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番外編

決着 1

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 私達とレグルス様達がやりあった日から、私やアルファルド同様にレグルス様とポラリスもアカデミアに来なくなってた。
 噂では皇帝陛下がしばらく謹慎命令出したんだって。
 元々ポラリスも皇太子妃教育の為に皇宮で過ごしてたみたいだから、そのまま二人とも皇宮で謹慎してる。
 なんだか結構大変なことになってるらしいよ。
 皇宮内は慌ただしいって話だし、話し合いの場をもたせる為に皇宮から伝令が来てたけど全部無視した。
 大公家にも皇宮から騎士とか団長クラスの人間まで説得しに来てたけど、丁重にお帰りいただいた。
 私はもう聞く耳持たないから。今さら何を言われても自分の考えは変えない。これまでもたくさんチャンスはあったはずなのに、棒に振ったのは向こうだからね。
 
 あれから二週間くらい経って、皇帝陛下の直筆で皇宮まで来いって書簡が来た。
 ようやくどうするかっていう処遇が決まったみたいだね。

「…行くのか?」
「うん! もちろん!」
「…そうか」

 二人で私室で寛いでた。私を膝の上に乗せた、アルファルドが難しい顔して考えてる。

「準備はしてきたし、お前にも説明しただろ? 大丈夫だ。きっと上手くいく」
「…お前のその自信は、どこからやって来るんだ?」

 不安そうなアルファルドに向かってニコッと笑った。

「そりゃあ確信があるからさ。とりあえず行こうぜ?」
「…あぁ」

 アルファルドの膝の上からぴょんと降りて、支度を始めた。



 馬車の中でアルファルドはずっと腕組んだまま無言だった。
 私はいつもの戦闘服黒軍服に身を包んで、今日は万が一の為に帯剣してる。
 皇宮に着いてアルファルドと並んで歩きながら、通り過ぎる使用人や文官達が私達に向かって次々頭を下げていく。

「「シリウス帝督!お疲れ様ですっ!!」」

 騎士達は立ち止まって挨拶と敬礼で迎えてくれて、私もずいぶん偉くなったなぁって実感してる。
 とりあえずこの数をいちいち受け答えするのも面倒だから、片手だけ挙げて通り過ぎる。周りからの羨望の眼差しが痛いくらい。私って滅多に皇宮に現れないし、特に今は色々あったから、ここに来るのが物珍しいんだろうね。

「皇帝陛下にお会いする。開けろ」
 
 執務室の前までやって来て、門番の騎士に声をかける。

「はっ! 畏まりましたっ!」
「皇帝陛下、シリウス帝督のお越しです!!」

 左右に開かれた扉を潜って、広い執務用の机に座ってるポルックス公爵の前まで歩いた。
 隣には宰相さんも立ってて緊張した面持ちでこっちを見てる。

「挨拶はいらん。よく来たな、シリウスよ。そなたの気は変わらんのか?」

 机の上で手を組んでるポルックス公爵の表情は険しい感じ。

「再三の登宮を無視していた俺の気が変わるとでも?」

 目の前で立ってる私を見てポルックス公爵は盛大にため息を吐いてる。

「やはり変わらんか」
「えぇ。俺が一時の感情で動いたとでもお思いですか? そんな愚かな人間だと思われていたのなら心外です」
「いや、そうではない。初めに言うが、余はそなたと敵対したいわけではない」
「それはこちらも同じです。俺は今でも、カストル皇帝陛下になら忠誠を誓っても良いと思っています」
「ぬぅ……、そうか……」

