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薬草採取 3
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治安隊にももちろん報告するけど、周辺警護の騎士なんてたかが知れてる。特に巡回してる治安隊はその辺の傭兵より弱いから。
そんな奴らに瀕死とはいえベヒモスの始末をさせるなんて無理に決まってる。
わざわざ帝国騎士団なんて呼ばれた日には面倒でしょうがない。
また森の入り口まで来てから風魔法を使って地面を蹴った。
ビューッと高速で景色が通り過ぎていって、すぐさまベヒモスが倒れてた地点まで戻ってきた。
「はぁ、やっぱシブといな…」
「グ、グォ…」
横倒しになってた筈のベヒモスは、ヨロヨロしながら起き上がってて、フラつきながら町方面に向かおうとしてた。
「悪いけど、そっちへは行かせないよ」
今日は帯剣してないけど、このくらい弱ってる相手なら武器が無くても全く問題ない。
アルファルドが放った背中の陥没を目がけて、足に強化を集中させてから飛び上がってから、思いっ切り踵落としを食らわせた。
「グォッッ!!ゴッ──」
これが決め手になったのか、ベヒモスは再び横倒しになったまま二度と起き上がることはなかった。
ふぅ……、一件落着。
さて、治安隊へと報告に行こっかな。それにしても、なんでベヒモスが急に現れたんだろう?
こんな事件ゲームではなかったのに。……最近そんな出来事が多発してるね。一体何が起ころうとしてるの?
絶命したベヒモスを後にして、治安隊に通報するために山道を歩いた。
これが、ただの偶然だといいんだけど……。
私は釈然としないまま町まで向かった。
◇
案の定アカデミアへ戻った後に、他の教授から呼び止められて学長室まで向かう羽目に…。
向かった目の前にはウォールナットの重そうな扉があって、私はなんとなくイヤな予感がして…どうしても扉を開ける気にならなかった。
暫く躊躇したあと、覚悟を決めてノックをしてから太い取手に手をかけて扉を開いた。
中にはオクタンとアルファルドもいて…学長が座ってる机の前に二人とも立ってて、何故かエルナト先生まで学長の脇に控えてた。
私もゆっくり歩いて前に進んで、アルファルドとオクタンの間が結構空いてたから、とりあえずそこに収まるように真ん中に立った。
「フォッフォッ、良く来たのぉ。君が噂の天才児アトリクス君かの」
左胸に手を当てて軽く腰を折る。
この世界ではこれが正式な男性の挨拶の仕方。
「……失礼致します。このような形ですが見参でき光栄です、アヴィオール学長」
だだっ広い空間のど真ん中に机がポツリとあって、そこに座ってる学長はニコニコ笑ってるけど…、この人も油断しちゃいけないね。
帝国の賢者って言われるくらい偉大な魔法使いだから。
このアヴィオール学長って入学式で挨拶したときとまた雰囲気が違うな。
ゲームでもそうだったけど、やっぱり目が細くて開けてるのか開けてないのかわからない。
「フォッ!君は平民の出なのに実に教育が行き届いておるのぉ。堂々たる立ち振る舞い、秀でた頭脳と類稀な知識、容姿も申し分ないの…周囲ではどこぞのご落胤ではないかと噂すら立っておるくらいだ」
「…ハハッ、何を仰っているのか判りかねます。…俺は真っ当な平民で、亡き両親とも身元は知れています」
「フォッフォッフォッ!ではそういうことにしておくかのぉ」
机の上で肘をついて両手を組んでる学長の表情は意外なほどの柔らかい。
でもさ、これに騙されちゃいけないんだ。探りを入れられてるから、一瞬足りとも油断できない。
