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星たちの行方 最終話

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 またまた帝国新聞で私とアルファルドの事が書かれてた。
 ドラコニス公爵家が大公家に陞爵された事、シリウスが全ての騎士団を総括するロイヤルマスターになった事、皇宮前での出来事や、私達のやり取りまで…。

 ちょっと…、こんな挿し絵まで載せなくていいんだけど…。
 
 私とアルファルドのキスシーンが細かく描写されてて…、思わず顔が赤くなっちゃう。

 自分の部屋の机でそれらを読みながら、ハァ…ってため息ついた。

 自分の思い描いていた未来と全く違ってる。
 今頃だったら私は…、アルファルドと離れて、アルファ商会の創始者として経営の最前線に立って、寂しさを感じながら色々商品開発したりして、慌ただしい日々を送ってる筈だったんだけど…。

 帝国の英雄、SSS級冒険者トリプルスター剣帝ソードエンペラー、ロイヤルマスター、ドラコニス大公夫人、…。
 
 良くもまぁ、これだけの肩書きが増えたもんだよねぇ…。細かいのまで上げてたら切りがない。でもさ、私が望んでたのは一つだけで、あとは勝手に付け足されただけだし。
 
 ドラコニス大公家は領地も増えて、急速に人口も増え始めてる。
 アルファルドにお願いして、ドラコニス公爵家にいた使用人は全員解雇させた。
 もちろん反発もあったけど、私に逆らえるヤツなんていないから、問答無用で容赦なく解雇させてもらったよ。
 
 大公家になってから、屋敷の全ての管理は女主人である私がしてる。もちろん筆頭侍女長はリタさんに任せてる。
 私が密かに作ってきた町から、成人するまで教育してきた孤児達を大公家の使用人として採用してる。
 
「奥様っ、今日のお召し物はこちらがいかがでしょう?」
「いえ、奥様!大公閣下の髪色である、このブラックの装いこそ奥様に相応しいです!」
「えー…?とりあえず出掛けるだけだから、何でもいいよ?」

 自分の部屋の姿見の前で、ああでもないこうでもないって私専属の侍女達が服を持ちながら口論してる。
 
「お嬢…、そろそろ出ますぞ」

 いつの間にか入ってきたタウリが、呆れたように鏡の前で繰り広げられてる口論を眺めてる。

「んー、タウリ。ちょっと待ってて」
「またですかな…」
「まぁ、好きなようにさせとこうよ。急いでる訳じゃないし」
「はぁ…」

 タウリは冒険者から足を洗って、ドラコニス大公家に従属してる。私の専属騎士としてね。
 アルファルドはあんまりいい顔しなかったけど、私がどうしてもってお願いしたら折れてくれた。

 



 アカデミアも修復が終わってようやく再開した。
 
「えー、改めて皆様にご紹介したいと思います。ご存じの方も多々いらっしゃるかと思いますが…、こちらは帝国の英雄であり、SSS級冒険者として名高いシリウス帝督が、この度アカデミアの名誉教授となり、皆様にご鞭撻して頂くこととなりました」

 いつも上の段から見下ろしてるだけだった壇上。
 初めてここから講堂内を全体的に見渡してるよ。
 なぜだかわからない内に、アカデミアの名誉教授にされてた。
 女としてアカデミアに通えるように、アヴィオール学長と話したんだけど…、私が教授としてみんなに講義するっていう条件で通える事になった。
 肩書きはいらないんだけど…、もう、色々と諦めた…。勝手に何でも付けてくれって感じだよ。

 長い歴史のある魔法アカデミアでも、男と女の制服着て通ったのって私が初めてだと思うよ。しかも平民の生徒から名誉教授にまでジョブチェンジした人間なんて史上初だよね…。

「シリウス名誉教授。改めて皆様にご挨拶をお願い致します」

 私を紹介してくれてるのは他でもないエルナト先生。
 終始いい笑顔で、私が嫌がってるのを楽しんでるのがよくわかるよ。

 え?今さら挨拶なんていらないと思うけど…。

 壇上に立ってるエルナト先生をじと~っと横目で見るけど、先生はニコリと笑うたけでびくともしない。

 ハァ…、とため息ついて、とりあえず真正面を見た。

 目の前にはレグルス様、ルリオン様、ポラリス、マイア…、中央部にはリゲルグとアケルナー…、そして一番後列の上の段にはアルファルド、少し空けてオクタン、アンカ、リリーが座ってこっちを見てる。

 黒い詰め襟にダボついたフード、片側プリーツの膝丈スカートに黒タイツがすごく可愛い。
 まさか自分がアカデミアの女子の制服着るなんて思わなかったから、結構感動してるんだ。
 腰まで伸びた亜麻色の髪は纒めないでそのまま下ろしてる。
 わざついてる講堂内から様々な声が聞こえてきてる。

「シリウスが女で…、平民が英雄…」
「あの、平民が…帝国の英雄だったなんて…」
「信じられないわっ。あのアトリクスが、本当に女性だったのっ!?」
「お、女になってる……。シリウスって、本当に呪われてたんだな…」
「シリウスが、あの平民が…、あんな美人だとはっ」
「確かに、顔はそっくりだ」
「なんでまた、アカデミアに戻ってきたの?」
「シリウス様っ、素敵ッ…」
「男性でも女性でも、やっぱり変わらずカッコいいわっ」

 うーん、賛否両論てヤツ?別にここの人達の評価なんて、全く気にしてないからどうでもいいんだけどさ。
 
 一通り見渡してから一言話した。

「あー…、俺からお前らに言う事は特にない。…以上」

「「「「「──!!」」」」」

 私が話した言葉に、ざわついてた構内もシーンとしちゃってる。

「シ、シリウス名誉教授…。他にはございませんか?」

 隣で紹介してたエルナト先生の顔が引き攣ってる。いや、本当に今さらだし。よろしくなんて言葉もここにいる人間には使いたくない。

「いや、ありませんね」

 しれっとそう言って壇上から降りて、真ん中にある階段を一段ずつどんどん登って行く。

「シリウス名誉教授?」

 エルナト先生が不思議そうに声を掛けたけど、私は戻らなかった。
 途中、レグルス様やルリオン様、マイアやリゲル、アケルナーも階段を登ってる私を見てたけど…、私にはもう一人しか目に入らない。
 
 オクタンがあわあわしながらこっち見てて、アンカが驚いた顔して口開いてて、リリーは面白そうに笑ってる。

 そのまま一番上の段の隅っこまで一直線に歩いて足を止めた。

「隣いいか?アルファルド」

 ニコッと笑って話しかけたら、座って頬杖ついてたアルファルドが顔を上げて私を見てる。

 サラリとした濡羽色の短い黒髪を僅かに揺らしながら、ロイヤルパープルと黄金色のオッドアイを少し細めてる。
 シャープな顎のラインに収まる薄くて形の良い唇に弧を描いて、見惚れるくらい綺麗で愛しそうな笑顔を私に向けてくれた。

「…あぁ」











 ─── 完。


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