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魔法アカデミア合格発表 3

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「………先生」
「殺気を消しなさい。ここはアカデミア内ですよ」

 見知ったエルナト先生が現れてくれたおかげか、さっきまでの抑えきれない憤りがスッと消えた。

 入り口に向かって静かに歩いてくるエルナト先生。
 いつもより厳しい顔になってる。

「経緯はわかりませんが、話は聞こえてきました。アトリクス君が合格を取り消したとしても、あなた方がアカデミアに入学することは決してありません」

 一人立ってる私の周りで、地面にへたり込んでいる子息たちに淡々と説教をしてる。

「うぅ…」
「ふっ……」
「く……」

 口々に呻いたり泣いたりしてるけど同情も憐れみもない。ラムを…平民を人間とも思わないクズ野郎には当然の制裁だと思ってる。

「己の努力を人のせいにするなど言語道断です。貴族の風上にも置けませんね。結果を受け止め研鑽を重ねなさい。人を貶めて入学したところで先は知れてます」

 容赦ないエルナト先生の言葉に、地面にいた奴らは肩を落として更に泣いてた。

 それからエルナト先生は私に視線を向ける。

「アトリクス君、貴方にも注意しなければなりません。アカデミア内での無意味な戦闘や魔法の使用はご法度です。もちろん威嚇行為も厳罰対象となります」
「……はい」
 
 私の様子が明らかにおかしいのを察してる先生は、ふぅ…と息を吐いてからくるりと踵を返した。

「着いてきなさい。貴方には話しがあります」
「……」

 頷いてエルナト先生の背中を追いながら後をついてく。
 アカデミア構内を通って、階段を登りながら上へと進んで行く。
 途中生徒らしき人達が驚きながら不思議そうにこっちを見てたけど気にもならなかった。
 
「入って下さい」

 扉を開けて入った先には、机と壁一面の沢山の魔道書に、古文書や文献など…様々な本がびっしりと埋め尽くされてた。
 棚には珍しい魔法アイテムやよくわからない鉱石とか道具もアンティークみたいに置かれている。
 
「ここは私の部屋です。そちらに座って下さい」

 部屋の真ん中には小さなソファーとテーブルもあって、とりあえずソファーに座らせてもらう。

 その間にエルナト先生がお茶を入れてくれて、テーブルに置かれたお茶をジッと見てた。

 反対側にエルナト先生が座って、一口お茶をすする。

「それで、一体どうしたのでしょう?あなたがあそこまで感情を乱すのは珍しいことです」
「……すみま…せん」
「謝る必要はありません。先程の件はあちら側に非がありますから。しかし…今日のあなたは明らかにいつもと様子が違います。何かあったのですか?」
「……」
 
 答えることもなく、出されたお茶をただジッと見てる私。
 エルナト先生は少し考えてまた口を開いた。
 
「もしやと思いますが…、最近ギルドで要請されていた行方不明事件が関係していますか?」

 座ってた体がピクリと動いた。
 先生も気付いたのかそのまま話を続ける。

「今朝の帝国新聞で出ていました。この行方不明の件はアカデミア内でも噂になってましたから。英雄シリウスがスピード解決したと、朝刊の一面を飾ってましたよ」
 
 テーブルに置いてあったのか、帝国新聞を取り出すと私に見せてくれた。

「……してません」
「はい?」
「解決なんて、してませんッ!!」
 
 抑えてた感情がブワーッと溢れてきて、目の前が歪んでボロボロと涙がこぼれてくる。
 ソファーに座りながら両手で顔を覆って嗚咽を漏らした。

「ミラ…さん…」

「だって!だって…救え…なかったっ!ラムを……もう少し早く、私が…着いてたら…死なずに…済んだのにっ……」
 
 部屋中に私の泣き声が木霊する中、先生は静かに聞いててくれた。
 
 そっとハンカチを渡してくれて、泣き止むまでずっと待っててくれた。

「ひっぐ…っく…ずみまぜん……先…生…」

「いえ。そうやって泣いてるところは昔と変わりませんね…」

「……はい…本当に。……いつまで経っても…成長しませんね」

「それは違います。あなたは元々賢く理性的で大人びていたので、そうして泣いてる時にようやく年相応に見えるのです。その姿に安心していたくらいですよ」

「………先生」

 ひとしきり泣いて、ずっと心の内にわだかまってた思いを吐き出せたおかげか、だいぶ心が軽くなった。

 やっぱり先生って頼りになるな…。

「まずはこれを読んで見てはいかがでしょう。こういったものはフェイク記事も多いのですが…たまには真実も混じっています」

 エルナト先生は私に新聞を渡してくる。
 あんまり気が進まないな。
 手にとって新聞を広げた。読み進めていくと夜中にあったことがだいたい書いてあった。でも内容が変わってる。

「…おおよそ当たっていますが、真実とは違います。なぜか通り魔事件になってますね。本来は上位種の魔物の仕業です。書き換えられているのは…」
「えぇ、上からの命令でしょうね。魔物が拐ってるいたなどと事実が発覚すれば、混乱は避けられませんからね」

 隠蔽されたって事が…。

 まぁシリウスなら元々話せないしそれについて訴える事もしないし、これだけ大々的に広まってしまえばそれが真実になっていく。

「更にその下を読んで見てください」

 言われて読んだ先には、ラムの妹の事が書いてあった。事の経緯を話したのはあそこにいた町医者みたい。
 あの時のシリウスの行動が細かく書かれてた。

「あ……これって……」

 記事には私が取ってきたハイポーションで、ラムの妹が助かったって書いてある。
 そういえばラムには大怪我した妹がいるって言ってた。その子と母親を楽させたいって。

「残念ながら、あなたが必死に探してきたハイポーションでその子供は助けられませんでした。……ですがその亡くなった子供に握らせて残したハイポーションのおかげで、その子の妹を助けることが出来たんです」

「…っ」

「あなたのした事は決して無駄ではありません。一つの尊い命は失われましたが…、未来ある若者を助けることにも繋がりました。そして魔物を倒した事で平和も訪れ、人々は恐怖に怯える生活からも解放されたのです」

 またボロボロと涙が溢れる。一つ一つ噛みしめるように言葉が自分の中に入ってくる。

 こうして慰めて諭してもらえる存在がいるのって本当にありがたい。エルナト先生は私にとって恩師だから。

「……は…い……」

「あなたの悪い点は自己評価の低いところです。求めるものが高すぎるのかもしれませんが…、完璧な人間などいないのです。時には妥協し、自分を褒めることも必要ですよ」

「…はい…先生…」

 へへっ…と笑うと、エルナト先生も安心したように微笑んでくれた。
 

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