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アトリクスとレグルス 2
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やっぱりその質問だよね。
なんとなくそんな予感はしたんだけど。
ルリオン様みたいに睨むわけじゃないけど、見据えるような眼差しを私に向けてるレグルス様。
少し距離を空けて立ってる私は、レグルス様を見ながら普通に話した。
「なぜ? そんなの好きだからに決まってるだろ?」
「好き、とは……?」
「理由なんてない。アルファルドが好きだから一緒にいる……ただそれだけだ。俺はアイツの友達だからな」
「――!」
レグルス様は大きく目を開いて、驚いた表情で私を見てる。
私がアルファルドと一緒にいるのが気に入らないんだろうけど、レグルス様に何を言われても変えるつもりはないし。
「話はそれだけか?」
「……君は、知らないんだ。彼はっ――」
「いや、全部知ってるぜ?」
「なっ!」
レグルス様の話を遮ってすぐに否定した。
私が平民で何も知らないから、わざわざ話をしてアルファルドから遠ざけようとしてたの?
そんなの甘いよ?
フッと笑って、レグルス様を牽制するように腕を組んだ。
「知った上で一緒にいる。そんなもの、俺にとってどうでもいいことだ。アイツを嫌う理由にはならない」
レグルス様は立ったまま拳を握りしめて私を見てる。
「それとも、お前の持ってる権力で俺を従わせるのか?」
「――! 私は、そんなことはしない……」
貴方の父親である皇帝陛下がそうしたように、平民の私一人言うこと聞かせるくらい簡単にできるよね。
でもそれをしないってことは、レグルス様にも罪悪感みたいなのは残ってるのかな……
正義感の強い男主人公の彼は曲がったことを嫌う。だから当然、アルファルドが悪者だって認識でいると思うんだけど。
「お前が近づくなと命令すれば俺は従わざるを得ない。それはお前が皇子だからだ。……だが、俺の心まで従わせることはできない」
「――」
「それに俺は、誰かの意見で自分を変えたりしない。自分で見て感じた通りに行動する。……操り人形にはなりたくないからな」
ここまではっきり言えばわかってもらえるかな。私は貴方の敵ですよ、って。
レグルス様は私を見たまま何か考えてて、しばらく言葉が出てこなかった。
「……君は怖いもの知らずだ」
「は?」
「身分を言い訳にしたくないが、それでは貴族社会では生き残れない。君ほどの頭脳を持ちながら、そこまで自由に意見できることが不思議で仕方ない」
おっ、ようやく自分の本心を喋り出したね。
まあ貴族社会なら普通に考えて皇太子殿下にここまで言えないよねー。私が平民でも頭は良いからそのくらいの常識はあるだろ、ってことでしょ?
「ハハッ、俺は平民だからな。そんなしがらみは関係ないんだ。俺とお前じゃ住む世界が違う……だからお前の考えは通用しない」
「……君と話していると、私の方が下位の人間にでもなったように感じる。本当に君は平民なのかい? とてもそうは見えない」
「さぁ、どうだろうな?」
「……」
こっちを見てるレグルス様を見ながら、試すように笑顔を向ける。
元々のアトリクスの情報も、スタンピード後の冒険者になる前までしか存在してないし、失踪届けすら出されてない彼は名前も変えて別の人物として生活してる。
一番優秀で有名な情報ギルドであるマタルの情報ギルドでは、アトリクスに関するものは大金積んで全て情報を操作してもらってる。
だからいくら調べても、今の私に繋がる情報しかないんだよね。
「…目に見えてるものが全てじゃない。お前だってわかってるだろ? いつまで見えないふりしてるつもりだ?」
「どういう意味だ」
「さぁな。自分でよく考えろ。他人の意見ばかり聞いてると、自分がわからなくなるぞ」
「それはっ、……私が皇子だからだ。君にはわからない……上に立つ者の苦しみがっ」
「そんなの当たり前だろ? みんな他人だし、基本自分のことしか考えてない。お前にも他のヤツの苦しみなんてわからないだろ?」
腕を組んで、レグルス様に偉そうな意見言ってる私。
アルファルドより私の方が悪役に向いてるかも。これで完全に敵に回せたかな?
レグルス様は拳を握ったまま視線を下に向けて、やっぱり何か考えてる。
私は腕を組んだまま黙ってその様子を見てる。
傍からみたら私がイジメてるみたいな図だよね。
一応気配を探ってるけど、皇子様付きの護衛みたいな影はいないみたいだし……アカデミアだからかな。
違う気配は感じるけど。
「……やはり、いいな」
「はあ?」
「君と初めて話した時から思っていた。アトリクス……君が欲しい」
「何、言ってんだ?」
下向いて悔しそうにしてたのに、ゆっくり顔を上げたレグルス様は私を見て笑ってる。
その笑顔に、怖さすら感じる。
「皇太子である私に、ここまではっきりと自分の意見を言える者はそういない。度胸、風格、知識、容姿……どれも申し分ない。君のような人物こそ私が探し求めていた者だ」
はっ……、演技だったってことか。
この人もなかなかの食わせ者だね。
獲物を狙うみたいな目。
さすが皇族だね……一杯食わされた気分だよ。
「ハハッ! お前、なかなか面白いな……」
「褒め言葉と受け取っておこう。どうだい? 私の側仕えにならないか?」
「断る。悪いが俺が望むヤツは、この世で一人しかいないからな。それはお前じゃない」
「……迷いがないね。益々気に入った。だが、私は簡単に諦めない。まだ時間はある……気が変わったらいつでも声をかけてくれ」
「……」
眩しいくらいキラキラした笑顔を振りまいて、レグルス様はそのまま去って行っちゃった。
やっぱりその質問だよね。
なんとなくそんな予感はしたんだけど。
ルリオン様みたいに睨むわけじゃないけど、見据えるような眼差しを私に向けてるレグルス様。
少し距離を空けて立ってる私は、レグルス様を見ながら普通に話した。
「なぜ? そんなの好きだからに決まってるだろ?」
「好き、とは……?」
「理由なんてない。アルファルドが好きだから一緒にいる……ただそれだけだ。俺はアイツの友達だからな」
「――!」
レグルス様は大きく目を開いて、驚いた表情で私を見てる。
私がアルファルドと一緒にいるのが気に入らないんだろうけど、レグルス様に何を言われても変えるつもりはないし。
「話はそれだけか?」
「……君は、知らないんだ。彼はっ――」
「いや、全部知ってるぜ?」
「なっ!」
レグルス様の話を遮ってすぐに否定した。
私が平民で何も知らないから、わざわざ話をしてアルファルドから遠ざけようとしてたの?
