冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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番外編

新学園生活 2

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 ハァ……これから、壇上に立って講義しないといけない……

 アカデミアの名誉教授になったからって、アヴィオール学長が生徒として通う一方で、週に一度でもいいから特別講義してくれって頼まれた。

 まぁ、断っても良かったんだけど……
 私はあのとき言われた達人の言葉を思い出した。

『歴史は繰り返す…失われた時を今取り戻すのだ』
 
 ってやつ。

 私がそれを聞いて思ったのは……、衰退した魔法文明を蘇らせろって、こと。
 歴史って大体そうだけど、滅亡と繁栄を繰り返してる。今は魔法的な要素でいえば、滅亡しかけてる。
 だから、あの達人は私に魔力操作を教えることで、魔法の衰退を止めたかったんだと思う。
 真意はわからないけど、直感でそう感じたんだ。
 じゃなきゃ、わざわざあんなことしないよね。
 世界を救う為だとしても、あの達人てミティストの中でも裏面にしか出て来なかったし……

 結局裏面て、なんの意味があったのか謎だな。
 だけど、ある意味、今いるこの世界が裏面て思うのは私の気のせいなのかな?

 カツカツ廊下を歩きながら、講堂の扉を開けた。
 
 ちなみに私の特別講義は希望制で、生徒が来るか来ないかはわからない。
 
 ガラッと扉を開けた講堂内は生徒で溢れてた。

 うわっ……! なに……? この人数っ!

 席に入らないくらい人で溢れてて……、たぶん一学年の生徒とかも混ざってる。見たことない顔が揃ってるからね。
 アヴィオール学長やエルナト先生に、リラ副教官とか他の教授とかまで見学しに来てる。

 アカデミアの生徒と教授のほぼ全てが集まったんじゃないかってくらい……沢山の人がいるし。

 上を見上げると、いつもの席にアルファルドが座ってた。
 じっと私を見てて、アルファルドの姿見たらなんだかホッとした。
 
 うん……、よしッ!
 ひとまず、やってみようかな!

 壇上にあるいて、中央にある机の前まで歩いた。
 正面向いて、沢山の人がいる講堂内を見渡した。

「あー……、これから俺が教えるのは、単純な魔力操作じゃない」
 
 とりあえず、黒板もあるからチョークで書きながら説明していく。

「魔力には2種類のタイプがあり、主に攻撃率を上げるものと、防御率を上げるもの。この2種類に分類される」

 もう、周りは固唾を呑んで私の話を聞いてた。

「魔力に……、種類……?」
「初めて聞いたぞ」
「魔力に種類なんてありましたの?」
「どういうことだっ!?」
「防御率と攻撃率…、なんて斬新な発想だっ」
「これがシリウス帝督の強さの秘密なのか……」
 
 講堂内のざわざわが壇上にいても伝わってくるね。もちろん、初めて聞いた話だと思うよ。
 私も達人にあの言葉を言われてなかったら、教えることもしなかったと思う。

「いいか。そもそも魔力と言うのは、ただ闇雲に魔法を放つ段階で使うものじゃない。繊細かつ、緻密に制御させてから魔力を練り上げ、相手の力量を測りながら防御率と攻撃率のどちらを優先するか見極めてから展開させるものだ」

 黒板にカツカツ原理を書いていくけど……、ほとんど生徒が頭を抱えてる。
 言ってる意味がわからないんだよね。

「シリウス名誉教授、質問をしてもよろしいでしょうか?」

 ここで挙手をしたのは、壇上の脇に控えていたエルナト先生だった。
 
「えぇ、どうぞ」

「そもそも、魔力の防御率と攻撃率というものは、どのように分類するものなのでしょうか?」

「良い質問ですね。例えば……、攻撃呪文を放つ時、普通ならば魔力を練ってから呪文を放ち、そして攻撃魔法が繰り出されます。おそらくこの段階で魔力を練る時に、魔力の種類など考えていないと思います。……ですが、ここで攻撃率を上げた魔力を意識的に練り上げて分けることで、同じ攻撃魔法でも飛躍的に威力を上げることができます」

「「「「「――っ!!」」」」」

 周りの皆が驚愕の顔しながら、息を呑む音が聞こえた。
 
 そりゃそうだよね。
 こんなの、これまでの魔法学を覆す発見だもん。
 誰も知らないし、誰にもわからなかったこと。
 
「そもそも……多くの魔法使い達は、魔力の原理を理解していない。必要なのは魔法の強さでも魔力量でもなく、細部まで緻密に魔力操作できる力量ってことです。だがこれは誰にでもできることじゃない。だからこそ早い段階での訓練が必要になるのです」

