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新サークル編 6

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 講義が終わってサークル活動してたら、案の定エルナト先生がサークル部屋を訪ねてきた。




 椅子、広めの長机、壁にはちょっとした棚、水回りも何もない本当にガランとしたもの。
 アルファルドは講義終わってすでに帰った後で、活動には参加してない。

 このサークル部屋ってのも、六畳一間くらいのスペースでかなり狭い。
 教授塔とは離れた場所の塔にあって、私達のサークルはその一番下の隅で物置小屋みたいな所。
 3人しかいないからしょうがないんだろうけど。何だか扱いが酷すぎるよね…。他のサークルの人達なんてもっと広いとこ使ってるのにさ。


「失礼致します。……アトリクス君、君にお話があります。…もちろん、わかっていますよね?」

 にこりと穏やかそうに笑っているのに、とてつもなく怖いオーラが後ろからフツフツと沸き起こってる。

 狭いサークル部屋の入り口付近で立っているエルナト先生に、笑顔でめちゃくちゃ圧力をかけられる。
 
「あー…は、はい。たぶん……」

 オクタンと二人で机に向かいながら借りてきた本読んでたのに、平穏な時間はすぐに終わってしまった。
 自業自得なんだけどね…。

「わかっているなら結構です。…では参りましょう」
「…了解です」
「あ…んと…アート君??」

 席を立ってエルナト先生がいる入り口へと向う。
 オクタンが椅子に座りながら、不思議そうな羨ましそうな顔でこっちを見てる。
 
「オクタン、今日の活動は終了な。先に寮へ戻っててくれ」
「ん…うん。アート君は…」
「俺は…たぶん、遅くなると思う……」

 それだけ言い残すとサークル部屋を後にした。

 オクタンには悪いけどあそこで話せることじゃないし、これからまた長時間説明しなきゃいけないだろうからな…気が滅入っちゃうよ。
 
 エルナト先生の後ろ姿を追いながらため息をついた。好奇心は猫を殺すって言うけど本当だね。
 もっと自分の知識に警戒心を持たないと駄目ってことだ。

 やっぱりこの後もエルナト先生からの質問攻撃が続いて…寮に帰る頃にはヘトヘトになってた。






 ◇

 



「ハァ……ないな……」

 この日も講義が終わってからサークル活動と称して帝国図書館までやって来ていた。この日も、アルファルドは不在。

 もう日も暮れて茜色の空になってる。
 私は図書館の机で突っ伏してた。
 
「んと…見つから、ないね…」

 私とオクタンの周りには薬学関係の本が山積みにやってる。
 もう何日目だろう…?
 だいたい2週間以上は通い詰めてる。薬学関係の本もほぼ制覇したし。
 エルナト先生も言ってたけど、やっぱりポーション製造や作り方についての本はない。
 まぁ、そんなものあったら皆ポーション作ってるしね。
 研究結果とか失敗談なら山ほどあって、そこから導き出された結果は、ポーション製造は不可能。ってこと。

 まずさぁ、元になる薬草自体がわからないし。作り方以前の問題だよね~。
 材料不明、製造方法不明…。
 もうお手上げだよね。

 そもそも旧世界では、ポーションは普通の薬みたいに存在してた。その辺の薬師でも作れるくらい簡単に。
 この新世界になってから、何が変わった?

 月(ルナ)の消失、失われた四大元素ロストマジック……魔法がどんどん退化して、魔法使いの数もどんどん減って……。

 そういえば私の知ってる前世の異世界モノなんかのポーション作りって、だいたいは魔力込めながらポーション作ってたよね。
 
 昔は魔法なんて溢れ返ってて…八大元素もあって……。

 そこまで考えて、机からバッと起き上がった。

「わっ!…ど、どう…したの?」
「そうかぁ!」
「あ、アート君?…なに?」
「わかったぞ……」
「……え!?」

 推測だけど、今の四大元素じゃ駄目なんだ。
 例え材料が合っても、そもそもの大元になる魔力の種類が違うんだ。
 ん?でもそしたらやっぱり誰にでも作れたわけじゃなくなるし…、魔力は無いと駄目だけど属性は多分関係ない。  

 待って…じゃあ、私の魔力は?他の属性にはない。特別な何か…。

 私の属性が無属性だとして、それで魔力を込めて作ればポーション作りは成功するの?