「すでに報告済みかと思いますが…俺たちが無事戻れたのも、そこにいるドラコニス公爵であるアルファルドのおかげです。彼がベヒモスに襲われそうになった俺達を助けてくれました」
アヴィオール学長をしっかりと見ながら私は説明していく。
こっちもちゃんと申請して許可証もらってから薬草採取してたし、文句を言われるような筋合いはないからね。
「フォッフォッ、アルファルド君が足止めしたと説明を受けたがのぉ。いきなりベヒモスとは…穏やかじゃないの」
そんなこと言われてもねぇ…。
実際モンスターが現れた上にこっちは襲われそうになって散々だったし。
次に学長の左隣で立ってたエルナト先生も口を開いた。
「先程こちらの二人にも説明を受けましたが、この辺りでベヒモスの生息は今まで確認されておりません。あの森は定期的に巡回していて、魔物の生息自体無いはずなのですが…」
両脇にいるアルファルドとオクタンの方を見てエルナト先生も疑問を述べてく。
「アトリクス君、あの場にいて何か気付いたことはありませんでしたか?」
今度は真っ直ぐにこっちを見てるエルナト先生は、何か知ってるならこの場できちんと説明しろと目で訴えてる。
うーん、本当に心当たりはないんだけどなぁ…。
まぁ、あるとしたら…。
「これは俺の見解ですが…」
「はい。何でしょう?」
「恐らく…あのベヒモスは元々生息していたわけではなく、突然あの場に現れたと思います」
「突然、現れた?それは…一体?」
「理由や原因までは解りません」
会話が途切れて、周りがシーンと静まった。
アルファルドは腕を組んでそっぽを向いて、オクタンは下を向いて手をもじもじしてる。
エルナト先生は顎に手を添えて考え込んでる様子。アヴィオール学長は相変わらず何考えてるかわからなくて、目が見えてるのか謎。
「…一先ず、治安隊には連絡済です。大事に至らないとは思いますが、念の為帝都への侵入に繋がらないよう町の封鎖も呼びかけておきました」
「フォッフォッ、素晴らしく迅速で的確な対応じゃのぉ。随分と手慣れておるわ」
「……このくらい普通です」
「フォッフォッフォ!今年の新入生は癖のある者ばかりで面白いのぉ!」
何が面白いのかわからないけど、アヴィオール学長はご満悦みたいだね。
このフォッが3回出る時は興奮してるって書いてあったし。
治安隊にももちろん報告するけど、周辺警護の騎士なんてたかが知れてる。特に巡回してる治安隊はその辺の傭兵より弱いから。
そんな奴らに瀕死とはいえベヒモスの始末をさせるなんて無理に決まってる。
わざわざ帝国騎士団なんて呼ばれた日には面倒でしょうがない。
また森の入り口まで来てから風魔法を使って地面を蹴った。
ビューッと高速で景色が通り過ぎていって、すぐさまベヒモスが倒れてた地点まで戻ってきた。
「はぁ、やっぱシブといな…」
「グ、グォ…」
横倒しになってた筈のベヒモスは、ヨロヨロしながら起き上がってて、フラつきながら町方面に向かおうとしてた。
「悪いけど、そっちへは行かせないよ」
今日は帯剣してないけど、このくらい弱ってる相手なら武器が無くても全く問題ない。
アルファルドが放った背中の陥没を目がけて、足に強化を集中させてから飛び上がってから、思いっ切り踵落としを食らわせた。
「グォッッ!!ゴッ──」
これが決め手になったのか、ベヒモスは再び横倒しになったまま二度と起き上がることはなかった。
ふぅ……、一件落着。
さて、治安隊へと報告に行こっかな。それにしても、なんでベヒモスが急に現れたんだろう?
こんな事件ゲームではなかったのに。……最近そんな出来事が多発してるね。一体何が起ころうとしてるの?
