115 / 392
イベント鑑賞 2
しおりを挟む
'
ローブを脱ぐと木刀と胸当てが渡されて、広い訓練場のど真ん中へと立たされてる。
周りで見てる教員とか生徒とか素人相手に止めろって言ってくれるかと淡い期待を抱いていたけど、この周りにいる人達もアケルナーと同じで戦闘バカみたいだね。
いいぞー、やれやれーって感じで騒いじゃってるし。
私よりかなり離れた場所に、同じくアケルナーも木刀を持って構えてる。
もうっ!みんな、少しくらい止めてくれてもいいのに!
「お互い正々堂々怪我のないように、では始めっ!」
私は構える事もしないで、木刀を持ったままダラリと腕を下げてた。
アケルナーには悪いけど、本気でやり合うつもりはないからさ。
木刀を持ったアケルナーは素早い走りで私に向かってくる。そのまま地面を蹴ると木刀を頭上に振り上げ、一直線に私に振り下ろしてる。
「はあぁッ!!」
木刀が空を切る音が響いてて、これは当たったら痛いだろなぁって考えてた。
他の生徒達が見守る中、その瞬間だけ時が止まったみたいにとても静かだった。
アケルナーの木刀が私の頭の数ミリ手前辺りでピタッと止まって、構えたまま下を向いてる。
「…何故、です…」
「……」
「何故、戦わないんですか!?」
憤りを抑えられないアケルナーは不満を私にぶつけてる。構えてた手を下ろして顔を上げると、臙脂色の鋭い瞳に怒りを称えて私をキツく睨みつけてる。
「こっちはお前とやり合うつもりなんて、これっぽっちもないからな」
「…ふざけているんですか!?僕が止めなければ大怪我をしてましたよ!!」
「そんなの、俺の勝手だろ?」
私は持ってた木刀をポイッと地面に投げると、両手を挙げた。
「審判、俺の負けです」
「…あ、…あぁ…勝者、アケルナー!」
わぁーと周りの生徒から歓声が上がるけど、アケルナーは全く納得してないみたいでギリッと歯ぎしりしてる。
「こんなにスッキリしない勝利は初めてです!勝った気がまるでしない!」
「ハハッ、でも勝負は勝負。お前の勝ちだ…」
「……」
アケルナーが無言で突っ立ってる脇を通り過ぎる。
胸当てを外すと置いてあったローブを着て、そのまま来た方へと歩き出した。
それなのにアケルナーは、またしつこくその背後から声をかけてきてる。
「…アトリクス君。やはり君は只者じゃない」
「ハァ……俺、ただの平民だし」
「逃げることも怯えることもせず、僕の剣をただ無防備に受けようとするなんて、普通の人間にはできません…」
「……じゃあな」
後ろからの圧が凄かったけど、振り向かないでそのままその場を後にした。
◇
アカデミア内の庭園を歩きながら寮へ向かってる。
うーん、何かしばらくイベント鑑賞はいいや…。面倒事に巻き込まれるのはゴメンだし。
正直そこまで興味はないんだよね。ただ進行具合を確認したかっただけだし。
白いレンガ道を歩いて、正門へと続く庭園が見えてきた。
庭園のアーチの先に、見慣れた長身で濡羽色の黒髪の人物がいた。
「…あれ?…アルファルド?」
結構距離は離れてたのにアルファルドは私に気付いたみたいで、こっちに顔を向けてた。
「…アトリクス」
うわぁ…アルファルドに低めの響く声でアトリクスって呼ばれると、すごくゾクゾクしてくる。
嬉しくなって、アルファルドのいる場所まで笑顔で走って駆け寄った。
「何してんだよアルファルド!仕事じゃないのか?」
「…お前を待ってた」
「えっ!?アルファルドが!?」
「…そんなに驚くことか?」
「驚くに決まってるだろ!?あ…もしかして俺に何か用か?」
アルファルドがジッと私の方を見てる。
前髪が邪魔で表情は読み取れないけど、不思議になって首を傾げた。
「…なぜそんなに、嬉しそうなんだ?」
「へ…?あぁ、そんなのお前に会えたからに決まってるだろ!」
アケルナーとやり合った後だから余計にホッする。やっぱりアルファルド追いかけてる方がずっといいや。
しかも私を待ってたなんて嬉しいことこの上ない!
アルファルドを見ると自然と笑顔になっちゃうんだよね。
「…お前見てると昔飼ってた犬を思い出す」
「はぁ?なんだよ!俺はペットかよ!」
「…似たようなもんだろ」
そう言いながらアルファルドは笑った。前髪が邪魔しててもハッキリわかるくらい。
しかも手を伸ばして、私の髪に付いてた葉っぱまで取ってくれて、その仕草にきゅんとしちゃう。
あ…、もうペットでもいいかも…。
アルファルドが笑ってくれるなら、何でもいいや。
ローブを脱ぐと木刀と胸当てが渡されて、広い訓練場のど真ん中へと立たされてる。
周りで見てる教員とか生徒とか素人相手に止めろって言ってくれるかと淡い期待を抱いていたけど、この周りにいる人達もアケルナーと同じで戦闘バカみたいだね。
いいぞー、やれやれーって感じで騒いじゃってるし。
私よりかなり離れた場所に、同じくアケルナーも木刀を持って構えてる。
もうっ!みんな、少しくらい止めてくれてもいいのに!
