冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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冒険者 火炎龍編 1

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 アカデミアが休日の朝。

 久々シリウスの格好で冒険者ギルドまで来てた。
 たまには冒険者としても活動しないとね。
 
「おっ、シリウス! 久々だなっ」

 掲示板を見てた私に声をかけてきたのは、Aランク冒険者の三人組。
 私もアカデミアにいるから今ではほとんど活動してないから、周りにいた冒険者も好奇の目で私を見てる。
 今では絡まれる事もないけど、逆に尊敬の眼差しで見られるのが居た堪れない。

「あらっ、ホントね!最近全然顔見せなくなったわね?」
「おぅ! 英雄さんよっ、久しぶり。SS級ともなると、依頼は高額になるからなぁ」

 この三人組は嫌味がなくて嫌いじゃない。
 たしか……女性がユーリ、男2人が……うーん、思い出せない。

 どうでもいいことは覚えない主義だからな……
 その点でシリウスは喋らないからすごく楽。
 アトリクスの時みたいに変に絡まれないし、一応准伯爵で帝国の英雄として通ってるから、今では言いがかりつけてくるやつもいない。

 とりあえず頷いて、また掲示板に目を移す。
 冒険者としての私は他人と馴れ合うつもりはないから、自分から誰かと親しくなろうなんて思わない。
 
「おっ、シリウスか!」

 声を掛けられたのはタラゼドだった。
 グランドマスターになってからは色んな支部や本部を回ってて、冒険者ギルドで会うことは少なくなっていた。
 ラムの事件以来、本当に久々に会う。

「久しぶりだな。丁度いいろ…ちょっと来いよ。お前にピッタリの依頼がある」

 カウンター越しに手招きされて、それだけでも注目の的になってる。 
 
 うぅ……また面倒事押し付けられるの?
 
 行くのを躊躇してると、タラゼドはカウンターを乗り越えてこっちまでやって来た。

帝国お上からの依頼だ……」

 近づいてボソッと呟かれた。
 
 やっぱりね……最悪。

 首を振って拒絶の意思を示す。でも、タラゼドも引かなくて私を睨みながら言葉を続ける。

「とりあえず話だけでも聞けって。着いてこい……」

 ジッと仮面越しにタラゼドを見て動かないでいると、タラゼドも睨んだまま私を見据えてる。

 お互い覇気で牽制しながら、周りの冒険者達は緊迫した空気に固唾を呑んで見守ってる。

「いいから来いっ。悪い話じゃない」

 タラゼドが緩い笑顔を見せて私の警戒を解こうとしてる。
 帝国からの依頼なんてしょうもないヤツしかない。わかってるけど、タラゼドの立場もあるから聞かないわけにいかないんだよね……

 仕方なしに止まっていた足を進めた。
 タラゼドも歩き出し、カウンターを超えて上部に位置するマスター部屋へと移動した。


「すまねぇな。お前さんを利用してるみたいで俺も気が引けるが……お上がうるさくてな……」

 案内されたソファーに座って、対面でタラゼドの話を黙って聞いてる。
 
「お前さんが貴族になっても冒険者辞めないでいてくれて助かるぞ。ベガも同様にな」

 応接室の一人がけソファーに座って姿勢を崩してるタラゼド。
 この世界の冒険者は成り上がりを目指してるヤツが多いから、私とかベガみたいに爵位を賜るとそのまま冒険者稼業から退くヤツが大半なんだ。
 もちろん国の招集には応じるけど、冒険者自体で活動すること自体しないから、タラゼドとしても貴重な戦力を失わないで感謝してるのかもね。

 ま、確かに准伯爵になっても冒険者なんて続けるヤツいないよね…。国から名誉爵位には年ごとに報奨もかなりの金額出るし、冒険者なんてやらなくても遊んで暮らしていけるよ。

「実はお前さんに頼みたいのは――」



 ◇



 タラゼドの話しを聞いた後。
 アカデミアもあるから色々準備して、次の週の休日に外泊届けを出して早速目的地に向かった。

 依頼内容は、最近出没したドラゴンの討伐。

 帝国と隣国の境に位置するファーニス湿原。
 ここに数ヶ月前から火炎龍が住み着いて隣国との取引を妨げているらしい。

 火炎龍はドラゴンブレスを口から吐き出し、知能もかなり高い。最上位種より強いモンスター。
 普通はドラゴンて棲息地から離れないんだけど、はぐれドラゴンなのか様々な冒険者に依頼したけど討伐は失敗に終わってるみたいだね。