絶命したベヒモスを後にして、治安隊に通報するために山道を歩いた。
これが、ただの偶然だといいんだけど……。
私は釈然としないまま町まで向かった。
◇
案の定アカデミアへ戻った後に、他の教授から呼び止められて学長室まで向かう羽目に…。
向かった目の前にはウォールナットの重そうな扉があって、私はなんとなくイヤな予感がして…どうしても扉を開ける気にならなかった。
暫く躊躇したあと、覚悟を決めてノックをしてから太い取手に手をかけて扉を開いた。
中にはオクタンとアルファルドもいて…学長が座ってる机の前に二人とも立ってて、何故かエルナト先生まで学長の脇に控えてた。
私もゆっくり歩いて前に進んで、アルファルドとオクタンの間が結構空いてたから、とりあえずそこに収まるように真ん中に立った。
「フォッフォッ、良く来たのぉ。君が噂の天才児アトリクス君かの」
左胸に手を当てて軽く腰を折る。
この世界ではこれが正式な男性の挨拶の仕方。
「……失礼致します。このような形ですが見参でき光栄です、アヴィオール学長」
だだっ広い空間のど真ん中に机がポツリとあって、そこに座ってる学長はニコニコ笑ってるけど…、この人も油断しちゃいけないね。
帝国の賢者って言われるくらい偉大な魔法使いだから。
このアヴィオール学長って入学式で挨拶したときとまた雰囲気が違うな。
ゲームでもそうだったけど、やっぱり目が細くて開けてるのか開けてないのかわからない。
「フォッ!君は平民の出なのに実に教育が行き届いておるのぉ。堂々たる立ち振る舞い、秀でた頭脳と類稀な知識、容姿も申し分ないの…周囲ではどこぞのご落胤ではないかと噂すら立っておるくらいだ」
「…ハハッ、何を仰っているのか判りかねます。…俺は真っ当な平民で、亡き両親とも身元は知れています」
「フォッフォッフォッ!ではそういうことにしておくかのぉ」
机の上で肘をついて両手を組んでる学長の表情は意外なほどの柔らかい。
でもさ、これに騙されちゃいけないんだ。探りを入れられてるから、一瞬足りとも油断できない。
「すでに報告済みかと思いますが…俺たちが無事戻れたのも、そこにいるドラコニス公爵であるアルファルドのおかげです。彼がベヒモスに襲われそうになった俺達を助けてくれました」
アヴィオール学長をしっかりと見ながら私は説明していく。
こっちもちゃんと申請して許可証もらってから薬草採取してたし、文句を言われるような筋合いはないからね。
「フォッフォッ、アルファルド君が足止めしたと説明を受けたがのぉ。いきなりベヒモスとは…穏やかじゃないの」
そんなこと言われてもねぇ…。
実際モンスターが現れた上にこっちは襲われそうになって散々だったし。
次に学長の左隣で立ってたエルナト先生も口を開いた。
「先程こちらの二人にも説明を受けましたが、この辺りでベヒモスの生息は今まで確認されておりません。あの森は定期的に巡回していて、魔物の生息自体無いはずなのですが…」
両脇にいるアルファルドとオクタンの方を見てエルナト先生も疑問を述べてく。
「アトリクス君、あの場にいて何か気付いたことはありませんでしたか?」
今度は真っ直ぐにこっちを見てるエルナト先生は、何か知ってるならこの場できちんと説明しろと目で訴えてる。
うーん、本当に心当たりはないんだけどなぁ…。
まぁ、あるとしたら…。
「これは俺の見解ですが…」
「はい。何でしょう?」
「恐らく…あのベヒモスは元々生息していたわけではなく、突然あの場に現れたと思います」
「突然、現れた?それは…一体?」
「理由や原因までは解りません」
会話が途切れて、周りがシーンと静まった。
アルファルドは腕を組んでそっぽを向いて、オクタンは下を向いて手をもじもじしてる。
エルナト先生は顎に手を添えて考え込んでる様子。アヴィオール学長は相変わらず何考えてるかわからなくて、目が見えてるのか謎。
「…一先ず、治安隊には連絡済です。大事に至らないとは思いますが、念の為帝都への侵入に繋がらないよう町の封鎖も呼びかけておきました」
「フォッフォッ、素晴らしく迅速で的確な対応じゃのぉ。随分と手慣れておるわ」
「……このくらい普通です」
「フォッフォッフォ!今年の新入生は癖のある者ばかりで面白いのぉ!」
何が面白いのかわからないけど、アヴィオール学長はご満悦みたいだね。
このフォッが3回出る時は興奮してるって書いてあったし。
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