上 下
133 / 392

シリウスとアルファルド

しおりを挟む
'

 結局寝ずに帝都まで戻って来た。
 着いた時にはもう昼間の日差しが眩しい時間になってるし。

 仮面の中でふぁ~と欠伸をして、帝都にある冒険者ギルドまで移動した。

 とりあえずタラゼドに報告しないといけないんだよね。早めに終わらせて帰ってすぐ寝たいよ……

 いつもなら帝都の冒険者ギルドなんて人が多すぎるから行かないんだけど、タラゼドが今日は帝都の冒険者ギルドに居るって聞いてたから。

 意外と昼間の方が人も少ないだろうから、まぁいいか……なんて思いながら他の支部より大きな造りの冒険者ギルドの扉を開けた。

 開閉式の扉を押すと一斉に中にいた冒険者達の視線が私に向けられてる。

 んー……、やっぱり結構人が多いな。田舎の支部とは大違いだ。

 テーブルに座っている戦士や、そのへんの壁に凭れてる剣士とか魔法使い、壁に貼られてる依頼書を見てたフードの冒険者まで……
 ザワッと空気が一変に変わった気がする。

 あー……、やっぱりシリウスの姿って目立つよね。

 いつもはムーリフの冒険者ギルドとか、その辺の小さい支部にしか行かないからなぁ。
 帝都は冒険者のギルド本部だから、人も多くて今まで避けてたんだけど……

 ガヤガヤしてたギルド内が一斉にシーン……と静まり返る中、私が歩く足音だけがやけに大きく響いてる。

 私を見ながらひそひそ話してる。

「うわっ!すげー……、SS冒険者ツインスターのシリウスだ!俺、初めて見たっ……」
「流石だな。あの威厳あるオーラはやはり只者じゃない」
「スタンピードの英雄がこの目で見れるなんて、今日はツイてるな……最近だとあまり姿を見せないらしいぞ」
「呪われるって噂は本当なのかしら?」

 他の冒険者がカウンターまでの道を脇に避けて空けていく中、歩いて周りの声を拾っていく。

 ふむふむ、なるほどね~。
 だいたいが好奇心からくるものね。
 ま、最近じゃアトリクスばっかで散々な思いしかしてないからなぁ。シリウスは今じゃ周りの評価が高いから、悪い気はしないよね。

 そのままカウンターまで歩いて行くと、ギルドの受付嬢が私を怯えた眼で見てる。

 こういう反応も久々で逆に新鮮だな~。

 カウンターに紙を置いて辺でサラサラと書いて、目の前で震えてる受付嬢へと渡した。

「え、SS級冒険者のシリウスさんですね……。た、た、只今グランドマスターを呼んで来まぁすッ!」

 バタバタと逃げるように受付の奥へと消えた受付嬢。

 うーん、そんなに怖いかなぁ? 新人ぽい子みたいだから仕方ないか。

 カウンターで腕を組んで待ってると、しばらくして慌てた様子のタラゼドが中から出てきた。

「シリウスっ! 昨日依頼した火炎龍の討伐がもう終わったのか!?」

 出てくるや否や、バカでかい声で話しかけてくるからまた周りの視線が一斉に私へと集まってる。

 ハァ……ちょっと…勘弁してよ……

「か、か、火炎龍!? 嘘だろっ……」
「ど、ドラゴンの討伐をソロで……、しかも火炎龍は最上位種以上の強さだぞ!」
「そういえば辺境でドラゴンが出たって噂があったな」
「やはりヤツは化け物だ……」

 ざわざわと喧騒を感じて、こっちを向いてるタラゼドを見ながら、腕を組んだまま緩やかな殺気を身に纏わせるとタラゼドも気付いたみたいに済まなそうな顔をしてた。

「……っと、悪いな。こっち来いっ」

 ため息をついて中に案内される。 

 しばらく話して、一応証拠みたいな形でドラゴンの一部を持ってきたからそれを出して、とりあえず状況と討伐したことだけ紙で伝えた。
 ベクルックス辺境伯の討伐確認が取れるまで、そのまま報酬の大金はギルド預かりにしてもらった。
 
 ドラゴン討伐だからかなりの大金だね。
 お金に困ってないから、正直必要はないんだけど。
 この討伐だけで100万G。この世界の物価相場にしたら相当な報酬だよ。

「すまんなっ、助かったぞシリウス! お前にしか出来ない依頼だった……また頼む」

 タラゼドとも長い付き合いになってきてるし、借りを作っとくのも悪くないからね。
 でも一応だいぶ渋った後コクリと頷く。タラゼドも珍しくホッしたみたいに笑顔を見せてた。

 要件も済んだから、また嫌な注目浴びながらギルドを出た。
 外の方が人通りが少なくて、でもシリウスってある意味目立つから通りすがる人の視線を集めてた。

 うぅ……、とにかく眠い……早く帰ろう……
 
 もうアカデミアに戻ろうと道端歩いてたら、ギルドを出た脇で声を掛けられた。

「…シリウス卿、ですよね?」
 
 ん……? この声って……

 耳に響く心地良い低音の聞き慣れた声。
 振り向くと長身の男が立ってる。

 フード被ってて分かりづらいけど、この長身の人物って……もしかして、アルファルドぉ!?
 
 フードから長い濡羽色の前髪がはみ出て見えてる。
 腰に帯剣してて、体格も良いし、アカデミアの制服も着てないから見た感じじゃアルファルドだって全然わかんない!
 
 うわっ! こんなところで会うなんて~!! シリウスの姿でなんて会いたくないのにぃーー!

 アルファルドは左胸に手を当てて、私に敬意を示す動作をしてる。
 
「…シリウス卿、貴方にずっとお会いしたかった……」

 頭を下げ、腰も低くして私にお辞儀でもしてるみたいだった。

「…貴方が俺を覚えているかわかりませんが、3年ほど前に一度お会いして、それ以来助けて頂いてる者です」

 ゆっくり顔を上げて、私の方をジッと見てる。
 胸に置いた手はそのままで、アトリクスに見せる態度とはまるで違う様子でスラスラと語ってる。

「…訳あってここでは名乗れません。ですが、ずっと貴方に感謝をお伝えしたかったのです」 

 ど、どうしよう……
 誰よりも良く知ってるし、3年前どころか毎日会ってるんだけどな……

 休みの日だからお仕事だもんね。眠くてそこまで考えてなかったなぁ。まさか冒険者ギルドで会うとは。

 ひたすら謝辞を私に語ってるアルファルド。

 ごめん、アルファルド……徹夜で移動してめちゃくちゃ寝不足でダルいし、ちょっと疲れてるからもう解放して。

 懐から青く染まった紙を取り出して、サラサラと書いてアルファルドに渡した。

「…っ! シリウス卿……ありがとうございます!」

 フードと前髪で顔が隠れてるけど、毎日見てるから雰囲気で分かる。

 アルファルドの尊敬の眼差し。憧れの人に会えた喜びで舞い上がってる感じだよね。
 
 感動してるアルファルドに背を向けて、足を強化し風魔法を発生させて一気にその場から跳躍する。

「――なっ! …シリウス卿っ!」

 呆然と見上げてるアルファルドに片手を上げて立ち去った。もう昼過ぎてるし、仕事帰りかな?

 アルファルド、お仕事お疲れさまっ! またアカデミアでね~。

 アルファルドが見上げる中、帰路に着くべくアカデミアの方へと戻った。
 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

処理中です...