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子供編 10
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地面に降ろされたけど、辺りは想像していた光景とは違ってた。
道路脇にはガリガリに痩せて寝転んでいる老人がいたり、物乞いをしてる幼い子ども達が座り込んでたり…。
人相の悪いマフィアみたいな男たちもゴロゴロいて、私達を見てヒソヒソと話している。
治安が悪いって聞いていたけど、自分の予想以上に悪かった。
怖くなってタウリに抱き着こうとしたが、こんな時こそ毅然とした態度でいないと舐められてしまう。
人相の悪さなら十分張り合えるタウリを従え、澄まし顔で颯爽と歩いてく。
「行くよ、タウリ」
「……はっ、かしこまりましたぞ!」
タウリも気づいて私に合わせてくれた。
何でもない風に足を進め、タウリに誘導されながら情報ギルドの前までやってきた。
酒場のような店で看板も出ていない。
タウリがいなければ普通に通りすぎていたと思うほど、町中に溶け込んだ造りだった。
タウリに先導され扉をくぐる。
中はこれまた普通の食堂みたいだった。テーブルや椅子のセットが何個かあって、軽食のようなツマミを食べている人もチラホラ。
「いらっしゃい。見ない顔だねぇ…」
店の中から顔を出したのはエプロン姿の女将みたいな女の人で、訝しげにこちらを見て声をかけた。
「ここいらの人間じゃないんでな。さっそくじゃが、名物の魚盛り3点セットをくれんか」
「……種類は?」
「ヌエボとラグ、あとタソラも付けてくれ」
タウリの後ろでやりとりを聞いていた私は、思わず店の中をキョロキョロと見渡す。
へぇ~これが情報ギルドなんだ…何かもっと違うのを想像していたなぁ。
「タソラはアッチにあるからついてきなっ」
ちょっと気の強そうな年増の女将は店の裏側へと案内する。
ベールのせいで見えづらいけど、私にはなんてことない。
裏から外付けの階段を登り、2階にある部屋に通された。
情報ギルドっていうから、てっきり地下にあるのかと思ってけど、意外と目立つ場所にかまえているんだ。
予想外の展開に面食らったが、まさかこんなところに情報ギルドの本拠地があるとは思わないだろうな。
上がりきったすぐに扉があり、廊下を奥へと進むとまた違う扉が現れる。
女将は躊躇もせずドアをノックした。
「マスター。入ります」
中から返事は返ってこないけど、それが正解かのように女将は扉を開けた。
「……おや、懐かしい顔です」
中は意外と広く、情報ギルドというわりと書類のようなものは一切置いてない。
だからか、余計にその一言が部屋に響いた。
「久しいな、マタルよ。お主も変わらんな」
「あなたは随分と老けました」
「ふんっ!相も変わらず嫌味なヤツよ!」
そこにいたのはタウリなんかよりずっと若い三十代半ばくらいの優男。
縮れた暗めの金髪に、この国では一般的な翠の瞳。魔法使いで元冒険者っていうからもっと違う人物を想像してたけど、なんだか見た目だけなら遊び人みたいに見える。
薄いベール越しにジッと見てたけど、その視線に気づいたらしくタウリの後ろに控えていた私に視線を合わせてきた。
「そちらの可愛らしいお嬢さんは?……まさかあなたの……」
「違うわいっ!」
むきになって否定していたタウリ。
一通りやり取りが済んだのかようやく席に案内され、早速本題に。
「──なるほど。業務責任者を探していると…それも口が固くて優秀な人物を」
「そうじゃな」
向かい合わせのソファーに座り、マタルはちょっと考えた後すぐに立ち上がった。
机に向かってなにか動作をすると、突然壁が動き出す。
「なっ、なにごとじゃ!」
「うわあ!すごいっ」
私も仕掛けに驚いて声をあげてしまった。
現れたのは大量の書類の束がギッシリ詰まった本棚だ。
驚く私達を気にせずにマタルはそこに近づき、何枚か紙を抜いていく。
「普通ならお金を頂いてからお見せするんですが、まぁタウリの頼みですから。お選び頂いてからお代を頂きましょう」
喋りながらこちらに戻って来ると、目の前の長テーブルの上に10枚ほどある紙を横一列に並べる。
「手に取って見てもいいですか?」
「……えぇ、どうぞ」
前に出て一枚ずつ内容を確かめていく。
ちゃんと顔の絵もついていて、生まれから家族構成、これまでの商売経歴まで結構事細かく書いてある。
情報ギルド怖ぁ~~。
離婚歴とか酒癖とか性癖とか…そんなのまで書いてあるよ……。
1枚、2枚…と見ていく。確かに私が指定した条件はクリアしてるんだけど、いまいちみんなピンとこない。
「──あっ…!」
ある一枚の書類を見て思わず声が漏れた。
「どうしましたかな?」
横で見守っていたタウリも私の反応に気付いて覗き込んでる。
「この人にします!」
一枚の紙を取り上げマタルに渡した。
「こちらは…あまり良い条件とは言えません…オススメするなら─」
「いえ、適任はこの人しか考えられません」
「随分はっきり確信しますね。お知り合いですか?」
目の前で書類と私を交互に見ている。
「知り合いではないです。でも、この人しかいません!すぐに紹介してください!」
ベール越しにマタルを見つめる。
マタルもこっちを見てたけど、しばらくして観念してように視線を外した。
「わかりました。……タウリ、この方は?」
「…ふんっ。わしが身をとして生涯仕えるお方じゃ」
「そうですか。あなたは相変わらず間違えない人です」
それまでとは打って変わり、マタルは柔らかな表情を見せた。
「??」
