上 下
127 / 392

アルファルドとポラリス

しおりを挟む
'

「あれ? アルファルドは?」

 朝、講堂に入ってきたのに、いつもの席にアルファルドがいなかった。
 アルファルドは徒歩通学だから、いつも朝早く着いてる。だから私もそれに合わせてなるべく早めに講堂に入るようにしてる。
 オクタンがゆっくりだからどうしても遅くなっちゃうんだけど、置いてくと泣きそうな顔するから結局待っててあげてるんだ。

「あ、んと……、どこだろ?」

 いつもいるはずのアルファルドがいない。
 それだけで私はものすごい不安に駆られた。
 どこで何してようとアルファルドの勝手なんだけど、自分の把握できない何かがアルファルドの身に起こってると思うだけで、居ても立ってもいられなかった。

「ちょっと探してくる。オクタンは座っててくれ」
「ん…うん。んと、心配なの?」
「もちろん! 当たり前だろ?!」

 オクタンへの返事も半ばで、走って講堂から出た。
 まだ人もまばらな朝の学内を走って探してる。
 気配探査をアカデミア全域に拡げて、アルファルドと思わしき人物の気配を急いで探った。

 ん……? いつもの裏庭。
 アルファルドが本読んでる場所に、2つの気配があった!

 うそ……、まさかっ……!!

 私は周りに誰もいないのを確認してから、足を強化して一気にその場から跳躍した。

 木と木の上を飛び移り、ものの数秒で裏庭まで着いた。

 ここは人気のない裏庭。
 木々が沢山並んでいる場所。そこの一角でアルファルドはいつも本を読んでる。

 木の上から降りて白いレンガ道を歩いていくと、いつもの木の下でアルファルドが本を読んでた。
 でも、いつもと違うのは、そこに女の姿があったこと!

 しかもあの目立つ白髪は、ポラリスッ!!

 その光景を目にして、私は強いショックを受けてその場から動けなくなった。

 今まで、一生懸命妨害してきたのに……やっぱりゲームの強制力には抗えないの?
 
 身体が震えて力が入らなくなっちゃった。 

 だめ……このまま、ポラリスの事好きになっちゃうの?
 せっかく仲良くなって、距離も近づいたと思ったのに……、やっぱり私より、ポラリスを選ぶの?

 そこまで考えてハッとした。
 選ぶとか間違ってる。
 私は男で、アルファルドの友達で……、何を言ってるんだろう。
 例えアルファルドがポラリスに恋しても……ゲームみたいに振られても、闇堕ちしないように支えてあげればいいだけなのに……

 ポラリスじゃなくても、他の女の子と一緒にいる姿を見たくないなんて。
 ずいぶん欲張りになっちゃったな。

 そのままいつもみたいに、何事もなく話しかければいいだけなのに、なぜかそれができなかった。

 数メートル先の建物の影で突っ立ったまま、2人がいる方向をただ見てた。

「そちらの本は初めて拝見致しました。ロストマジックに興味がおありなんですか?」
「……」
「ご存知ないかと思いますが私は光属性で、自分の魔法について詳しく知りたいと思っているんです」
「……」

 聞きたくないのに、会話が耳に入ってくる。
 
 そのうち始業開始前の予鈴が鳴った。
 なに話してたか全然頭に入ってこなかったけど、ポラリスは予鈴の音でアルファルドとわかれて講堂まで戻って行った。

 あ……もう、行かなきゃ……
 
 普通の友達なら、こんな場面に遭遇したら笑いながら冷やかしたりしなきゃいけないのかな。
 
「…アトリクス? …どうした……」

 立ってた後ろからアルファルドに話しかけられて、ビクッと身体が跳ねた。

 やだっ……、こんな心の機微を悟られたくない!
 