 歯切れの悪いポルックス公爵に変わって、今度は宰相さんが話しだした。

「以前、シリウス帝督が仰っていた件についての処遇が決まりました」

「それは、有り難いことです。是非、結果をお聞かせ願いたい」

 ポルックス公爵も宰相さんも、あまりいい顔はしてないね。それだけでもなんとなく答えがわかったよ。

「帝国の意見としては……是非とも、シリウス帝督に譲歩をお願いしたいと思います」
「譲歩?」
「えぇ。要するに、これまでの出来事を反故にできないかという事です」
「反故? それはあまりに都合が良すぎるのでは?」
「もちろん、わかっております。代わりと致しまして、今後十年間はカストル皇帝陛下に玉座をお任せしたいと思っております」

 なるほどね。レグルス様をすぐに帝位につけないで、ポルックス公爵をしばらく皇帝の座に座らせて、私を繋ぎ止めておく作戦て事ね。確かにこれなら皇太子を廃嫡しなくてもいいし、大公家を分断する必要もなくなる。

「一応お聞きしますが、十年後はどうなさるおつもりで? 先延ばしにしたところで、俺の気が変わるとでもお思いですか?」
「シリウスよ。どうしても気は変わらんのか? 余はそなたを手放したくない。そなたが帝国に残ってくれれば、他国からの脅威も容易に退けよう。そなたの名声は、もはや帝国だけに留まらんのだ」
 
 まぁそうだよね。SSS級冒険者ってこの世界で私だけだから。
 実は他国からも結構声が掛かってたりするんだよね。熱烈なラブレターもらったりしてるけど、私はアルファルドの妻だからってとりあえず丁重にお断りしてる。
 特にアウリガルの国王のアプローチが結構凄くて、ぜひ王国に移住してくれって何度も誘われてる。一応アウリガルで爵位もあるし、お世話になったからね。
 だから月に一度はアウリガル王国まで出向いてるんだ。

「カストル陛下のお気持ちは大変光栄に思います。ですがその俺や夫を無下にしたのは他でもない、この帝国の皇太子殿下です。初めに裏切ったのはそちらではないのですか?」
「うぅっ……、それは、レグルス独断の判断だったのだ。本人も愚かなことをしたと、非常に反省しておる。ここはどうにか和解できんものか……」

 いや、あのさぁ……、ごめんなさいで済んだら警察はいらないから。
 まずその浅はかな考えが問題なの!! なんでわからないかなぁ……

「ではお聞きしますが……もし俺達があの場で汚名を晴らすことができず、大勢の生徒が観衆している中、皇太子殿下の策略通り汚名を着せられ、大公家の名誉を汚されていたとしたら……それでも何事も無かったことにしろと、そう仰るのですか?」
「……」
 
 貴族にとって名誉を汚されるって、絶対的に一番許せないことなんだよ。ましてや高位貴族や皇族なんて一番体裁を気にするから、それをこんな風に陥れる真似するなんて問答無用だよね。
 ポルックス公爵も宰相さんも言葉が出ないみたいだね。
 もうさ、悪いのは明らかにレグルス様で、向こうもそれが分かってるんだけど、立場的にどうしようもできないんだよね。

「結果だけ見れば皇太子殿下の失敗に終わりましたが、それを許容できるほど俺は寛容じゃない。もし穏便に解決できず交渉が決裂するのであれば、俺が今後取る行動は決まっています」
「はぁ……そうか。……ドラコニス大公よ。そなたはどうなのだ?」
「…俺、ですか?」

 突然話を振られたアルファルドが驚いてる。まさか自分の意見を聞かれるとは思ってなかったんだろうね。でも、私を止められるのはアルファルドしかいないってわかってんだよね。

「…俺は、アトリクスの意見を尊重します。こいつは誰よりも俺を優先し、俺のことを思って決断してくれました。…なので、俺から言うことは何もないです」

 アルファルドが隣にいた私の腰を引き寄せて、堂々と宣言してくれてる。
 私はその姿に感動しちゃった! あのアルファルドがこうしてちゃんと意見して、私を尊重してくれてるのがすごく嬉しくって。
 ポルックス公爵もアルファルドの意見聞いて、またため息をついてた。

「――そうか……」
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