 私が言いたいのは、みんなのレベルが低すぎるって言ってる。

「おそらく、ここで俺の原理に近い魔力操作が行えているのは、リリー王女だけですね」

 みんなの視線が一気にリリーの座ってる上の席へと向けられてる。
 
「わ、わたくしがっ?」

 これはアヌとの戦いを見て思ってた。
 リリーの魔力操作は抜群で、魔法センスはずば抜けて凄い。
 みんなに注目されても慌てないのはやっぱり王族だよね。

「まず、体内で魔力を練り、絶えず循環させることを日々心がける。その過程で、魔力を攻撃系と防御系とに分ける原理が自ずとわかってくる」

 もうみんな無言で……、たぶん、言われた話の内容も理解できてないと思う。

「はい、名誉教授」

 ここで挙手してのは、アケルナーだった。
 げっ……、と思いながらも、仕方なく聞き返した。

「なんだ」

「言葉で聞いただけでは中々理解しづらいので、シリウス名誉教授が実際、この場で見せて頂くのは如何でしょう」

「……」

 いやー……、実際見せろって。
 コイツってさ、本当嫌なヤツだよね。  
 中央部に座って、にこやかにこっちを見てるけど……、私の実力が見たいってのが見え見えなんだよね。
 ハァ……、本当にさ、アケルナーって苦手だよ。

「……あぁ、いいぜ? 降りてきて、最上級攻撃魔法を撃ってみろよ」
「なっ! 本気ですか……?」
「お前如きが……、俺の体に傷一つでも付けられると思っているのか?」
「っ」

 アケルナーに向けて冷淡な視線を向けると、怯んだのか怖気づいたのか、言葉を詰まらせてた。
 アケルナーは静かに席を立って、壇上まで降りてくる。端と端まで離れて、アケルナーの臙脂色の瞳が私を挑戦的に見てる。

「では、遠慮なく撃たせてもらいますっ」
「あぁ」

 アケルナーが手を伸ばして魔力を練って魔法を唱える。

『インフェルノ』

 火属性最上級攻撃を放って、その炎が私の方に向かってくる。みんなが息を止めて固唾を呑んで見守ってる。

「あ、危ない!」
「シリウス様っ」
「避けてっ!」

 普通こんな至近距離で魔法受けないからね。
 片手を前に出してぽそっと無力化魔法を唱えて、迫りくる炎を打ち消した。……けど、防御率を下げたから魔法の干渉波が起こって、辺りに風が巻き起こってる。

「うわっ」
「きゃあ」
「すごいッ!魔法が消えたっ……!」
「一体、どうやってっ!」

 風が収まって辺りがシーンとして、周りの生徒達が私に注目してる。

「今のは魔法の防御率をかなり下げた。そのせいで干渉波が起き、放たれた攻撃を完全に消すことができていない。……おい、アケルナー。もう一度同じ魔法を撃て」

「……あ、は、はいっ」

 アケルナーも自分の魔法を消されてショックなのか、呆然としてた。

『インフェルノ』

 再び放たれた巨大な炎が私に迫ってくる。
 でも、今度は防御率を上げたから干渉波も起きないで何事もなく炎が消滅した。

「「「「「おおーー!!」」」」」

 拍手と歓声が上がるけど……。別に嬉しくないなぁ……。

「静かに。今、見てもらってわかったと思うが、同じ魔法でもこうした魔力操作で全く威力の違う魔法になる。例えばだ……ファイアボール撃ってもインフェルノ並みの威力になれば、初級魔法しか使えなくても十分実戦で戦力になると言うことだ」
 
 また講堂内がシーンと静まり返ってる。
 
「すごいッ……、すごすぎるっ!」
「じゃあ、私は中級魔法しか到達していないけれど、これを習得すれば最上級まで魔法の威力を上げられるってことなの?!」
「こんな魔法学は聞いたことがない! シリウス名誉教授はあの若さで一体、どんな修行を積んで来たんだ?!」
「フォッフォッフォッ! 素晴らしい魔法原理だのっ! 名誉教授の魔法同様、これまでの魔法学を覆す新たな発見と見解じゃのっ!」

 生徒も教授達も驚きに声を上げてる。

「あー……、ちなみに俺は、卒業するまでの間しか特別講義をするつもりはない。残り計8回だ。場合によっては更に少なくなる。原理を理解できても、習得するのは並大抵のことじゃない。――果たして、ここにいる諸君らがなん人モノにできるか、見ものだな……」

 腕を組んでニッと笑って、挑発的に辺りを見渡した。
 また講堂内が静まり返って、息を飲む声も聞こえてる。

 悪いけど、そんな簡単にできるもんじゃないから。
 死にものぐるいで習得しないと、その内じいさんばあさんになっちゃうよ。
 私も幼少期から魔力循環してて良かったって思ったよ。
 

 
 
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