「あ…アート、君?大丈…夫?」
「あ?……あぁ……」

 閉館のチャイムが鳴る。
 周りは人々が帰り始めてて、静まり返ってる。

「そろそろ帰るか…」
「ん…うん……帰ろ」

 本を返却し、帝国図書館を後にした。









 ◇











「なぁ、アルファルド。…ダメか?」
「……」
「お前にも手伝ってほしいんだよ…」
「……」
「人手が必要なんだ。頼む!」
「……」

 こうしてしつこくアルファルドに頼んでるのも、薬草採取に行きたいから。
 最近では着いてきてくれる時もまぁまぁ増えたけど、半分以上はサークル活動時間になるとお屋敷へ帰っちゃう。

 エルナト先生にもアルファルドが寮生活じゃないって聞いてたから、自分で情報ギルド使って色々調べてみた。
 そしたらなんと、借金返済のために公爵なのにバイト紛いの仕事をしてるんだよ!

 これを知った時の私のショックと衝撃といったら…。

 まぁポラリスに惚れ込んでストーカーみたいな行為を繰り返してるよりよっぽどいいんだけどさ。


 アカデミアの長い廊下をまた二人で追い駆けっこしてる。アルファルドって足長いしめちゃくちゃ早く歩いてるから、走ってるのとほぼ変わらない。

「待てってば!」
「……」


 最近少しは近づけたなんて思ってたのに、やっぱり私の勘違いだったみたいだ。
 庭園や噴水も通り過ぎ、正門も抜けてこのまま公爵邸まで帰っちゃいそう。

「手伝ってくれたら手当も奮発するからさ!!」

 余りにも頑なな態度に、思わず本音がポロッと出た。
 するとズンズンとアカデミアの外まで出て、歩いていたアルファルドの脚がピタッと止まる。

「……本当か」

 えぇ!?こんな事で止まっちゃうの?!どんだけ困ってるんだよ!!いや、アルファルドがこの歳で借金地獄に落ちてるのは知ってるけど…なんかさ、すごくやるせない気分…。

「あぁ、男に二言はない!これでどうだ!」

 誰もいない道の真ん中でこっちを見てるアルファルドの前に、指を3本出す。
 その指の方をアルファルドが見て考えてる。

「…30Gか」
「はっ、…舐めるな。3000Gだ!」
「……」
「嘘じゃないぜ?これでも俺は商家の出だ!金ならある!!」

 またまた正門を超えた道端で、こんなどうしようないお金のやり取りをしてる…。
 3000Gなんて確かに高額報酬。
 冒険者でもBランクくらいの報酬になるかな?それが薬草取るだけでこれだけ貰えるなら、確かに飛びつくよね。物にもよるけど薬草採取なんて30~50Gがせいぜいだし。

 ドキドキしながら無言で立ってるアルファルドの様子を伺ってる。アルファルドは考えてるみたいに下を向いて、しばらくしてからこっちを向いた。
 
「……いいだろう」

 アルファルドに返事を貰って、心の中でガッツポーズした。

「よしっ!じゃあ交渉成立ってことで早速行こうぜっ!!」
 
 踵を返して二人でアカデミアに戻ってる。サークル部屋戻ってオクタン回収してから山へ向かわないとな。
 アカデミア内の塔の一室に活動部屋があるけど、狭いし材料も道具もないし、私財投入して設備投資しようかと思うくらい。

「アルファルド」
「……なんだ」

 さっき通った正門を再びくぐって、庭園を歩きながらアカデミア構内へと向った。
 アルファルドの隣に並んで一緒に歩いてるんだけど、さっきとは打って変わって返事を返してくれる。

「何で急に受け答えするんだよ!」
「……報酬が、もらえるなら」
「ハハッ、お前も正直だな」

 アルファルドが普通に話してくれて嬉しいのに…、かなり複雑な気分ではある。
 本来ならアカデミアでの金品のやり取りも禁止事項。
 
「なぁ、今度公爵邸に行ってもいいか?」
「……なぜだ」
「そうじゃないと、報酬…渡せないだろ?」

 さすがにアカデミア内では危険だし。外でも誰が見てるかわからないからこれも危険。残るはやっぱり私が直接渡しに行くのが1番の安全策。

「……………………仕方ない」

 歩きながらだいぶ長い沈黙があったけど、諦めたみたいに了承してくれた。

「─!すぐに用意しとくよ」
「……あぁ」

 絶対断られると思ってダメ元で言ったのに!地獄の沙汰も金次第って言うけど…本当にその通りだねっ。

 かなり強引だけど公爵邸への訪問する機会も手に入れられた!めちゃくちゃ嬉しい~!!

 アルファルドと一緒にさっき通った廊下を再び歩いてる。
 私の横を歩いてるアルファルドは、さっきとは打って変わって速度を落として歩いてくれてる。私の隣でアルファルドが歩いてくれてるってだけでめちゃくちゃ嬉しい~!!

 あまりにも焦れったくてなりふり構ってられなくなってきたけど、これが果たして良いことなのか悪いことなのか……。

 少しでも距離を縮めたい私は、強硬手段へと入っていった。


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