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やつ(か)が来た3

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「俺の能力は見たいものが見える、らしい」
「どういうことだ。現実逃避的な?」
「いや、そういう事ではなく……、例えばお前が今何を思っているか、見ようと思えば見える。見ないけど」
「あー、他の人にバレたら面倒臭そう」

そう言う八束は思ったよりもサバサバとした反応だった。こいつの事だから、この能力を聞いて、俺を警戒する……なんてことはしないとは思っていたが、ここまで歯牙にもかけないとは……。
やはり彼は大物だ。その態度がありがたい。

「ってことはお前、女子のパンツも見れるってことか?」
八束は何故か興奮気味に尋ねてくる。

「……見たいのか?」
「いや、別に……」
全く興味なさげに八束は答えた。
なんやねん。うわ、思わずエセ関西弁が出てきてしまった。

漂う謎の空気を吹き飛ばすようにゴホン、と態とらしい咳払いをする。自分で作った空気だろうに。

「確かに覗き魔ができる能力だが、覗き魔と呼ぶ程酷い能力ではないよな?むしろ俺のより余程、便利なんじゃないか?」
「あーうん、この職業、世界に干渉できないとかなんとか」
「どういうことだ」

八束が、不思議そうに聞いて来たので、ミューさんにしてもらった説明をそのまま伝えた。
ふむふむと頷く八束。

「なるほど……。分からん」
この説明でわからなかったら、俺にはどうしようもない。
俺からの呆れたような目線に気がついたのか、いや、そういう意味ではなく、と言葉を続ける。

「こう、世界に干渉できないってざっくりとし過ぎじゃないか?お前が息を吸う。それだけでこの世界の酸素は失われており、世界に干渉している……ことにはならないか?例えこの世界で酸素が存在してなくとも、食事をしても同様の事が起こるわけ。
今俺とお前が話してるのも、それで俺の考えが変わったら、俺がお前に影響を与えられてるってことになるだろ?
世界に一切干渉しないってのは、この世界に存在しない者にしか出来ない……と俺は思うんだが」
なるほど。
つまり彼は俺の現状がミューさんの言葉と乖離している、と言いたいのだな。

「うーん、俺はその辺、ある程度の世界への干渉は許される、と思ってた。揚げ足を取るようだけど、ミューさんは一切とは言ってないし?」
「まあそう受け取るしかないわな」

八束は腕を組んでぼうっと、壁を見つめている。
「で、その能力だが、見た物を共有……とかは出来ないのか?」
「ん?うーん、あ、無理っぽい」
「そうか……じゃあお前、頑張れよ。曲がりなりにもいつも小説書いてるんだし、いける。いける」
何を頑張れと……。書く……?共有……?
「まさかお前、俺に見たもの全部書かせる気か……?」
「当たり前だろう?」
「あほか!腱鞘炎になるわ!!」
「別に書かなくてもいいだろ?口頭で説明してくれれば。ほら、ヘイ!カモン!」
手をくいくいと動かしている。その様を見ていたら、なんだかため息が出てきた。はあ。

「いいか?聞いた情報によっては、お前まで世界に干渉できなくなる可能性もあるんだぞ?だからこそ、軽率な行動は避けるべきだ」
「世界に干渉できない?それがなんだっていうんだ」
「は?」
何を言ってるんだこいつは。
「そんな事よりも」
八束はびしっとこちらを指差す。人の事指差すなよ。という言葉が浮かんだ。
「お前は情報の重要さを知るべきだ。情報がなければ何もすることは出来ない。孫子だって敵の情報を知ることが大事……みたいなこと言ってたぐらいだからな……確か。あれ、毛沢東だっけ……」
いや、孫子で合ってるけども。なんだか偉そうに語っているが、そもそも、それをお前に教えたのは俺である……。まさか本気で言っている訳では……。
ああ、分かった。
恐らく、お前の負担をともに背負ってやる……みたいなことなのだろう。相変わらず男前なことで。木っ端ずかしいから答え合わせはしないけど、多分あっているだろうと確信があった。こいつはそういう男だ。
思えば俺は、こいつのこういうところが好きなのであった。ラブじゃなくてライクな。

「まあ、何せよ、簡単に視界共有できる手段が確立できたら、だな。メイドさんに聞けばそれっぽいの分かるかもしれないし」
「あー、一応聞くけど、そっちのメイドさんだよな?俺あの子と話したくないからな?」
「分かった分かった」
元からアンジェラさんと話す気だったので、何の問題もない。あの人メイドとしてかなり優秀だろうし、何か知ってるかもという希望があったのだ。
しかしこれから短くない時を過ごすだろうに、そんなにロリメイド嫌いでやっていけるのか?こいつ。

「俺から一つ、お前に頼みたいことがある」
こいつの言うことなら、多少の無理をしてでも聞いてやろうと、心の準備をする。
「何?」
「俺のご主人様になってくれ!!!」
「断る」
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