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ドラコニス公爵家救済計画 6

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「お邪魔します!」

 ドラコニス公爵邸に来るのも久しぶりだなー。  
 初めて泊まった時から結構間が空いちゃったし。こんな急に泊まる予定じゃなかったんだけどな……

 もちろんすごく嬉しいし、しかもアルファルドから申し出てくれるなんてビックリしちゃったけど。
 ただポーションの数量が知りたかっただけなのに……いいのかな?

「お疲れ様でこざいます。旦那様、アートさん」
「ご無沙汰してます、ベッテルさん! またお世話になります。いつも急ですみません」
「ほほっ、とんでも御座いません。リタも喜びますよ。アートさんがご訪問されるのを、今か今かと心待ちにしておりましたからな」

 また突然の訪問なのに、朗らかに笑って迎え出てくれたベッテルさん。 
 本当に良い人だよね。私みたいな平民にもちゃんと接してくれるし、リタさんもすごく良くしてくれてる。
 
「ありがとうございます。その、今日も……」
「…また泊まる。…準備を頼む」
「かしこまりました」

 微笑みながら中へと案内してくれて、またアルファルドと一緒に部屋まで足を運んだ。
 
 重厚な扉を開けて中に入ると、やっぱりベッドと机しかない……と思っていたのに。

「あれ? どうしたんだ、これ?」
 
 応接用っぽい品の良いテーブルと、二人掛けくらいのソファーが置いてあった。
 新品みたいで、それだけがピカピカしてて異様に目立ってる。

 部屋の中に入ったアルファルドが、私の腕を引いてそのソファーの所まで引っ張っていってる。

「アルファルド?」
「…座れ」

 促されてアルファルドと一緒に、新品のソファーに腰掛けた。丁度良い硬さで座り心地の良い物だった。

「おっ、すごく座りやすい! もしかして買ったのか?」
「…リタが購入してきた」
「リタさんが?」
「…あぁ。…だそうだ」
「え……? 俺??」

 私のおかげって、何かしたっけ?
 初めに泊まった時はアルファルドにお金渡して、公爵家に手土産を置いて……あ、もしかしてそれかなぁ?

 アルファルドが私の肩を抱き寄せて、自分の方へと近づけてる。

「あっ……、ど、どうした?」

 いきなり距離が近くてビックリする。
 ふわっと石鹸の匂いが香ってきて、アルファルドの胸元に手を置きながらドキドキでいっぱいになる。
 アルファルドって家だと安心なのか、よく話すし積極的に触れてきてくれるんだよね。

「…俺の知らない間に手土産なんて用意して……」
「あー……と、……バレた?」

 おかしいな。内緒って言ったのに。
 でも、アルファルドの部屋に物が増えるのってなんだか嬉しい!
 
「…余計な気を回すな」
「ハハッ、お世話になるんだから手土産くらいいいだろ? あとはどう使おうと勝手だしなっ」

 二人で密着して座っても少し余るくらい余裕がある。これなら今日はここで寝れそう! リタさんナイスっ!!

 リタさんのおかげでアルファルドの貞操が守られて、私も別の寝床が出来て安心した。
 肩を引き寄せて落ち着かない距離のまま、アルファルドは話を続けてる。
 
「…リタにも、必要ないと言ったんだが……」

 いや、悪いけどめちゃくちゃ必要だよ!? 少なくとも私は感謝してる!
 
「俺からしたらすごくありがたいよ! さすがにアルファルドのベッドでお茶とか飲むのは、ちょっと気が引けるし……」

 それにベッドに座ってると色々と想像しちゃって落ち着かないんだよ……
 誰もいなきゃ布団に潜り込んで、アルファルドの匂いとか思う存分堪能しそうだし。
 
「…そう、なのか」
「うん! リタさんに感謝しないとっ」
 
 近い距離でニコッと笑って言うと、アルファルドも納得したのか肩から手を離してソファーに座り直した。
 私も一定の距離が空いて、残念な気持ちもあるけどホッとした。

「…お前がいいなら、いい……」
「ん?」
「…いや」

 よくわからないけど私は万々歳!
 肘掛けも枕代わりになりそうで最高だよ。リタさんいい仕事してくれたね!

「あ、そうだ!」
 
 思い出したように呟いて、隣にいるアルファルドを見た。

「できたポーションの在庫を確認しにきたんだ! 悪いっ、ポーション置いてある部屋を見せてもらっていいか?」
「…あぁ、移動するか」
「うん。よろしく!」

 ソファーから立ち上がってアルファルドの部屋を出る頃には、外も夕暮れ時になってた。
 暗くなると確認しづらいから、急いで案内してもらう。

 空き部屋まで来ると、何もない部屋一面にズラッと並んだ小瓶の数に圧倒される。

「改めて見ると……、スゴイな……」
「…あぁ。毎日作っていたからな」
「そうだな。……さてと、ちょっと数えてくから時間かかるぞ?」
「…その必要はない」
「へ?」

 アルファルドが胸ポケットから何か取り出して、私の前に出してきた。
 受け取って開くと、各部屋ごとに置いてあるポーション、ハイポーションの数が書いてある。

「嘘だろ!? めちゃくちゃ嬉しい!! ありがとな、アルファルド!」
「………いや」

 この量を数えるのは正直大変だと思ってたから、まさか在庫数の管理までしてくれてたなんて嬉しすぎる!
 ニコニコ笑ってアルファルドにお礼を言うと、やっぱりそっぽ向いてた。

 あれ……?
 でも、数えてくれて紙まで用意してあったなら、やっぱり泊まらなくても良かったんじゃ……
 紙を見ながら不思議に思ってチラッとアルファルドを見る。
 アルファルドは大量のポーションに目を移してて……うーん、アルファルドってやっぱりわからない。

 とりあえずポーション、ハイポーションの数はわかった。あとは商会と交渉して、販売にこぎつけたら――
 
 アルファルドからもらった紙を見ながらこれからの事を考えてたら、隣で立ってたアルファルドが話しかけてくる。

「…アトリクス」
「んー……?」
「…これだけの量の回復薬をどうするつもりだ?」
「どうって……、売るつもりだけど?」
「…それは、わかっているが。…そもそも、何故作ろうと思ったんだ」

 紙を見てた顔を上げて、質問してきたアルファルドに目を移した。

「あれ? 言ってなかったっけ?」
「…あぁ、しつこく入れとしか」
「あー……ハハッ、そうだったな!」

 懐かしいなぁ~。私がアルファルド追っかけてサークルに入ってくれって言ってた時。
 私の隣で立って腕組んでたアルファルドを見てから、部屋に大量に置かれてるポーション達に視線を移した。

「一番の理由は、ポーションの常備化だ」
「…常備化?」
「うん……スタンピードの時に思い知らされた。回復薬の圧倒的不足。もし、大昔みたいにポーションがありふれた世の中だったら、救える命がもっと沢山あったはずなんだ……」
「……」
「目の前で消えていく命を少しでも減らしたい。怪我のせいで哀しむ人たちを、一人でも多く救いたいんだ」

 そう……、回復薬がすぐそばにあったら救えた命。
 今すぐの常備化は無理だけど、少しずつでもいいから浸透させていきたいから。
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