 デュランダルもちゃんと持って来たし、流石にドラゴン討伐するのに普通のロングソードじゃ太刀打ちできないから。

 風魔法と身体強化を繰り返し、森や山を走り抜けてファーニス湿原まで向かってる。

 普通なら馬車で一週間の道のり。
 悪いけど2日しか休みないから、最高速度で移動する。ポーションとハイポーションを何本も常備してるから、惜しみなく体力も魔力使える。
 
 山間を抜け、山の頂上の一番高い木に登り風魔法を発生させる。
 足を強化し身体に風魔法を纏わせると、空を飛ぶほどの飛距離で移動する。
 もうこの補助魔法も極めたから、一回の跳躍での飛空距離がすごいことになってる。
 飛空魔法って言ってもいいくらい、空を飛び続けて鳥にでもなってるみたい。
 真下には豆粒ほどの人影や街並に屋根、小さく見える川や、広大に広がる海。

 うわー……気持ち良いな~! 空飛んでる……!

 自分を抜けていく風が気持ちよくて、鳥や怪鳥も追い抜いて風圧を受けながら空を駆け抜けていく。

 モンスターのいる平原や岸壁や地層の目立つ岩肌の山脈を通り過ぎていくと、ようやく帝国の国境付近へと降り立った。

 ふぅー……、意外と早く着いた……約半日かな?
 だいぶ移動速度も上がったなぁ。ポーションのおかげでもあるけどさ。

 国境警備をしてる砦に足を向ける。
 ここを管轄してる領主はベクルックス辺境伯。
 エルナト先生とは遠い親戚関係にあるみたい。
 国境には目視できないくらい長ーく続く外壁が立ち、その中心部分には検問所が設置されてる。

 そこで門番をしている番兵の元まで歩いていく。

「何奴だ!!」
「怪しい奴め、通行許可証を出せ!」
 
 私を威嚇するように左右から槍を突き付けてくる。

 まっ、これは当然の反応だよねー。
 辺境でまで私の噂なんて届いてないだろうし。

 帝国の紋章の入った依頼者と、冒険者ギルドのグランドマスターであるタラゼドの印章の押した許可書を出す。 

 それを見た番兵は慌てて槍を横にしまう。
 
「こっ、これは!! シリウス准伯爵閣下! た、大変失礼致しました!!」
「先の英雄シリウス卿で有られましたか……申し訳ございません! 無知な我らをお許し下さい!!」

 いや、仕方ないよ。こんな不気味なヤツがいきなり現れたら、そりゃ警戒するよね。

 懐から出した紙にペンでサラサラと要件を書いていく。

 頭を下げている番兵にそれを渡す。

「――火炎龍の討伐ですね! 帝国の英雄に来て頂けるとは有り難い限りっ!! 早速辺境伯様のお屋敷まで案内させて頂きます!」
「我々の仲間も何人も殺られました。どうか……どうかヤツの討伐をお願い致しますっ!!」

 結構な被害が出てるって聞いてたし、涙目で話してる番兵の表情見てるだけでなんとなくわかるよ。

 火炎龍ってなるとかなりの強さだからね。私も手こずると思うよ。一日で倒せるかな……
 一応エルナト先生には状況を説明しといて、休日中に戻れるかわからないとは言っておいた。

 それから番兵が馬車を出して辺境伯邸まで案内してくれる。

 街自体は辺境にある場所だからそれほど人口もいないし、のどかで景色も綺麗な場所だけど、街の至るところに焼け焦げた後や、何かに掴まれて破壊さられたみたいな家屋がかなりあるなぁ。

 路上には怪我人が座り込んだりしてて、被害の深刻さが伺える。

 馬車に乗って揺られる、30分くらい。
 丘の上にある、ベクルックス辺境伯邸に着いた。
 赤い屋根にクリーム色の外壁が美しい横長の建物なのに、こちらも壁に幾つかの傷跡が目立つ。屋根の一部も倒壊していて修繕工事をしてる。
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