「お互い正々堂々怪我のないように、では始めっ!」
私は構える事もしないで、木刀を持ったままダラリと腕を下げてた。
アケルナーには悪いけど、本気でやり合うつもりはないからさ。
木刀を持ったアケルナーは素早い走りで私に向かってくる。そのまま地面を蹴ると木刀を頭上に振り上げ、一直線に私に振り下ろしてる。
「はあぁッ!!」
木刀が空を切る音が響いてて、これは当たったら痛いだろなぁって考えてた。
他の生徒達が見守る中、その瞬間だけ時が止まったみたいにとても静かだった。
アケルナーの木刀が私の頭の数ミリ手前辺りでピタッと止まって、構えたまま下を向いてる。
「…何故、です…」
「……」
「何故、戦わないんですか!?」
憤りを抑えられないアケルナーは不満を私にぶつけてる。構えてた手を下ろして顔を上げると、臙脂色の鋭い瞳に怒りを称えて私をキツく睨みつけてる。
「こっちはお前とやり合うつもりなんて、これっぽっちもないからな」
「…ふざけているんですか!?僕が止めなければ大怪我をしてましたよ!!」
「そんなの、俺の勝手だろ?」
私は持ってた木刀をポイッと地面に投げると、両手を挙げた。
「審判、俺の負けです」
「…あ、…あぁ…勝者、アケルナー!」
わぁーと周りの生徒から歓声が上がるけど、アケルナーは全く納得してないみたいでギリッと歯ぎしりしてる。
「こんなにスッキリしない勝利は初めてです!勝った気がまるでしない!」
「ハハッ、でも勝負は勝負。お前の勝ちだ…」
「……」
アケルナーが無言で突っ立ってる脇を通り過ぎる。
胸当てを外すと置いてあったローブを着て、そのまま来た方へと歩き出した。
それなのにアケルナーは、またしつこくその背後から声をかけてきてる。
「…アトリクス君。やはり君は只者じゃない」
「ハァ……俺、ただの平民だし」
「逃げることも怯えることもせず、僕の剣をただ無防備に受けようとするなんて、普通の人間にはできません…」
「……じゃあな」
後ろからの圧が凄かったけど、振り向かないでそのままその場を後にした。
◇
アカデミア内の庭園を歩きながら寮へ向かってる。
うーん、何かしばらくイベント鑑賞はいいや…。面倒事に巻き込まれるのはゴメンだし。
正直そこまで興味はないんだよね。ただ進行具合を確認したかっただけだし。
白いレンガ道を歩いて、正門へと続く庭園が見えてきた。
庭園のアーチの先に、見慣れた長身で濡羽色の黒髪の人物がいた。
「…あれ?…アルファルド?」
結構距離は離れてたのにアルファルドは私に気付いたみたいで、こっちに顔を向けてた。
「…アトリクス」
うわぁ…アルファルドに低めの響く声でアトリクスって呼ばれると、すごくゾクゾクしてくる。
嬉しくなって、アルファルドのいる場所まで笑顔で走って駆け寄った。
「何してんだよアルファルド!仕事じゃないのか?」
「…お前を待ってた」
「えっ!?アルファルドが!?」
「…そんなに驚くことか?」
「驚くに決まってるだろ!?あ…もしかして俺に何か用か?」
アルファルドがジッと私の方を見てる。
前髪が邪魔で表情は読み取れないけど、不思議になって首を傾げた。
「…なぜそんなに、嬉しそうなんだ?」
「へ…?あぁ、そんなのお前に会えたからに決まってるだろ!」
アケルナーとやり合った後だから余計にホッする。やっぱりアルファルド追いかけてる方がずっといいや。
しかも私を待ってたなんて嬉しいことこの上ない!
アルファルドを見ると自然と笑顔になっちゃうんだよね。
「…お前見てると昔飼ってた犬を思い出す」
「はぁ?なんだよ!俺はペットかよ!」
「…似たようなもんだろ」
そう言いながらアルファルドは笑った。前髪が邪魔しててもハッキリわかるくらい。
しかも手を伸ばして、私の髪に付いてた葉っぱまで取ってくれて、その仕草にきゅんとしちゃう。
あ…、もうペットでもいいかも…。
アルファルドが笑ってくれるなら、何でもいいや。
11
お気に入りに追加
322
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
鬼畜なエロゲ世界にモブ転生!?このままだと鬱ENDらしいので、ヒロイン全員寝取ってハピエン目指します!
ぽんぽこ@書籍発売中!!
ファンタジー
「助けて、このままじゃヒロインに殺される……!!」
気が付いたら俺はエロゲーム世界のモブキャラになっていた。
しかしこのエロゲー、ただヒロインを攻略してエッチなことを楽しむヌルいゲームではない。
主人公の死=世界の崩壊を迎える『ハイスクール・クライシス』というクソゲーだったのだ。
ついでに俺がなっちまったのは、どのルートを選んでも暗殺者であるヒロインたちに殺されるモブキャラクター。このままではゲームオーバーを迎えるのは確定事項。
「俺は諦めねぇぞ……トワりんとのハッピーエンドを見付けるまでは……!!」
モブヒロインの家庭科教師に恋した俺は、彼女との幸せな結末を迎えるルートを探すため、エロゲー特有のアイテムを片手に理不尽な『ハイクラ』世界の攻略をすることにした。
だが、最初のイベントで本来のエロゲー主人公がとんでもないことに……!?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる