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番外編

決着 2

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 ポルックス公爵の表情は冴えなくて机に座ったまま、目の前で手を組んでて……、渋い表情してる。

「宰相よ」
「……宜しいのですか? 陛下……」
「あぁ。こればかりはどうにもならん」

 隣に立ってた宰相さんと話してて、やっぱり宰相さんも苦い顔してて……それからまた私達の方に視線を向けた。

「ドラコニス大公、シリウス帝督。お二人のお気持ちが変わらなかったこと、大変残念に思います。アルタイル帝国としてはお二人と対立することだけは一番避けたい事柄です。ですので、結果としまして……シリウス帝督の仰っていた、ドラコニス大公国の建国を受理しようと考えております」

 ポルックス公爵も宰相さんも本当に暗い顔してて、苦渋の決断だったんだな、ってのが良くわかる。

「聡明なるご決断感謝いたします。俺としましても、帝国と対立せずに済み、安心しているところです」
「そこで、シリウスよ。提案なのだが……、ドラコニス大公国をアルタイル帝国の藩属国とし、名目上はそなたへの褒美として建国を許したという事にさせてもらうぞ」

 その辺はポルックス公爵が鋭い視線を向けて、釘を刺すように話してる。
 うん。その辺はまあ言われるかなぁって思ってた。じゃないと帝国側も納得しないし、他国や貴族達への体裁ってのがあるからしょうがないよね。

「えぇ。俺はそれで構いません」
「そうか!」
 
 ポルックス公爵も私が了承したのに安心してた。ここでまた反発されるかもって思ってたんだろうね。
 
「ではこれから手続きに入る事となりますが……、シリウス帝督。再度お聞きいたしますが……、本当に建国資金はお支払いできるのですか?」
 
 宰相さんも私を訝しげに見てる。
 仕方ないよね。シリウスとしての私の財産もある程度帝国側は把握してるだろうし、ドラコニス大公家の資産を加味したとしても、言われた数字には全く届かないからね。

「こちらも再度言わせていただきますが、金なら掃いて捨てるほどあります。正確な数字を仰っていただければ即金でお支払いいたします」
「即金……、ですか――」

 私が平然と言った言葉に宰相さんも呆れてるのか、持ってた書類に目を通しながら、また話を続けてる。

「では言わせていただきますが、建国資金で掛かる金額は、十八億五千万G……です」
「…じゅ、十、はちおくッ……!」

 私の隣にいたアルファルドから思わず声が漏れちゃって、がく然とした表情で立ち尽くしてる。

「えぇ。わかりました」

 大体の金額は想定してたから、私はまた平然と答えてる。

「シリウス帝督っ! これだけ膨大な資金をどうやって捻出するおつもりですか!? ここまで話を進めて、資金が足りないでは話になりませんよ!」

 これには宰相さんがキレ気味に話してる。
 確かに普通に考えたら絶対無理だもんね。
 ポルックス公爵もアルファルドも固唾を飲んで見守ってる。

「問題ありません。即金でお支払いいたします」
「シリウス帝督っ?! ほ、本気ですか!?」

 宰相さんとしては、この時点で私が泣きついて来るとでも思ってたのかなぁ?
 見くびられちゃ困るんだけど。
 
「これは余談ですが……俺は幼い頃から手広く商売をしてるので、資金は湯水の如く潤沢に湧いてくるんです」
「商売? ……貴女が、ですか?」
「本当なのか? そんな話は聞いておらんぞ」