そんなの甘いよ?
フッと笑って、レグルス様を牽制するように腕を組んだ。
「知った上で一緒にいる。そんなもの、俺にとってどうでもいいことだ。アイツを嫌う理由にはならない」
レグルス様は立ったまま拳を握りしめて私を見てる。
「それとも、お前の持ってる権力で俺を従わせるのか?」
「――! 私は、そんなことはしない……」
貴方の父親である皇帝陛下がそうしたように、平民の私一人言うこと聞かせるくらい簡単にできるよね。
でもそれをしないってことは、レグルス様にも罪悪感みたいなのは残ってるのかな……
正義感の強い男主人公の彼は曲がったことを嫌う。だから当然、アルファルドが悪者だって認識でいると思うんだけど。
「お前が近づくなと命令すれば俺は従わざるを得ない。それはお前が皇子だからだ。……だが、俺の心まで従わせることはできない」
「――」
「それに俺は、誰かの意見で自分を変えたりしない。自分で見て感じた通りに行動する。……操り人形にはなりたくないからな」
ここまではっきり言えばわかってもらえるかな。私は貴方の敵ですよ、って。
レグルス様は私を見たまま何か考えてて、しばらく言葉が出てこなかった。
「……君は怖いもの知らずだ」
「は?」
「身分を言い訳にしたくないが、それでは貴族社会では生き残れない。君ほどの頭脳を持ちながら、そこまで自由に意見できることが不思議で仕方ない」
おっ、ようやく自分の本心を喋り出したね。
まあ貴族社会なら普通に考えて皇太子殿下にここまで言えないよねー。私が平民でも頭は良いからそのくらいの常識はあるだろ、ってことでしょ?
「ハハッ、俺は平民だからな。そんなしがらみは関係ないんだ。俺とお前じゃ住む世界が違う……だからお前の考えは通用しない」
「……君と話していると、私の方が下位の人間にでもなったように感じる。本当に君は平民なのかい? とてもそうは見えない」
「さぁ、どうだろうな?」
「……」
こっちを見てるレグルス様を見ながら、試すように笑顔を向ける。
元々のアトリクスの情報も、スタンピード後の冒険者になる前までしか存在してないし、失踪届けすら出されてない彼は名前も変えて別の人物として生活してる。
一番優秀で有名な情報ギルドであるマタルの情報ギルドでは、アトリクスに関するものは大金積んで全て情報を操作してもらってる。
だからいくら調べても、今の私に繋がる情報しかないんだよね。
「…目に見えてるものが全てじゃない。お前だってわかってるだろ? いつまで見えないふりしてるつもりだ?」
「どういう意味だ」
「さぁな。自分でよく考えろ。他人の意見ばかり聞いてると、自分がわからなくなるぞ」
「それはっ、……私が皇子だからだ。君にはわからない……上に立つ者の苦しみがっ」
「そんなの当たり前だろ? みんな他人だし、基本自分のことしか考えてない。お前にも他のヤツの苦しみなんてわからないだろ?」
腕を組んで、レグルス様に偉そうな意見言ってる私。
アルファルドより私の方が悪役に向いてるかも。これで完全に敵に回せたかな?
レグルス様は拳を握ったまま視線を下に向けて、やっぱり何か考えてる。
私は腕を組んだまま黙ってその様子を見てる。
傍からみたら私がイジメてるみたいな図だよね。
一応気配を探ってるけど、皇子様付きの護衛みたいな影はいないみたいだし……アカデミアだからかな。
違う気配は感じるけど。
「……やはり、いいな」
「はあ?」
「君と初めて話した時から思っていた。アトリクス……君が欲しい」
「何、言ってんだ?」
下向いて悔しそうにしてたのに、ゆっくり顔を上げたレグルス様は私を見て笑ってる。
その笑顔に、怖さすら感じる。
「皇太子である私に、ここまではっきりと自分の意見を言える者はそういない。度胸、風格、知識、容姿……どれも申し分ない。君のような人物こそ私が探し求めていた者だ」
はっ……、演技だったってことか。
この人もなかなかの食わせ者だね。
獲物を狙うみたいな目。
さすが皇族だね……一杯食わされた気分だよ。
「ハハッ! お前、なかなか面白いな……」
「褒め言葉と受け取っておこう。どうだい? 私の側仕えにならないか?」
「断る。悪いが俺が望むヤツは、この世で一人しかいないからな。それはお前じゃない」
「……迷いがないね。益々気に入った。だが、私は簡単に諦めない。まだ時間はある……気が変わったらいつでも声をかけてくれ」
「……」
眩しいくらいキラキラした笑顔を振りまいて、レグルス様はそのまま去って行っちゃった。
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