上 下
52 / 58
配送履歴#6 配達物『兵隊』

第46話 結界の中にも亀でお届け

しおりを挟む
 走ることを領主と隊長に告げたユウヒは鞄から魔法石を取り出した。
配達の時に時々使う煙が出る魔法石である。
さらに説明するユウヒ。

「山小屋までは走ればすぐ、ボクについてきて」
「クラッシュヒポポタマスを使うんじゃないのか?」

 ユウヒ達が今いる場所と山小屋の間は百m程度。走ればすぐにつける距離だ。
狼が戦いながらゴーレムを少しずつ位置を変えているので間に障壁もない。
ただ、ゴーレムに見つかってしまえば、爆発石を飛ばされることは容易に想像がついた。
安全のために確認する隊長にユウヒは首を横に振る。

「距離が近すぎて遅くなっちゃうし、乗ってる間にゴリラに見つかっちゃう」
「それもそうか」
「しかし、ついてからは?」
「ついた後は見つかっても大丈夫。じゃあ、行くよ」

 カバを使わないのに納得した隊長だが、その後の行程に納得できない領主。
その様子を気にせずに、ユウヒは出発宣言を出した。
説明が欲しいところでもあるが、時間がないのも事実である領主と隊長は少し不安な表情を浮かべつつ頷いた。

「えい」

 ユウヒが山小屋との間の位置に魔法石を投げつけた。
ヒューンと飛んでいった魔法石はコントロール良く狙ったところに落ちる。

 パリン、ボフン。

 一気に煙幕が広がり、ユウヒは領主と隊長に出発の合図を出して煙の真ん中めがけて走り出した。

「ゴー」

 煙幕がはられているとはいえ、ゴーレムが人間と同じように視界に頼っているかはわからない。
領主と隊長はその不安を抱えてはいたが、ユウヒの大丈夫を無理やり信じて真後ろについて走る。
二十秒ほどで走り抜けると、山小屋に張られた結界のすぐそばまで来ていた。
ユウヒは立ち止まって呪文を唱える。

『召喚:結界亀バリアタートル

 魔法陣が現れて中から亀が現れた。
亀は結界のすぐそばに出てくる。

「ウラシー、日向ぼっこは今度ね」

 鈍く甲羅を光らせて同意を示す亀。
ユウヒは後ろからかけてきた領主と隊長に近づくように声をかける。

「こっちきて」

 言葉に答えて亀の元にいるユウヒの隣に立った。

「ウラシー、よろしく」

 鈍く甲羅を一回光らせると、亀を中心に結界が展開し始める。
驚く領主と隊長。

「兎、カバ、梟ときて次は亀か?サーカス団でもできそうだな」
「バリアタートルまで。召喚士というのは多才なものだ」

 呆れたようにいう二人。
結界が三人を包みこむ頃には煙幕も晴れて、ゴリラ達がユウヒ達の様子に気づいた。
顔と向きをユウヒ達の方に向けようとするが、アサヒの乗った狼がゴリラの顔を蹴りつけて注意を逸らすことを許さない。
その後も飛び掛かって蹴って飛び掛かって蹴ってを繰り返す狼。
ガィンガィンと狼がゴリラを蹴りつける硬い音があたりに響き渡る。

 ゴリラも痺れを切らしたように、足元に爆発石を吐き出した。
パヒュパリドォンと爆発音が響き渡り、ゴリラを中心に爆発が起こる。
しかし狼は爆風にうまく乗って跳躍して山小屋側に距離を取った。

 狼の上に乗ったままアサヒが結界の中にいるユウヒに声をかける。

「もういいか」
「うん、ありがと」
「十秒使うぞ」
「おっけー」

 謎のやりとりをかわして、アサヒと狼は再びゴリラ側に駆け寄っていく。
隊長がユウヒにやりとりの中身を尋ねる。

「今のやりとりはなんだ?」
「ゴリラはアサヒが倒してくれるから大丈夫。早く中に入ろ」
「あいかわらず会話が成立せんな」

 ユウヒの回答に頭を抱える領主だが、早く中に入るべきというのは三人の総意だ。
しかし、山小屋は結界が張られており中には入れないためユウヒの次のアクションを待つ領主と隊長。
ユウヒは亀に話しかけた。

「ウラシー、お願い」

 亀が甲羅を鈍く光らせると、山小屋の結界と重なるように自分の結界を広げていく。
接したところから二つの結界がつながり、トンネルのように通れるようになった。
呆気にとられる領主と隊長をよそに、ユウヒは山小屋の扉の前に歩く。
振り返って、領主と隊長にペコリと頭を下げた。

「お二人を山小屋まで届けました」

 入れないと思っていた結界の内側にあっさりと連れてこられて、二人は苦笑するしかない。

「配達ご苦労、ここからはこちらの仕事だな」

 領主と隊長は扉を蹴りあけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

『ラズーン』第二部

segakiyui
ファンタジー
謎を秘めた美貌の付き人アシャとともに、統合府ラズーンへのユーノの旅は続く。様々な国、様々な生き物に出逢ううち、少しずつ気持ちが開いていくのだが、アシャへの揺れる恋心は行き場をなくしたまま。一方アシャも見る見るユーノに引き寄せられていく自分に戸惑う。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

"寵愛"梟の贈り物

yu-kie
恋愛
梟の獣人は代々、『高貴な方々専門の配達』を家業としている。その一人娘の物語。 アズとジューンの恋が実るまでの物語。no.10~で完結予定。

獅子騎士と小さな許嫁

yu-kie
恋愛
第3王子獅子の一族の騎士ラパス27歳は同盟したハミン国へ使いで来た。そこで出会った少女は、野うさぎのように小さく可愛らしい生き物…否、人間…ハミン国の王女クラン17歳だった! ※シリアス?ほのぼの、天然?な、二人の恋がゆっくり始まる~。 ※不思議なフワフワをお楽しみください。

竜の国の侍従長

風結
ファンタジー
「竜の国の魔法使い」の次の物語です。 世界を滅ぼすことも救うことも出来るコウと、同等の魔力量を具えた存在が東域ーーエタルキアで生まれ、リシェ達はその対処に向かいます。 部下や悪友、ストーフグレフに英雄王と、リシェの交流の輪も広がっていきます。 風竜ラカールラカや地竜ユミファナトラを始め、多くの竜と出会います。ですが、出会えなかった竜(水竜ストリチナ、雷竜リグレッテシェルナ)もちらりほらり。 氷竜の「いいところ」を擦るところから始まる物語は、この度もリシェの心胆に負担を掛けつつ、多くの喜びを齎す、かもしれません。自身の正体、竜との関係、古竜のこと。世界の秘密に近付くことで、自らの願いと望みに心付くことになります。 「千竜王」との関係によって、魂を揺さぶられることになる少年と竜の、成長の物語です。

花咲く都のドールブティック

冬村蜜柑
恋愛
乙女と ドールとドールドレスと 乙女が好きなものすべてを詰め合わせて どこかの世界に存在する「花咲く都」と呼ばれる場所にある、一軒のお店。 看板には ドールブティック茉莉花堂 と言う文字と、白い花を模した飾りがある。 ドールのためのドレスや帽子や靴やアクセサリー…… そういった品ばかりを作っては売っているお店・茉莉花堂と そこで働く少女と ドールと いろんな人たち。 「いらっしゃいませ、茉莉花堂へようこそ」 カクヨム、なろうにもほぼ同じ内容のものを掲載しております。

処理中です...