上 下
4 / 4

第4話 飼い主さんのところに帰りたいにゃ…②

しおりを挟む
「どうしたのメル君? もしかしてあの車、飼い主さんなの?」
「にゃー!」

 車を見て走り出す僕と南ちゃん。狭い路地を走る車を汗だくで追いかけるが、途中で見失ってしまう。すると電信柱を指差して南ちゃんが叫んだ。

「メル君見て! 迷い猫の張り紙だよ! 飼い主さんもメル君を探してるんだよ!」 

 即座に張り紙に書かれた番号に、スマホから電話をかける南ちゃん。

「はい、そうですメル君を保護した者です。ご自宅の近くまでは来ていると思うんですが場所が…。目印ですか? 新聞配達所が右手に見えます」 

 南ちゃんは僕を片手で素早く抱っこすると走りだす。

「行くよメル君!、飼い主さん、すぐ近くにいるんだって!」

 前方に見える十字路を右に曲がる南ちゃん、すると懐かしい宗一郎の顔が目に飛び込んできた。

「にゃにゃにゃにゃ! にゃ~ん!」
「メル~!? 戻ってきてくれたんだな! すごく探したんだぞ!」

 南ちゃんの腕に抱っこされていた僕は、嬉しくて大声で鳴いて宗一郎のほうへ手を伸ばした。宗一郎も喜びに目を潤ませて、僕のほうへ片手を伸ばす。
 
「え!? 犬をたくさん抱っこしてる、この人がメル君の飼い主さんなの!?」

 だが、南ちゃんの一言で僕は我に返った。よく見ると、宗一郎はその腕に3匹もチワワを抱っこしていた!?。しかも足元にも散歩中のチワワが二匹いる!?。

『僕がいない間に…他のに浮気するなんて…!?』

 ショック受けた僕は、差し出された宗一郎の手を払いのけ、南ちゃんの胸に抱き着いた。
 
「なんだ今の!? メルが…俺にプイッとしてペシッとしたんだが! なんで俺よりも貴方に懐いているんだ!? やっとやっと会えたのに!」

 宗一郎が涙目になりながら叫び出す。興奮したのか黒ブチ眼鏡が曇っている。

「えーと…、飼い主さんが犬の臭いをプンプンさせているから、嫉妬じゃないですかね?」
「えっ!?」
 
 僕を抱っこした南ちゃんと、犬を抱っこしている宗一郎が互いに向かい合う。その宗一郎の視線が僕から南ちゃんへと移る。

「もしかして、貴方も猫に感情がある・・・・・と考える派か?」
「当然です! 当たり前じゃないですか!」

 驚いたように南ちゃんに尋ねる宗一郎。すると南ちゃんは、ドヤ顔のいい笑顔で答えた。その笑顔を見て、頬を赤らめる宗一郎。
 僕は宗一郎のその表情を見て、ピンときた。うん、見とれるのわかるよ。南ちゃん可愛いよね。

「見てくださいメル君のこの顔! この世の終わりのような顔してますよ」

 腕の中にいる僕の顔が宗一郎に見えるように、南ちゃんは抱っこしている僕の体勢を変えた。ショックと嫉妬でブスくれている僕の顔を見て、オロオロしだす宗一郎。

「誤解だ! ぎっくり腰の近所のお婆さんに頼まれて散歩させてたんだ、俺は猫派でメル一筋だ! 犬! お前たちは自分で家に帰れ!」

 そう言うと宗一郎は、犬の手綱を放り投げ、眼鏡をクイッと上げる仕草をする。犬たちはトテトテと速足で歩きだすと、三軒先の家の庭へと自分で帰って行った。

「貴方がメルを保護してくれたんですよね、本当に有難うございました!」
「はい、メルちゃんのお世話ができて、幸せでした」

 お礼を言い頭を下げる宗一郎の腕に、僕を手渡す南ちゃん。

「うにゃ~ん!」
「メル~!」

 僕と宗一郎は号泣して抱き合い頬ずりし、手を繋いでクルクル回って再会を喜び合った。

「そうだ、まだ名前を聞いていませんでしたね。ぜひお礼をさせ…」

 我に返った僕と宗一郎が振り返ると、そこには南ちゃんの姿がなかった!?。

 「あれ!? 彼女はどこにいったんだメル?」

 ガーンとした顔になる宗一郎。僕は思わず、宗一郎の腕の中から地面へ飛び降り、一目散に走り出した。


◇◇◇

 夕方の公園のベンチに座っている南の姿。その傍には大きなスーツケースが置いてある。

「声をかけようかと思ったけど、感動の再会を邪魔しちゃ悪いものね。はぁ…メル君がいないと寂しいなぁ…」

 ポツリと呟く南。

「にゃあ~ん!」

 僕は公園に走って行き、南ちゃんを視界にとらえると大声で鳴いた。さっき荷物を公園に置いたままだったから、すぐ向かえば会えると思ったのだビンゴ!。

「えっ、メル君どうしたの!? また迷子になっちゃったの?」
「にゃっ! にゃっ!」

 僕は南ちゃんの腕の中にダイブした。南ちゃんは僕を見て驚いたが、すぐに嬉しそうな顔になり、僕を抱きしめ頬ずりする。
 『迷子は南ちゃんでしょ? 僕のせいで住むとこなくなっちゃってごめんにゃ…、僕を保護してくれてありがとう…』、僕は必死でそう叫ぶ。

