幽霊ホテルに憑きまして

宗真匠

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プロローグ

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 いつからだったか。
 多分、物心ついた時からそうだった気がする。

 すれ違う人々。目の前を横切って行く動物。そこら中に好き放題生えている植物。
 俺にはそれら全てがはっきりと見えている。

 何を言っているかわからない?
 当然のことだろうって?

 違うんだ。普通の人が見えているのは、俺が見ている世界の半分でしかない。半分は盛った。四分の三くらい。
 残りの四分の一は、本来見えるはずのないもの、見えるべきではないものなんだ。

 頭が潰れてしまった猫。腕があらぬ方向に曲がった青年。実が異常な色に変色した植物。
 俺にはそういう、『死んだもの』が見えてしまう。

 所謂、幽霊ってやつだ。俺にはそれが見える。なんなら触ることも出来る。

 昔は苦労した。何せ、この目で見ているだけでは、生きているものと死んでいるものの区別がつかないからだ。

 歳の近い男の子だと思って話しかけたら、周りの友達には見えていなかった。
 捨て犬だと思って家に連れ帰ったら、両親からは認知されなかった。
 そんなことが度々起こるものだから、周囲の人たちにはよく気味悪がられていた。

 幽霊だと判別できる見た目だったとしても、それはそれで問題だ。
 生きているはずのない状態で普通に話しかけてくるから。ただ単純に怖い。

 だから俺はこの目が嫌いだった。見えてはいけないものが見えてしまうこの目が。
 俺はこの手が嫌いだった。触れられるはずのないものに触れてしまうこの手が。

 俺はこの力を忌むべきものだと思っていた。


 あの幽霊ホテルに就職するまでは。

 彼女──茉白ましろと出会うまでは。
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