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メイドたちの懸念2

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 ネーロさんが言葉に詰まったところで、八束がさらに畳みかける。

「そもそも、考えれば分かる、と言うなら、訓練後、俺らが部屋に戻ることも、分かるべきなのでは?」
「いや、食堂に行くもんだと思ってた」
「……」
「……」

 二人はしばらく、無言で見つめあった後、ネーロさんが切り出す。

「この件は事故だった、ということで」
「さんせー」

 二人は、息を合わせたかのように、同時に頷いた。
 え?いやいや、今のはいったい何だったんだ?まったく意味が分からないんだけど……。
 謎のノリに、困惑した俺は救いを求めるようにアンジェラさんを見る。
 彼女は二人に絶対零度の視線を向けていた。

 そこに救いはなかった……。
 まあ、予想してないことはなかったけど。

 はあ、仕方ない。結局のところ、信じられるのは自分だけなんだから……。

「じゃあ、私、帰りますね」

 そういった瞬間、アンジェラさんがドアを開けてくれる。
 流石だ。

「ひとつ言いたいことがあります」

 アンジェラさんが、ドアを開けたまま固定させた後、ネーロさんのほうを向いた。気になったので、立ち止まり、二人を見る。

 ドン。
 視界が真っ暗になった。

 いきなり止まったせいで、そのまま進もうとした八束とぶつかったらしい。
 慌てて一歩下がり、視界を確保する。
 八束も同じように下がったので、丁度いい距離ができた。

 アンジェラさんが、心配そうな、申し訳なさそうな目でこちらを見てきたが、俺に怪我がないことが分かると、ほっとした表情の後、きりっとした顔に戻る。

「あまり、カシオカ様を虐めないで頂けると助かります」

 ネーロさんはその言葉に、心外だ。と言いたげな顔をして、反論をしようと口を開くが、アンジェラさんに遮られる。

「ツィア……カゲイ様のメイドも心配しておりましたが、気絶するまで訓練するなんてありえません」
「……そうか?」
「ありえません。それに、彼ら勇者は騎士でも何でもありません。今までごく普通に暮らしてたんですよ……それを気絶するまで訓練をするなんて……」
「……そうだな。今度から気を付ける」

 ネーロさんは真剣な表情でうなずいた。

 思ったことが二つある。

 まず、影井のメイドの名前。ツィア……っていうのか。名前は複雑、というか発音しにくい名前なんだなあ……。まあ、この国ではメジャーなのかもしれないけど。
 出来れば、本人から名前を聞きたかったのはある。ある、けど、まあ仕方ないな。
 少し残念だけど。

 二つ目は二人の会話についてだけど……
 んー。何というか、微妙な気持ちだ。影井が無理やり訓練させられたなら、何らかのハラスメントに該当して、ネーロさんが悪いってことになるんだろうけど、今回の場合は本人が望んでたからなあ。

 本人了承済みだったら、気絶するまで鍛えていいのか?と聞かれると、これもまた微妙だと思うけどね。やっぱ本当に本人のためを思うなら、縛ってでも止めるべきだとは思う。気絶して倒れるときに、頭でも打ったら、それこそ、取り返しのつかないことになる訳だし。
 まあ、実際にできるかどうかは、別にしてもね。

 何が言いたいかって言うと、ネーロさんも、訓練をやりすぎた、とは思ってたみたいだし、傷口に塩を塗りたくってる感じがするなあ、と。

 うん。アンジェラさんの言ってることは正しいし、俺のために言ってくれてるのは分かるんだけどね。

「分かって貰えてよかったです。では明日からも、カシオカ様方をよろしくお願いしますね」
「ああ」

 アンジェラさんがお辞儀を、八束が手を振り、ネーロさんを見送る。
 俺も、軽く会釈すると、振り返ったネーロさんがにやりと笑った。

「気絶する手前なら、良いってことだよな?それまでは甚振ってやるから覚悟しとけ」

 アンジェラさんが何かを言う前に、ネーロさんは走って逃げる。
 ものすごく綺麗なフォームだなあ、と場違いな感想が浮かび上がった。
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