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6.キャラ付けは程々に

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 ドキッ!先生だらけの言い訳大会!~ポロリはないよ~。おじさんのポロリとか誰得だよ。
 授業が終わったタイミングを見計らって職員室を訪れた俺は、すぐさま山本先生のデスクへ向かった。
 しかし特に怒られることも無く、次の授業が始まる頃には教室に戻ることが出来た。どうやら三枝先生が裏で根回ししていてくれたらしい。俺の中で三枝先生の評価がうなぎの滝登りだ。

 ただ、残念なことに世界は俺に厳しい。

「昼休み、中庭」

 そんな死の宣告をもたらしたのは当然、昨日無断で学校をサボって怒っているであろう桐崎茜だ。
 授業が始まる直前、俺が断る暇を与えないよう絶妙なタイミングで耳打ちするあたり、絶対怒ってる。
 だって内容が果たし状だもの。『我、午の刻、中庭にて待つ』だもの。行かなかったら焼き討ちされそう。社会的炎上って意味で。

 桐崎のせいで午前の授業は全く集中できなかった。元々聞いてないけど。
 こんな時に限って、時間は無情にも早く進んでいるように感じる。ザ・ワー〇ドッ!時よ止まれ。これで止めても5秒じゃ焼け石に水だ。
 そして時は動き出して、ついに昼休みを迎えてしまった。

 授業中に行かない言い訳を考えるつもりだったのに、ジョ〇ョのことばかり考えて結局何も思いつかなかった。諦めて中庭へ向かった。第一部の最終回でジョ〇サンが親指立てながら溶鉱炉に沈んでいくシーンは何度見ても感動するよな。
 こうなったら仕方ない。さっさと済ませて教室に戻ろう。もしかしてフラグ立ちました?


 この常陽じょうよう高校はコの字型に建つ校舎の関係上、その中心部に中庭がある。
 昼休みといえばお外大好きっ子たちは皆ここにあつまり、それぞれ談笑しながら食事をする。

 かく言う俺もよくここに誘われ誰かと昼食を摂っていた。今は人と関わらないよう適当な場所で細々と食事しているため、ここに来るのは久しぶりだ。そろそろ便所飯デビューの時だろうか。
 辺りを見渡すと、桐崎は木陰のベンチの傍でひっそりと佇んでいた。そこに居るなら座ればいいのに。
 ここまで来たら腹を括る。大事なのは第一印象。笑顔で挨拶!こんにちは!本日はお日柄もよく……絶対動揺してんな、これ。

「来ないと思っていたわ」

 俺を見つけるや否や突き飛ばすような第一声。第一印象最悪じゃないですかね彼女。俺が面接官なら不採用にしようとしてその顔を見て採用してる。顔が良いってお得ですね!

「流石に来るだろ。あんな呼び出し方されたんじゃ逃げ切れない」
「逃げる選択肢はあったのね……」

「まあいいわ」と桐崎はベンチに座る。
 なんとか立ち話で済ませたかったが、ここに座れと言わんばかりにベンチをぺちぺち叩いているので、俺は少し離れて腰を下ろした。

 周囲の生徒の視線が痛い。桐崎はその見た目故、他学年の生徒にもその名が知られている。片やボサボサの髪に死んだ魚のような……いや、むしろ活き活きと目を泳がせる俺。不釣り合いも甚だしいだろう。魚だけに釣りってね!
 以前ならもっとマシな見栄えだったのになー残念だなーこれは主人公にはなれませんわ。

「ここに呼んだ理由、わかるわよね?」

 ええもうすっごく! 今すぐお家に帰って寝たいくらいには伝わってますとも!
 ここで逃げると今の比じゃないくらい怒られそうだけど。激おこスティックファイナ……なんとかくらい。

「昨日は休んでごめん」
「謝ることじゃないわよ」

 謝ってないで態度で示せってことですか? ジャパニーズハラキリですか? 謝っても怒られ謝らなくても怒られる理不尽な社会みたいだなぁ。

「体調が悪かったなら仕方ないわよ。もう大丈夫なの?」
「えっ……お、おう。だいぶ良くなった」
「一限も休んでたみたいだし、あまり無理しないようにね」

 え、何? 何が起こってるの?
 美少女の面を被った鬼が登場するかと思ったら、さらにその面の下に仏が居たんですけど。お面何枚被ってんだよケダ〇ノか。……このツッコミ伝わるのか?
 そんなことより、サボった件に関して呼び出されたわけじゃないなら、俺は何故ここにいるのか。私は誰だ……。

「それだけ……なのか?」
「そ、それだけって何よ!心配したんだから!」

 ほんとにそれだけらしい。なんだか気が抜ける。
 だとしたらやはりここに呼ばれた理由がわからない。体調を確認するだけなら教室でちょっと話しかけりゃいいだけだ。教室で話しかけられても困るけど。

