冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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帝都へ出発編 4

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 冒険者も傷だらけで所々青あざがあったり血が滲んでたけど、何とか立ち上がって歩いてたから大丈夫と思う。

 勢いで御者と一緒に倒れた馬も何とか無事で、馬車に乗ってた人達と力を合わせて荷台を元に戻した。
 そして縄にかけた山賊達から逃げるように、急いで馬車を走らせた。


 荷台ではみんな一言も喋らずに、シーン…と静まり返ってた。
 あんなことがあった後じゃ仕方ないよね。
 子供の泣き声と馬の駆ける音くらいしか聞こえなくて、みんな意気消沈してた。
   
 私のせいだ…。

 テンプレ来たなんて喜んで…、誰かか来てくれるとか…バッカみたい!
 ゲーム通りに物事が進んでたし…次々とメインキャラに会って、アルファルドにも会えて……やっぱりこれはゲームの世界なんだって結論づけて、お約束のように助けが来るもんだって勘違いしてッ!

 もっと早く助けてれば、怪我人も傷付く人も…誰も出なかったのに……。

 馬車の移動中、荷台でうずくりながら、ずっとそうやって自分を責めてた。
 そうしてないと、やるせなさと悔しさでどうしようもなかった。

 日も暮れてようやく山を超えて、待ち望んだ街が見えてきた。
 街の灯りが見えると、皆やっと表情が和らいでくる。
 
「さぁ降りとくれ。何とか無事に着いたが、この馬車はここまでだ。これから山岳警備隊に報告してくるさ」

 全員降りると、そう言って御者は馬を走らせて行ってしまった。
 この街は帝都から1時間くらい離れた街。

「あの…あんた」

 後ろから話しかけてきたのはさっきの親子だった。
 
「なにか?」

「これ、ありがとうね」

 私がかけた大きめの上着を着てて、横には子供が泣きべそかきながらべったり張りついてる。

「いや…気にせずもらって下さい。返す必要もないから」

「…すまないね…お言葉に甘えるよ」

 そう言って頭を下げて、子供と一緒に去っていった。
 その後ろ姿を見ながら…重く苦い気持ちが沸いてくる。

 宿屋で眠りにつく時も、ずっとずっと気持ちが晴れることはなかった。




 ◇




 苦い旅路の2日目となった朝。
 泊まった宿屋で目を覚ました。

 ハァ……ほとんど寝れなかった…。

 昨日の出来事は私の心に暗い影を落とした。
 スタンピードの時とはまた違う種類のショック。
 自分の慢心が招いた出来事だっただけに、立ち直るのに時間がかかった。
 

「おはようさんっ!…兄ちゃんどうしたんだい?浮かない顔して…よく寝れなかったかい?」

 ノロノロと旅支度も済ませて、昼前になって宿屋の下に降りてお勘定を払おうとして声をかけられた。

「…あ、いや…」
「昨日は大変だったみたいだな。あっ、これ。あんたに渡してくれって」

 宿屋のオヤジが布の包みを差し出してきた。

「これは?」
「たしか、子ども連れの母親だったかな?朝早く来て…あんたの名前も知らないみたいだったけどなぁ。お礼だとか言ってたぞ?」
「……!」

 あ…、きっと昨日の親子だ…。

 そっと包みを開けると、綺麗に畳まれた自分の服に冷めたパンと干し肉一本が入ってた。

「っ…」

 胸が熱くなって、思わず顔をその包みで隠した。

「ま、人生色々あるさ。だがなぁ、わざわざお礼に来るくらいならあんたは良いことしたんだよ」

 ポンッと肩に手を置かれて、オヤジはそのまま中へと入って行った。
 
 私の判断は間違ってたけど、それでも…感謝してくれたんだ…。

 無駄に高い爵位もらうより、立派な勲章もらうよりも…、この包みの物の方がずっとずっと嬉しかった。



 帝都近くまで来たから、今度は馬車はやめて歩いて移動することにした。

 ここから帝都までは近いから、昨日みたいに馬車で襲われる事はないけど、気分を変えたくて遠くまで続く道をひたすら歩いた。

 天気も良くて日差しが暖かい。

 よしっ!いつまでもクヨクヨしないっ!!

 空気を胸いっぱいに吸い込んで、大きく伸びをした。
 もらった干し肉をもぐもぐ噛んでると、自然と笑顔が出た。
 
 うん…、美味しい!

 普通の庶民にとって干し肉は高級な食べ物。
 その貴重な食料をくれるなんて。
 心の中に暖かな感情が溢れてくる。
 
 今度は間違えないように頑張ろう。

 心機一転。
 足取りも軽くなって、私は帝都へと足を早めた。
 
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