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イベント鑑賞 2

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 ローブを脱ぐと木刀と胸当てが渡されて、広い訓練場のど真ん中へと立たされてる。

 周りで見てる教員とか生徒とか素人相手に止めろって言ってくれるかと淡い期待を抱いていたけど、この周りにいる人達もアケルナーと同じで戦闘バカみたいだね。
 いいぞー、やれやれーって感じで騒いじゃってるし。
 
 私よりかなり離れた場所に、同じくアケルナーも木刀を持って構えてる。
 
 もうっ!みんな、少しくらい止めてくれてもいいのに!

「お互い正々堂々怪我のないように、では始めっ!」
 
 私は構える事もしないで、木刀を持ったままダラリと腕を下げてた。
 アケルナーには悪いけど、本気でやり合うつもりはないからさ。
 
 木刀を持ったアケルナーは素早い走りで私に向かってくる。そのまま地面を蹴ると木刀を頭上に振り上げ、一直線に私に振り下ろしてる。

「はあぁッ!!」

 木刀が空を切る音が響いてて、これは当たったら痛いだろなぁって考えてた。

 他の生徒達が見守る中、その瞬間だけ時が止まったみたいにとても静かだった。

 アケルナーの木刀が私の頭の数ミリ手前辺りでピタッと止まって、構えたまま下を向いてる。

「…何故、です…」
「……」
「何故、戦わないんですか!?」

 憤りを抑えられないアケルナーは不満を私にぶつけてる。構えてた手を下ろして顔を上げると、臙脂色の鋭い瞳に怒りを称えて私をキツく睨みつけてる。

「こっちはお前とやり合うつもりなんて、これっぽっちもないからな」
「…ふざけているんですか!?僕が止めなければ大怪我をしてましたよ!!」
「そんなの、俺の勝手だろ?」

 私は持ってた木刀をポイッと地面に投げると、両手を挙げた。

「審判、俺の負けです」
「…あ、…あぁ…勝者、アケルナー!」

 わぁーと周りの生徒から歓声が上がるけど、アケルナーは全く納得してないみたいでギリッと歯ぎしりしてる。

「こんなにスッキリしない勝利は初めてです!勝った気がまるでしない!」
「ハハッ、でも勝負は勝負。お前の勝ちだ…」
「……」

 アケルナーが無言で突っ立ってる脇を通り過ぎる。
 胸当てを外すと置いてあったローブを着て、そのまま来た方へと歩き出した。

 それなのにアケルナーは、またしつこくその背後から声をかけてきてる。

「…アトリクス君。やはり君は只者じゃない」

「ハァ……俺、ただの平民だし」

「逃げることも怯えることもせず、僕の剣をただ無防備に受けようとするなんて、普通の人間にはできません…」

「……じゃあな」

 後ろからの圧が凄かったけど、振り向かないでそのままその場を後にした。



 ◇


 
 アカデミア内の庭園を歩きながら寮へ向かってる。

 うーん、何かしばらくイベント鑑賞はいいや…。面倒事に巻き込まれるのはゴメンだし。
 正直そこまで興味はないんだよね。ただ進行具合を確認したかっただけだし。

 白いレンガ道を歩いて、正門へと続く庭園が見えてきた。

 庭園のアーチの先に、見慣れた長身で濡羽色の黒髪の人物がいた。

「…あれ?…アルファルド?」

 結構距離は離れてたのにアルファルドは私に気付いたみたいで、こっちに顔を向けてた。

「…アトリクス」

 うわぁ…アルファルドに低めの響く声でアトリクスって呼ばれると、すごくゾクゾクしてくる。
 嬉しくなって、アルファルドのいる場所まで笑顔で走って駆け寄った。
 
「何してんだよアルファルド!仕事じゃないのか?」
「…お前を待ってた」
「えっ!?アルファルドが!?」
「…そんなに驚くことか?」
「驚くに決まってるだろ!?あ…もしかして俺に何か用か?」
 
 アルファルドがジッと私の方を見てる。

 前髪が邪魔で表情は読み取れないけど、不思議になって首を傾げた。

「…なぜそんなに、嬉しそうなんだ?」
「へ…?あぁ、そんなのお前に会えたからに決まってるだろ!」

 アケルナーとやり合った後だから余計にホッする。やっぱりアルファルド追いかけてる方がずっといいや。
 しかも私を待ってたなんて嬉しいことこの上ない!
 アルファルドを見ると自然と笑顔になっちゃうんだよね。

「…お前見てると昔飼ってた犬を思い出す」
「はぁ?なんだよ!俺はペットかよ!」
「…似たようなもんだろ」

 そう言いながらアルファルドは笑った。前髪が邪魔しててもハッキリわかるくらい。
 しかも手を伸ばして、私の髪に付いてた葉っぱまで取ってくれて、その仕草にきゅんとしちゃう。

 あ…、もうペットでもいいかも…。

 アルファルドが笑ってくれるなら、何でもいいや。


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