上 下
330 / 392

星たちの行方 12

しおりを挟む
'

「ハァ……、ここまで言ってもわからないのか?いい加減呆れるぜ…。要するにてやつだよ。あ、ちなみにこれ、アウリガル国王からの任意書で、俺に全てを一任してくれるって書いてあるからっ!」

 胸元から折り畳んだ任意書を出した。
 それをみんなに見えるように堂々と真ん前に掲げた。

「ち、ちがい…ほうけん??何の事だぁ!!」

 ため息ついて呆れたように言ってるのに、タヌキ候爵には意味がまるで通じてない。これだから権力だけの男って嫌なんだよね…。

「くっ…、はははっ…!これは、やられました!だから初めにわざわざ爵位を放棄したのですね?…アカデミアでの評判は伊達じゃないようです…。素晴らしい策略ですよ、シリウス殿っ!」

 あの滅多に笑わない頭脳明晰の宰相さんが声を上げて笑ったうえに、お褒めの言葉まで頂いちゃった。
 よっぽど珍しいのか、その場にいたみんながその光景を目を丸くして見てた。
 いや、爵位は本当にいらなかったから、ついでに自主返納しただけだけど。
 
「ど、どういう事だ…?」
「訳がわからんですぞ…」
「我らにも、詳しく説明をっ!!」

 我に返ったタヌキ候爵一派のおっさん達が、床に座り込みながら訳がわからない顔で宰相さんに説明を求めてる。

「ですから、先ほど爵位を返納したシリウス殿は帝国貴族では無くなってしまいました。ですが、他国の爵位を持っているので、他国でのご貴族と言う事になってしまいます。そうなりますと、この帝国の法律では裁く事は出来なくなるのです。それが治外法権というものです。…しかしながら、アウリガル王国の法律でならば裁く事はできます。が、その国王がシリウス殿自らに判断を委ねたのですから、誰にもシリウス殿を裁く事は出来ない。…結果的に貴方がたに何をしても、無罪放免と言う事になります」

 宰相さん、長々としたご説明ありがとうございます!
 ま、要するにそういう事。
 これも色々と準備してたときに、保険としてアウリガルの国王陛下に書面を送って了解を取ってた。使うか使わないかわからなかったけど、念には念を入れとかないとねっ!

「な…、なッ!!!そんな…バカなっ!!……そんな事がまかり通るのかぁっ!?」

「普通の貴族ならば多国間で爵位を重複する事は許されません。…が、シリウス殿は冒険者なのです。冒険者というものは帝国のみならず、大陸共通の職業で国籍は関係ありません。加えて、当時シリウス殿は世界が認めたSS級という高位の冒険者でした。その場合にのみ許される特異例です」

 そうなんだよね。私もそこら辺はちゃんと調べた。今までSS級冒険者自体がいなかったからわからなかったけど、一応法には触れないんだよ。
 だからこそアウリガルの国王様も私に爵位を与えてくれたんだし。そこも冒険者が自由だって言われる所以だよね。

「う…あ、あぁ……」
「し、し、信じられん……」
「だ、だがっ!シリウスは、ドラコニス公爵家の夫人という立場なのだぞっ!?」

 まだ諦め切れないのか、おっさん達は床に座り込みながらどうにか私を陥れようとしてる。

「爵位と立場は全くの別ものです。そこは加味されません。法とはそういうものです」

 まだ食い下がってくるタヌキ候爵達に、宰相さんも呆れた様子でバッサリ言い放ってる。

「その方等の行き過ぎた行動のせいで、シリウスという代えがたい貴重な人間を、むざむざと他国の貴族にしてしまったではないかッ!!この罪はヌシらが思うよりはるかに重いぞっ!刑が決まるまで自宅で謹慎していろッ!連れて行けッ!!」

 はい、残念でした。
 もうタヌキ候爵もそこまで言われて返す言葉もないのか、座り込んだまま口を開けてわなわなしてる。

 私に反発してた候爵達がギャーギャー騒ぎながら騎士達に連れて行かれて、ようやく会議場が落ち着きを取り戻した。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

処理中です...