 すると、息せき切って走る宗一郎がようやく公園にやって来た。宗一郎が追いつけるように、走る速さを調節しながら、公園まで誘導した甲斐があったよ。
 
 荒い息を吐きながら、僕と南ちゃんを交互に見る、宗一郎。

「あの、ご旅行ですか?」

 南ちゃんが大荷物にスーツケースを持っているのを見て、不思議そうに呟く宗一郎。

「いえ、その…いろいろあって住むところがなくなってしまって…」

 言いにくそうに言葉を濁す南ちゃん。

「申し訳ありません、女性に個人的な事を伺ってしまい、大変失礼致しました!」

 90度にお辞儀し謝罪する宗一郎。すると南ちゃんは、笑顔で僕を宗一郎の腕に手渡した。

「いえ、メル君と離れがたくなっちゃうから…私はこれで」
「あっ…」

 ぺこりとお辞儀をして、キャリーバックを転がして公園を出ていく南ちゃん。その後ろ姿を引き留めたそうにただ見つめている宗一郎。

「にゃー! にゃー! にゃーん!」

 僕は宗一郎の足を、肉球の手でペシッペシッと叩いた。『このままじゃ南ちゃん行っちゃうぞ! ほらお礼にって言って、お茶にでも誘うんだ!』

「あっ、あの…、メルは貴方と離れたくないようです!」

 物凄く緊張した様子で、振り絞るように大声を出す宗一郎。その声に振り返る南ちゃん。

「猫を保護してくれたお礼に、一緒に暮らして頂けませんでしょうか?」

 そう言って頭を下げると、名刺を差し出す宗一郎。

「はい…?」

 一瞬、ぽかーんとした顔になる南ちゃん。

 だよね…デートも何もかもすっ飛ばして、その誘い方はどうかと思うぞ宗一郎。 
 だが、宗一郎の顔が真っ赤なのを見て、南ちゃんは意図を察っしてくれたようだ。みるみる彼女の顔も赤くなる。

「わ、私で…宜しければ喜んで!」 

 そして、なぜか南ちゃんまで敬語になり、90度でお辞儀を返した。

「この度は提案を快く受け入れてくださり、誠に有難うございます!」
「こちらこそ、ありがとうございます!」

 歓喜した宗一郎がペコペコと頭を下げる。南ちゃんも頭を下げ、二人で顔を真っ赤にしてペコペコし合っている。

 うん、なんかもどかしいけど、宗一郎にしては120点だにゃ!
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

お寺にお見合い行ったらふたなりになった話

犬束だいず
キャラ文芸
『――今、何でもすると言ったか……?』 29歳の誕生日、春美は母から僧侶とのお見合い話をもらう。 だが、好奇心からお寺へ向かった春美を待っていたのは、僧侶に化けた人喰いの化け物だった! 必死で抵抗しながら逃げる春美は、何でもするから生きて帰りたいと神に願うが――――。 スケベギャグホラー短編です。   ※スケベ、お下品要素があります。 ※一部化物の残酷描写あり ※主人公は痴女寄り。 何でも許せる人向け。 他サイトにも掲載中。

【NL】志乃ちゃんは、しのぶれど。※R-15

コウサカチヅル
キャラ文芸
 忍者の末裔の少女と、そんな彼女を翻弄し翻弄される優美な青年のラブコメディです。  特殊な癖(ヘキ)を持つ人物が多々登場するため、R-15指定とさせていただいてしまいましたが、全体的にカラッとした描写を目指し、ギャグ要素も多めに執筆させていただきました。よろしければぜひ!

好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 ある朝、クルーザーの中で目覚めた一宮深月(いちみや みつき)は、隣にイケメンだが、ちょっと苦手な支社長、飛鳥馬陽太(あすま ようた)が寝ていることに驚愕する。  大事な神事を控えていた巫女さん兼業OL 深月は思わず叫んでいた。 「神の怒りを買ってしまいます~っ」  みんなに深月の相手と認めてもらうため、神事で舞を舞うことになる陽太だったが――。  お神楽×オフィスラブ。

思い出の喫茶店

りな
キャラ文芸
転校先で馴染めない高2の由香。ある時、昔行きつけだった喫茶店に灯りが灯っているのを発見する。 喫茶店のオーナーのおじさん、小さな少女 ノアとの出会いが由香の日常を少しずつ変えていく…。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~

七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。 冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??

処理中です...