「よっ、こんなとこにいたのか? 探したぜ」

 振り向いて無理やり笑顔を作って、普通にアルファルドに話しかけた。
 アルファルドを見る限り、普段と変わりなさそう。

「…そうか」

 今の接触でポラリスに惚れちゃったかな。

 長い前髪のせいで表情がわからないから、微妙な変化までは読み取れないよ。
 
「……お前が、女の子と一緒にいるなんて珍しいな……」

 どうしても気になったから思い切って聞いてみた。

「…見てたのか」
「いや……、たまたま目に入って……」
 
 思いっきり見てたけど、そんなの知られたくないし、誤魔化すみたいに俯いた。

「………一緒にいたわけじゃない」

 なぜかすごく不機嫌そうに話してる。一見嫌そうに見えるけど。
 でもさ、アルファルドってそっぽ向いたりして分かりづらい表現するから、もしかしてこれも照れ隠しの一つかもしれない。

「――ああいう子が好みか……」
「…は?」

 俯いてたけどバッと顔を上げて、問い詰めるみたいに直ぐ側にいたアルファルドを見つめた。

「お前は、ああいう子が好みなのか!?」

 こんなの全然冷やかしにもならない。ただのヤキモチだよね……
 でも確認しないとどうしても治まらなかったから。

 立ったままアルファルドを見上げて、答えてくれるのをひたすら待ってた。

「…気になるのか」
「うん!」

 頷いて食い気味に返事を返す私。
 そんなの即答だよ! アルファルドのことなら何でも知っときたい!

 どんな答えが返ってくるか怖くて仕方ないよ。
 眉尻を下げて不安げな瞳で、ジッとアルファルドを見つめた。
 ここでポラリスに興味があるなんて言われたら、立ち直れないかもしれない。
 
「…そんな顔、するな」

 アルファルドの片手が私の頬に伸びてきて、包み込むようにそっと触れてきた。

「っ!」

 びっくりして目を大きく開けたまま固まってしまう。
 
 な、な、な、なに!?
 どうして急に触ってくるの?!
 アルファルドって本当にわからない……私の心を弄んでるとしか思えないんだけど!

 でも、アルファルドが触れてくれた瞬間に、心のモヤモヤが跡形もなく吹き飛んじゃった。 

「…あの女が勝手に話してきただけだ。…好みとか、関係ない」 

 前髪で表情が見えないから、どんな顔してるかわからないけど、声の感じだと普段と変わらないように思う。
 
 あの女って……主人公ヒロインに対してヒドい言い方だな。
 そう思う反面、ポラリスに興味無さそうで凄くホッとしちゃった。
 
 アルファルドって手が大きいし指も長いから、私の顔もすっぽり包まれて温かい。

「そっか、ならいいや……」

 思わずポロッと本音が漏れる。
 何がいいのか自分でもわからないや。

 うれしさで笑みが溢れて、安心したように瞳を閉じて、アルファルドの温かい手の感触を堪能してた。
 
「…アト、リクス……」

 ポツリとした呟きに、うっとりと閉じてた目をゆっくり開けてアルファルドの方を見た。

「ん……? どうした?」

 立って私の頬に触れたまま、アルファルドが何か言いたそうに口を開いたのに、また閉じて考えてるみたいだった。

「……いや。…早く行かないと、遅れるぞ」
「あっ、そうだった。やべぇ! 急ごっ!」

 アルファルドから離れて急いで講堂へと向かった。
 後ろからアルファルドもゆっくりとついてきてる。

 とりあえず、ポラリスにはまだまだ恋する感じじゃないのかな?
 それがわかっただけでも一安心だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

鬼畜なエロゲ世界にモブ転生!?このままだと鬱ENDらしいので、ヒロイン全員寝取ってハピエン目指します!

ぽんぽこ@書籍発売中!!
ファンタジー
「助けて、このままじゃヒロインに殺される……!!」 気が付いたら俺はエロゲーム世界のモブキャラになっていた。 しかしこのエロゲー、ただヒロインを攻略してエッチなことを楽しむヌルいゲームではない。 主人公の死=世界の崩壊を迎える『ハイスクール・クライシス』というクソゲーだったのだ。 ついでに俺がなっちまったのは、どのルートを選んでも暗殺者であるヒロインたちに殺されるモブキャラクター。このままではゲームオーバーを迎えるのは確定事項。 「俺は諦めねぇぞ……トワりんとのハッピーエンドを見付けるまでは……!!」 モブヒロインの家庭科教師に恋した俺は、彼女との幸せな結末を迎えるルートを探すため、エロゲー特有のアイテムを片手に理不尽な『ハイクラ』世界の攻略をすることにした。 だが、最初のイベントで本来のエロゲー主人公がとんでもないことに……!? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

処理中です...