 ポルックス公爵も宰相さんも、驚いた顔して私を見てる。

「お二人もご存知の通り、俺は魔界王の呪いにかけられていました。ですが、そうなる前の俺は経営者だったんです」

「「経営者??」」

 二人とも初めて聞かされる話に訳が分からない感じ。
 私としても、ここまで素性をバラすつもりはなかったんだけど、これからの事も考えてここはあえて言わせてもらうよ。

「最近、商会から商団へと格上げされましてね。帝国内では随一の規模ではないかと自負しておりますが……」
「商会から商団へ……? ま、まさかッ!」

 宰相さんは気づいたみたいだね。そんなトコって一つしかないから。

「えぇ。推測通りだと思いますよ?」
「はっ……、はははっ……シリウス帝督……、貴女はやはり油断ならない人だ……」

 腕組んでにっこり笑ってる私を、宰相さんは渇いた笑いと共にまた苦い顔を向けてる。

「どういう事だ、宰相よ」
「…アトリクス、今の話は…?」

 ポルックス公爵とアルファルドはわからない顔してる。アルファルドにもその辺は説明してなかったから。
 怒られそうだったし……。

「恐らく、シリウス帝督が手掛けている商団というのは……アルファ商団、の事ですよね?」
「――ご名答です」

 その場にいた三人とも、驚愕の顔して私に注目してた。

「…アトリクス! まさか、お前がっ……!」
「シリウスよ! 今の話はまことかっ!?」

 ポルックス公爵も立ち上がっちゃって、私を問いただしてきてる。

「宰相殿の仰る通りです。改めてましてご挨拶させていただきます。私はアルファ商団代表兼、創始者でもあります」

 ニコッと笑った私は胸に手を当ててお辞儀をした。その様子を一同呆然として見てる。

「…あ、アトリクス……では、あの時に言っていた頭取の言葉は、本当だったのか……?」
「ん? ま、そーゆう事」
「なっ……!」

 隣に立ってたアルファルドもだいぶびっくりしてる。私を見下ろしたまま、言葉が続いてない。

「なるほど。ようやく貴女の余裕の正体がわかりました……帝督が商団の代表なのでしたら、その総資産は相当なものです」

 宰相さんには今、頭の中フル回転でアルファ商団の情報を出してきてると思う。

「さぁ? どうでしょうね?」

 宰相さんはにっと笑った私を見て、諦めたような表情に変わって今度は長ぁ~いため息を吐いてる。
 
「はぁ…………、そういう事なのですね……。貴女の多才さには感服させられます。これ程恐ろしい人物を敵に回そうなどとお考えだった皇太子殿下が、憐れに思えてきますよ」
「おいっ! 宰相!」

 この発言に立ち上がってたポルックス公爵の方がびっくりしてる。ポロッと本音でも漏れたのか、あの冷静な宰相さんにしては珍しい事だった。

「おっと、これは大変失礼致しました。シリウス帝督、一つお聞きしても宜しいですか?」
「はい。なんでしょう?」
「貴女は、……――違いますか?」

 うーん、だいぶ含みを持たせて来たなぁ。エルナト先生にも同じようなこと言われたような……
 さすがに頭の良い人は言うことが違うよね。これまでの様々な事を繋ぎ合わせて話してるんだと思うよ。

「ご想像にお任せします」

 また笑顔で答えた私に、宰相さんはある程度わかったみたいで苦笑してた。

「そうですか……、わかりました。……では、陛下。手続きに移りましょうか」
「あ、あぁ。良いのか? 宰相よ」
「えぇ。寧ろこれで良かったのかもしれません」

 宰相さんも何だか吹っ切れた顔してる。
 
「シリウスよ。そなたのロイヤルマスターとしての任はそのまま継続だ。ただし、立場は今よりさらに上になる。一国の代表として帝国に仕えるのだから、心してかかれ」
「肝に銘じます」
「大公よ」
「…はい?」

 突然ポルックス公爵に話しかけられたアルファルドは、びっくりしながら返事してる。

「お前は、実に良き伴侶を見つけたな」
 
 笑顔で話してきたポルックス公爵は、皇帝って立場じゃなくて、叔父としてアルファルドに話し掛けてた。

「ッ! …はいっ」

 アルファルドは照れてるのか感動してるのか、私の肩を引き寄せて、俯き加減で返事を返してた。
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