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二人の想い 11

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 私の背中にアルファルドが手を回して、そのまま抱きしめられた。

「…どういう事だ……?」

 もう何度も抱きしめられてるけど、いつされてもドキドキする。なのに、ものすごく安心する。

 でも、ダメなんだよ……、アルファルド。
 
「…俺、アカデミアを卒業したら遠くへ行くんだ……」

「――! …なぜ……だ……」

「元々そのつもりだったし……お前が幸せになったら、俺の役目は終わりだから。これ以上……、お前の側にいる事はできないんだ。俺がいる事は、これからのアルファルドの妨げになる」

 こうしてアルファルドの腕の中にずっと居られれば、どれだけ幸せかって何度も考えたけど。

 元々アトリクスって言う人物は別にいて、でも私じゃなくて…卒業後までアトリクスでいることなんてもう出来ない。

 それに全てを偽って嘘で塗り固められたアトリクスは、アルファルドの隣にいる資格なんてない。
 裏切られることを一番嫌ってるこの人を、これ以上騙したくない。
 だからいつまでもこのままじゃ駄目なんだ。

「…妨げ……?」

「うん。お前にも縁談だって沢山きてるだろ。俺がいると、お前はいつまでも周りを見ようとしない。公爵家存続の為にも、俺はもう居ない方がいいんだ……」

 私もアルファルドの背中に腕を回して抱きつくと、今しか味わえない温もりを心に刻みつけてる。
 アルファルドもさらに力を込めて抱きしめた。

「…お前が……いなくなったら、俺はまた不幸になる…」 

「そんな訳ないだろ? 俺がいなくても、アルファルドはもう大丈夫だ…」

「大丈夫なわけないだろっ!!?」

「っ!」

 驚きに体が跳ねた。

 びっくりするほど大きな声で言われて、顔を上げるとアルファルドの綺麗な顔もすぐそこにあって、すごく苦しそうな表情で私を見下ろしてた。

「アルファルド……」

「…何故、今更俺を遠ざけるっ……、俺の事が嫌になったのか……?!」

「違うっ! それは絶対にない!」

「…お前がいなくなれば、俺が他のヤツに目を向けるとでも思ってるのか?! …俺が……、本気で縁談なんて受け入れると思っているのか!?」

「……っ」

 ロイヤルパープルと黄金色の瞳が、怒りと共に苦しげに歪みながら私を見てる。

「俺を非難し公爵家が堕ちていく様を、喜んで嘲笑っていた連中なんて到底受け入れられない! …地位を取り戻した途端、手のひら返して寄ってくる奴らなんか信用できるか!!」
 
「……アル……ファルド……」

 抱きしめた手が片方私の頬に伸びてきて、そっと包み込んでくれる。

「…俺はずっと独りだった……。誰からも見向きもされず、居ない者として扱われていた……。話し掛けられる事も、存在する事すら拒絶されていた」

「……」

「…そんな俺の名を呼び、頑なだった心をお前は溶かした……。周囲から様々な非難を浴び、どんなに責められようと立ち向かい、ずっと俺に笑いかけ……何もない俺を受け入れてくれた……」

「……っ」

「アトリクス……。お前が俺を孤独と貧困から救ってくれた。…人知れず朽ちていく筈だった俺を、お前だけが救い出してくれたんだっ……」

 アルファルドの必死な言葉が物凄く嬉しくて、切なくて……胸がズキズキと痛む。
 
 今度はボロボロと涙が溢れてきて、止めることなんてできなくて、アルファルドの胸で思いっきり泣いた。
 
「っ……、ふ、ぅ……でも……でも……、俺は、……男で……平民、で……ずっと、お前を……」

 ――騙してる。

 名前も、身分も、性別でさえも偽って、ここにいる。
 ただアルファルドを救いたいってだけで。

「男だろうが何だろうがそんなものは関係ない。俺から離れようとするな!! …お前のいない人生なんて、あの地獄に戻るのと同じだ! …もう二度と、大切なものを失いたくない……」

「……っく、……俺っ……」

「アトリクス……、お前が好きだ」

「――っ! アル……ファルド」

 泣き顔なんて見られたくないのに、アルファルドの手が私の顔を強引に自分の方へと向かせる。

「好きなんだ。…お前を、愛してる」

 そのままアルファルドの整った顔が近づいて、反射的に目を閉じた。
 ほのかに柔らかくて温かい感触を自分の唇に感じて、高揚と高ぶりと歓喜に身体が震えてる。

「んっ……!」
 
 抱きついてた背中の制服をギュッと握り締めた。
 深く重なった唇からすぐに舌が入ってきて、私の全てを満たしてくれる。
 もう数えるのも馬鹿らしいくらい、何度したかわからないくらい心地良い口づけ。 
 でもアルファルドにキスされてるってだけで嬉しくて、心も身体も私の全部がアルファルドを求めてるのが良くわかる。
 
「はっ、……ん」

「…アトリクス……」
 
 一度離された唇が角度を変えてまた深く重なった。

「ふっ……、は……」

 形の良い薄い唇の感触が物足りなくて、薄っすら目を開けて唇を押し当てまたキスをせがんだ。
 
「ん……」

 駄目だってわかってる。

 アトリクスは男で……平民で……

 これからのアルファルドにとって、アトリクスっていう存在は邪魔になるだけ。

 このままずるずる先延ばしにしても、状況は変わらない。

 頭では理解してるのに、心と身体がそれを平気で裏切るんだ。
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