「俺に何か用があったのか?」
「べ、別に用ってほどじゃないけど……」

 なんとも歯切れの悪い答えだ。そのまま桐崎は俯いてしまった。何これ、俺が場繋ぎしなきゃならないの? むしろ今すぐこの場を切って教室に戻りたいんだけど。
 しばらく沈黙を通した桐崎は意を決したように口を開く。

「い、言ったでしょう? あなたが話したくなるまで待つって」
「ああ、確かに」

 それと現状になんの関係が? 何も待ってないと思うんですけど。この子にとって一日は待ったことになるの? 精神と時の部屋在住の方ですか?
 何やらもごもご言っている桐崎の声を聞くため、必死に耳を澄ます。

「だ、だから、その……話したくなるようにもっと仲良くなろうと……思ったのよ」

 なるほど、そういうことですね! どういうことだよ。
 ちょっと待て、せっかく話しかけられる口実が無くなったと思ったのにどうしてこうなったんだ。一日寝たら全て忘れちゃうの? やっぱり精神と時の(ry

「ダメ……かしら?」

 上目遣いで潤んだ目で見つめてくる桐崎。どこでそんな男殺しの必殺技覚えたんだよ。
 普通の男子生徒ならこれでイチコロだろう。瞬間冷却の殺虫剤並に一撃コロリだ。

 しかしお生憎様。相手はこの俺だ。この桐崎の表情でさえ用意された立ち絵の一つにしか思えない。画面の前にいたら一撃コロリだった。ギャップ萌えってやつだな。危ない危ない。
 ダメです、と即答しようとして、先程の三枝先生の言葉が蘇る。

『お前が後悔しない道を選べばいいんじゃねえか?』

 フィクションはフィクションだと完全に割り切ってしまうのは簡単だ。
 しかし、桐崎はこうして勇気を出して俺を呼び出した。彼女なりの心配と、彼女なりの頑張りだ。
 そんな彼女の気持ちを無下にしてしまうのは……どうしても胸が痛む。
 それはきっと後悔だ。

 主人公なんかにはなりたくない。それは今も変わらない。
 だが、それと彼女の気持ちを踏み躙るのは別の話だと思う。
 何がしたいんだって感じだ。本来したかったはずのことと真逆のことを考えてんだから。

 ここで桐崎に優しくするということは、今まで俺が主人公としてしてきたことと同じことだ。これは言わば好感度アップのイベントでしかないんだ。
 そんなことわかってる。理解してんだ。

 二つの相反する感情が渦巻いて、上手く言葉にできない。これがハリネズミのジレンマか。ちょっと可愛いなそれ。

 俺が黙り込んでいるせいで桐崎はしょんぼりした顔をしている。やめてその顔! 俺への追い討ちだから!
 ああもうわかったよ。でも俺は主人公にはならないからな。絶対武道に押し付けて俺は離脱するからな!

「ダメではないだろ。話せるようになるかはわからないけど、桐崎がどうしたいかは桐崎が決めることだしな。桐崎がそうしたいなら俺はいいと思う」
「そ、そうかしら」

 桐崎は俺に顔を見せないように俯く。だけどその横顔だけでわかる。もうめっちゃ嬉しそう。おやつもらった小動物みたいな顔してる。可愛い。結局コロリしてんじゃねえか。

 色々と腑に落ちないが、桐崎が喜んでくれるなら今はそれでいいと思う。
 こんないたいけな少女の望みを誰が否定することができようか。いや、できない。(反語)

「か、勘違いしないでよねっ! 別にあなたに特別な感情を抱いているわけじゃないから! ただ、クラス委員としてはクラスメイトが落ち込んでいるのを放っては置けないだけだから!」

 そう捲したてるように桐崎は言い放つ。
 いたいけな少女ではないな、そこは撤回しよう。
 こんな時でもキャラ付けは忘れない。ヒロインの鑑だなぁ、紗衣とは大違いだ。できればそのキャラをモブの俺じゃなくて主人公武道君の前で披露してほしいものだが。

 要件はどうやらそれで終わりらしい。

 結局昼休みの大半を使ってしまったが、気分的には悪くない。お腹の調子的にはすこぶる悪い。ご飯食べ損ねた。

 次の授業の準備があるとかで桐崎は先に校舎に戻った。
 桐崎の件はこれでおっけー。本当におっけーな状況かは別として、学校をサボった件は特に問題なさそうだ。

 あとは……放課後かぁ。俺にとっちゃこっちの方が重要なイベントなんだが。
 あのイケメンの鉄壁の籠城をどう攻め落とすか。それは午後の授業中にでも考えよう。
 女の子より男のこと考えてるなんて、やっぱりギャルゲーじゃなくてBLゲーじゃねえか。
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