言われた意味はわからないけど、タウリが褒められたみたいで悪い気はしなかった。
地面に降ろされたけど、辺りは想像していた光景とは違ってた。
道路脇にはガリガリに痩せて寝転んでいる老人がいたり、物乞いをしてる幼い子ども達が座り込んでたり…。
人相の悪いマフィアみたいな男たちもゴロゴロいて、私達を見てヒソヒソと話している。
治安が悪いって聞いていたけど、自分の予想以上に悪かった。
怖くなってタウリに抱き着こうとしたが、こんな時こそ毅然とした態度でいないと舐められてしまう。
人相の悪さなら十分張り合えるタウリを従え、澄まし顔で颯爽と歩いてく。
「行くよ、タウリ」
「……はっ、かしこまりましたぞ!」
タウリも気づいて私に合わせてくれた。
何でもない風に足を進め、タウリに誘導されながら情報ギルドの前までやってきた。
酒場のような店で看板も出ていない。
タウリがいなければ普通に通りすぎていたと思うほど、町中に溶け込んだ造りだった。
タウリに先導され扉をくぐる。
中はこれまた普通の食堂みたいだった。テーブルや椅子のセットが何個かあって、軽食のようなツマミを食べている人もチラホラ。
「いらっしゃい。見ない顔だねぇ…」
店の中から顔を出したのはエプロン姿の女将みたいな女の人で、訝しげにこちらを見て声をかけた。
「ここいらの人間じゃないんでな。さっそくじゃが、名物の魚盛り3点セットをくれんか」
「……種類は?」
「ヌエボとラグ、あとタソラも付けてくれ」
タウリの後ろでやりとりを聞いていた私は、思わず店の中をキョロキョロと見渡す。
へぇ~これが情報ギルドなんだ…何かもっと違うのを想像していたなぁ。
「タソラはアッチにあるからついてきなっ」
ちょっと気の強そうな年増の女将は店の裏側へと案内する。
ベールのせいで見えづらいけど、私にはなんてことない。
裏から外付けの階段を登り、2階にある部屋に通された。
情報ギルドっていうから、てっきり地下にあるのかと思ってけど、意外と目立つ場所にかまえているんだ。
予想外の展開に面食らったが、まさかこんなところに情報ギルドの本拠地があるとは思わないだろうな。
上がりきったすぐに扉があり、廊下を奥へと進むとまた違う扉が現れる。
女将は躊躇もせずドアをノックした。
「マスター。入ります」
中から返事は返ってこないけど、それが正解かのように女将は扉を開けた。
「……おや、懐かしい顔です」
中は意外と広く、情報ギルドというわりと書類のようなものは一切置いてない。
だからか、余計にその一言が部屋に響いた。
「久しいな、マタルよ。お主も変わらんな」
「あなたは随分と老けました」
「ふんっ!相も変わらず嫌味なヤツよ!」
そこにいたのはタウリなんかよりずっと若い三十代半ばくらいの優男。
縮れた暗めの金髪に、この国では一般的な翠の瞳。魔法使いで元冒険者っていうからもっと違う人物を想像してたけど、なんだか見た目だけなら遊び人みたいに見える。
薄いベール越しにジッと見てたけど、その視線に気づいたらしくタウリの後ろに控えていた私に視線を合わせてきた。
「そちらの可愛らしいお嬢さんは?……まさかあなたの……」
「違うわいっ!」
むきになって否定していたタウリ。
一通りやり取りが済んだのかようやく席に案内され、早速本題に。
「──なるほど。業務責任者を探していると…それも口が固くて優秀な人物を」
「そうじゃな」
向かい合わせのソファーに座り、マタルはちょっと考えた後すぐに立ち上がった。
机に向かってなにか動作をすると、突然壁が動き出す。
「なっ、なにごとじゃ!」
「うわあ!すごいっ」
私も仕掛けに驚いて声をあげてしまった。
現れたのは大量の書類の束がギッシリ詰まった本棚だ。
驚く私達を気にせずにマタルはそこに近づき、何枚か紙を抜いていく。
「普通ならお金を頂いてからお見せするんですが、まぁタウリの頼みですから。お選び頂いてからお代を頂きましょう」
喋りながらこちらに戻って来ると、目の前の長テーブルの上に10枚ほどある紙を横一列に並べる。
「手に取って見てもいいですか?」
「……えぇ、どうぞ」
前に出て一枚ずつ内容を確かめていく。
ちゃんと顔の絵もついていて、生まれから家族構成、これまでの商売経歴まで結構事細かく書いてある。
情報ギルド怖ぁ~~。
離婚歴とか酒癖とか性癖とか…そんなのまで書いてあるよ……。
1枚、2枚…と見ていく。確かに私が指定した条件はクリアしてるんだけど、いまいちみんなピンとこない。
「──あっ…!」
ある一枚の書類を見て思わず声が漏れた。
「どうしましたかな?」
横で見守っていたタウリも私の反応に気付いて覗き込んでる。
「この人にします!」
一枚の紙を取り上げマタルに渡した。
「こちらは…あまり良い条件とは言えません…オススメするなら─」
「いえ、適任はこの人しか考えられません」
「随分はっきり確信しますね。お知り合いですか?」
目の前で書類と私を交互に見ている。
「知り合いではないです。でも、この人しかいません!すぐに紹介してください!」
ベール越しにマタルを見つめる。
マタルもこっちを見てたけど、しばらくして観念してように視線を外した。
「わかりました。……タウリ、この方は?」
「…ふんっ。わしが身をとして生涯仕えるお方じゃ」
「そうですか。あなたは相変わらず間違えない人です」
それまでとは打って変わり、マタルは柔らかな表情を見せた。
「??」
言われた意味はわからないけど、タウリが褒められたみたいで悪い気はしなかった。
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