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番外編

レグルス視点 1

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 私は幼い頃から将来を約束されていた。

 周りの人間も何かをする度、褒め称え…それが当たり前だと思っていた。驕っていた訳ではない…と言いたい。

 私には従兄弟がいた。
 同い年でドラコニス公爵家の一人息子、アルファルドのアルだ。
 アルは昔から優秀で、私と同等に周りから賛辞の声を受けていた。魔法の発現も私より早く、魔力測定でもアルの方が私より多くの魔力を保有している事がわかっていた。
 
 私の中で、その事が許せなかった。私は将来皇帝の座に就く。現皇帝である父上と同じで完璧でなくてはならない。
 まだ幼かった私もアルも、年の頃が同じだった為、どうしても周りから比べられる事が多かった。
 私より早めに発現したアルは、成績も優秀で公爵に似て周りからの賛辞の声も多かった。
 だが、それを歯牙にもかけないのがアルだった。
 周りからの重圧もあり皇太子であるにも関わらず、中々発現しない魔法に私も焦りを感じていた。

 そんな時だった。

 公爵夫妻であるアルの両親が当然、不慮の事故で亡くなった。

 初めは何故皆がアルを責めているのかわからなかった。

 だが私は父上や周りの声を聞き、次第にアルが悪いんだと思うようになっていった。

『どうやらご子息を庇われて夫妻は亡くなられたようです…』
『あのご子息さえいなければ、お二人は亡くならずに済んだのに』
『息子などっ、夫妻が健在であればいくらでも設けられたものをッ!!』
『あの息子が悪いっ!アイツさえ居なければっ!!』

 そうか…、アルが死んでいればこんな事にならなかったんだ。
 私より先に魔法が発現したり、私より優秀だったから罰が当たった。皇太子である私よりも秀でてる者がいてはならないんだ。

(アル…、残念だったね?俺を少しでも苦しめたから、こんな目に合うんだ…)

 私はそれを当然だと思った。

 それからはずっと、アルが私の良い引き立て役となってくれた。

『皇太子殿下は素晴らしいっ!魔法も発現し、マナーも学力も完璧ですっ!』
『見て下さい、殿下!周りのご令嬢が殿下を見て頬を染めてますよ!殿下の容姿端麗さは、帝国随一ですわっ!』
『それに比べて、は…』
『シッ!言葉に出してはいけないですわッ!アレはいない者、ですので…』
「みんな、やめないか。私は陰口は好まない」
『っ、失礼致しました…殿下』
『あんな厄介者にまで慈悲を見せるとは、皇太子殿下はどこまでも立派でお優しい方だわっ!!』


 落ちぶれた公爵家。
 一人残され、責め立てられる子供。
 それを陰ながら庇う私。
 私の人生でアルは、最高の引き立て役だった。 
 光と影。
 
 成人するまで、ずっと私達はこの関係を続けていた。

 だが、それが狂い始めたのは、アカデミアに入学してしばらく経ってからだ。

 誰からも無視されていたアルに近づく生徒がいた。
 
 長い歴史のあるアカデミアで唯一、平民で入学を果した天才児と呼ばれる、アトリクスだ。
 彼は入学当初から私ではなく、アルに興味を示していた。特待生とはいえ、平民の生徒など特に気にしていなかったが…、彼はやはり他の貴族の生徒とは違っていた。
 
 平民にしてはそう見えない彼は、ある日、他の生徒から辛辣に責められていた。
 行き過ぎた彼の態度に、皇太子として棘を加え諌めたが…。
 彼は怯まなかった。通常、人とはここまで多くの人間に責められれば、大体が萎縮するものだ。
 だが彼は違った。
 
 この私に言い返し、実にいいタイミングで騒ぎを治めた。
 冷静な判断力と物事を見極める潔さ。
 それからアルと共に行動するアトリクスの動向にも注目していた。

 この頃、失われた四大元素ロストマジックの使い手である、光属性を発現したポラリスと出会う。
 光属性は世界でも類を見ないほど希少なロストマジックだ。皇室にとっては是非とも手に入れたい相手。

 ポラリスと行動を共にし、仲を深めるよう仕向けた。
 私が微笑めば、大体の女性は頬を染め、熱に浮かされるような顔で愛を求めてくる。

『はぁ…麗しいレグルス殿下…』
『レグルス様っ…、なんて素敵なのっ!』
『一度でもレグルス殿下と踊ってみたいですわ…』

 私を拒む者など、この帝国には存在しない。

「レグルス様、こちらに美しい花が咲いてますっ」
「あぁ、今行くよ」

 ポラリスも時間はかかったが、私の手中に入った。
 美しい容姿に侯爵家という後ろ盾。加えて大神殿との繋がりも出来た。

 全ては計画通り。
 
 こちらはもう、問題はないだろう。後は…。

 二学年へと進級する時、兼ねてから目を付けていたアトリクスへと声を掛けた。
 反抗的な彼だが、私が手元に置いていきたい駒でもある。
 平民という身分は差し引いても、彼の持つ頭脳、振る舞い、度量、容姿は捨てがたいものがある。
 
 アルに渡すには勿体ない。
 私が直接声を掛ければ、すぐに色良い返事を貰える。

 そう思っていた。

「俺は、誰かの意見で自分を変えたりしない。自分で見て感じた通りに行動する。…操り人形にはなりたくないからな」

「…目に見えてるものが全てじゃない。お前だってわかってるだろ?いつまで見えないふりしてるつもりだ」
 
 わからないフリをして誤魔化したが…、アトリクスの言った言葉に核心をつかれた気がした。
 
 やはり、アトリクスは危険だ。
 欲しい人物でもあるが、どこか油断してはならない何かがある。
 ただの平民のはずだが心の底まで見通すようなあの瞳が、皇太子である私を威圧する。

 アトリクスに関する事柄は、諜報機関や情報ギルドを通して全て調べ上げた。
 特に問題もなく、過去の犯罪歴もない普通の平民家庭の出。
 
 しかし、そうではない何かを、彼は持ち合わせている。
 
 それは時が経つに連れ、次第に確信へと変わっていった。

 
 
 
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