの言葉を逃すまい、と耳を澄ましている。
「清らかなる女神様
どうかそのお力で
火を加減してください」
数秒。沈黙が訪れる。きっと彼の頭の中で先ほどの呪文を反芻し、確認しているのだろう。
カッ。
八束が目を見開いた。
「って、こんな呪文唱えられるか!」
……おお、いや、……うん。ここで素直に唱えなくて安心した俺がいるけども。俺も唱えたくないって気持ちは同じだし。
でも、おじいちゃんがポカーンとしてるんだよな。そりゃそうだ。魔法教えてたら、いきなり怒り出したようにしか見えないもんなあ。
「えっと……ほかの呪文はないんですか?」
「そうそう、他の奴!」
俺が助け舟を出すと、八束も慌ててそれに乗ってきた。流石にいきなり叫んだのは、申し訳ないと思っているのだろう。ノリで話しているとこんな事故も起こるのか。それは気が付かなかった。隣の芝生は青く見える、とはまさにこのことを言うのだろう。
「他のもの、と言われてものう……。そもそも、今の呪文の何が嫌だったんじゃ?」
「無神論者なんで」
きりっとした顔で即答した八束。……こいつ、さては脊椎だけで話してるな?
軽く頭を小突いて、愛想笑いを浮かべる。
「ちょっと私たち、女神様といろいろありまして」
いや、なんもないけど。こっちが一方的に嫌ってるだけだけど。
「ぬ?もう何かあったのか」
「ええ、まあ」
いや、ないけどね。
おじいちゃんは、
「ふむ」
と考え込んでしまった。
「儂ですら会ったことないのに……」
とかぶつぶつ言っているのが聞こえる。
そんなに会いたいのか。
まあ呪文を聞くに、尊敬されてるっぽいし、魔法を扱う人なら会ってみたい存在なのかもしれない。絶対性格悪いと思うんだけどな。きっと会ったら幻滅するから、会わない方がいいと思うよ。
……なんて。
言わないけど。そもそも、会えないだろうから、言う必要もないね。
「最悪、女神の呪文でもいいので、内容をもっと、こう……」
「あのくそ野郎を罵倒する感じにだな!」
俺がオブラートで包もうとした所、八束に引きちぎられました。
彼は、握りこぶしを作って身を乗り出している。
「おぬしら……何されたんじゃ……」
あまりの勢いにおじいちゃんドン引きである。
いや、こいつと一緒にはされるのはなあ。ミケに関して、そんなに恨んで……
恨んで…………るわ。
早急に息を引き取ればいいのに。それも、かなり惨い方法で。
「お、おい、目が怖いぞ」
八束に肩を叩かれた。彼の目は少し怯えている。
「ああ、すいません」
俺はにこりと微笑んだ。八束が、たらり、と冷や汗を流したのが分かる。
……そんなに顔に出ているだろうか?とりあえず、落ち着こう。
俺は大きく息を吸って、深呼吸した。
吐き出された空気と共に、怒りも抜けていく気がする。何度か繰り返すうちに、冷静になった。
駄目だな。あんまりおじいちゃんを混乱させないように、と、冷静になろうとしてたのに。この有様である。
「ま、まあ、分かった。おぬしらがとても女神さまを恨んでるのは分かったぞい。ただ、のう……。
そもそも、魔法と言うのは基本的に女神さまから力を借りて発動しておるんじゃ。つまり、あんまり無茶苦茶な呪文を唱えると、無視される可能性が高い……と言うか、世間的に広まっておる先ほどの呪文以外で発動するのは極稀じゃ。
何ならやってみるとよい」
そうかー。ミケの力がないと魔法って発動できないのね……。やっぱ魔法はくそだわ。
だからと言って、俺が魔法使えないとただの役立たずへとなり下がるから、使わないって選択肢はないんだけど。
誰か、適性だけでも交換してくれないかなあ……。
「えー、ではいきます」
ごほん、と咳払いをする。
どうせ発動しないらしいから、そんなに気合い入れなくていいのに。何も起きなかった時のダメージが増えるじゃん。
適当にちゃちゃっといって、ぱっと終わらせればいいのに。まあ、らしいっちゃ、らしいけど。
俺たちが見守る中、八束はおじいちゃんの掌の炎に手をかざした。
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