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冒険者編 6

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 今日は久々気分転換に街へやって来たよ!
 もちろんシリウスの格好で。
 子爵令嬢ミラは失踪中だから、本来の自分の姿に戻るのはうちの中だけになっちゃった。

 ムーリフは帝都に近いから、ズラーッと様々なお店が立ち並んでいるんだ。

 初めここに越してきた時、シリウスの格好で出歩いていたら案の定治安隊に通報されてしまった…。 
 明らかに怪しいしフード姿の旅人とか冒険者とかは結構いるけど、仮面まで被って全身真っ黒な人間はあまり見かけないからね。しょうがないんだけどさ。
 シリウスの時は喋れないし、冒険者証を見せて冒険者ギルドでサーラに怪しい者じゃないって説明してもらうまで中々信じてもらえなかった。
 あれは相当苦い思い出だった…。

 今では周りからも冒険者だって認知されたのか、住民達に通報されることも無くなったよ。
 でも悲しいことに、訝しげな視線はいまだに無くならないゆだよね。
 シリウスは元々が呪われている事になってるから、みんな見て見ぬ振りをしてる感じ。
 私的にはそのほうが色々と楽だからありがたいけどさ。

「らっしゃいらっしゃ~い!新鮮な果物だよー」
「こっちは隣国から取り寄せた珍しい器だぞ~!ぜひ見てってくれ~」

 ムーリフは隣国からの輸入品も多いし、隣国のイプシロン王国は友好国だからイプシロン産の品物も数多く取り扱っているから見てて楽しい。

 私はなるべく人が多い大通りを歩くようにしている。
 なぜかっていうと、裏道に入るとだいたいゴロツキに絡まれるから。
 冒険者の私はそこまで寛大じゃないから、もちろん報復はするよ。
 実力差がわかったのか最近は絡まれなくなったけど、色々面倒だからこうして大通り沿いに都市の様子を見るようにしてる。

 ダンジョンに籠もっちゃうとしばらく出てこれないし、空いた時間で新商品を考案したりしてると、あっという間に月日が経っちゃう。
 たまにはこうして商店街に出てガヤガヤしてるの聞いたり、たくさん品物が並んでるのを見るのも新鮮でいいよね。

 しばらく散策してると商店街の中心部にある噴水近くまでやってきた。
 この先店はあまりなくて、民家が軒を連ねる場所。
 更に奥に行くともっと貧しい人達が暮らす貧困層街になる。華やかだった都市部と違い、一気に町並みも変わる場所。
 もちろん物乞いや地下組織に闇市も多いから、その辺りまでは治安隊も巡回しない。

 でも私は気にしないでそのあたりも散策してる。  
 シリウスの姿だとそっちの方が馴染むっていうか、みんなそんな訳ありな人が多いから周りの目を気にしなくてすむ。それにはわざわざ絡もうとしてこないからね。

「──、それは──で、あそこに……」

 大通りより一つ細い裏路地に入った時に、誰かの話し声が聞こえた。
 二人組でどっちもフードを被ってて人相はわからない。でも、聞こえた声の感じは結構若かった。
 言い争ってる訳じゃなくて、何かを確認してるみたいな感じ。紙を見ながら指を指して書き込むみたいなことをしてた。
 しかも書いてるインク内蔵ペンはアルファ商会のペンで、普通の庶民が買えない貴族専用に作った高級なやつ。
 怪しく思った私は建物に飛び移って、民家の屋根まで登った。
 屋根伝いに移動して、その二人組を上から監視した。
 普通に考えて貴族はこんな場所に来ないだよ。
 迷ってこの場所に来たわけじゃなさそうだし…怪し過ぎる。
 シリウスの姿ってとにかく視界が悪いからさ。
 知ってる人はともかく、知らない人間なら近づかないと人相まではわからないんだよ。
 
「……で、お分かりになりましたか?レグルス殿…」
「おいっ、その呼び方はやめるんだ。リオ」

 最近は感覚も鋭くなって小声で怒っているけど全部聞こえた。この帝国にレグルスの名の人物は一人しかいないから。

 ウソっ!?まさか!レグルス様なの!!?
 
 この帝国唯一の皇子、レグルス・トゥバン・アステリオン皇太子殿下。
 まさにこのミティストの男主人公!!
 てことはその隣にいるのはマイアの想い人、アンキロス公爵家の嫡男、ルリオン・デュ・アンキロス様。

 まさかまさかの展開に屋根の上で興奮を隠せない私。
 二人のフードで顔は見えないけど、こんなところでメインキャラの二人に会えるなんて~!!
 気配を消しつつも、心の中でキャーキャー言いながら不気味な仮面の下でニヤニヤと興奮と鼻息が止まらないよ。

 あぁー!!まだ若いお二人をちゃんと見たい!!
 でも流石にこの格好で近づくには無理があるか…。
 理由はわからないけど、お忍びで来てるっぽいしなぁ。
 邪魔はしないでおこう~っと。

 と思いつつ、ミティストのメインキャラを拝みたい私は、その後も二人の動向を屋根の上から監視していた。決してストーカー紛いのことはしてないよ。
 しっかし帝都でもないのに、なんでわざわざ離れたムーリフにお忍びで来てるんだろう?

「そろそろ引き上げましょう。遅くなると見つかってしまいます」
「あぁそうだな。影にも限界がある」

 まだ幼い二人。
 確か今の私と年は一緒だから、たぶん2人とも13歳のはず。
 周りの気配を探るけど、護衛っぽい騎士の気配はしないんだよね。
 まさかホントに2人きりで来たのかな?

「オメエら、この辺じゃ見ねぇ顔だな…」
「ここいらはこのアバタ様の縄張りだ!通りたかったら通行料を払え!!」

 路地裏にいそうなゴロツキが5、6人くらい突然2人を取り囲んだ。
 うわぁ、テンプレまで来ちゃったよ!さすがメインキャラ!!楽しい~!
 
「おかしいですね?この一帯の税とは無関係な地域で通行料などかからないは…」 
「ごちゃごちゃうるせぇ!!痛い目みたくなかったらさっさと金出せやぁ!」

 正論で返してるルリオン様が面白すぎる。そんなのここで通じるわけないじゃん。
 レグルス様もため息ついちゃってるし。
 ま、この2人魔法が使えるから全く心配してない。てか早く魔法使ってるとこがみたい!
 
「ふぅ、時間がないから仕方ないな」

 レグルス様が片手を上げ魔法を唱える。

『ファイアウォール』

 2人の周りに火の壁ができ、ゴロツキ達がわたわたと慌ててる。

「アチッ!クソっ魔法使いかよ!」
「いやアバタ兄ィ、コイツら売ったら相当儲るぜぇ」

 ゴロツキの頭みたいなやつがその言葉に目の色を変えてる。
 もちろんこの帝国内での奴隷制度や人身売買は固く禁止されてる。
 それをわざわざ帝国の皇太子の前で暴露するなんて、お馬鹿な奴らだね。

「帝国法第352条43項…いかなる場合においても人身の売買を行ってはならない。見つけ次第極刑に処す」

 ルリオン様が呟くと今度は水の粒が周囲に浮かんだ。

『ウォーターアロー』
 
 浮かんでいた水が細くて鋭い矢に変化しながらゴロツキ達に襲いかかる。

「ぐあぁっ!」
「イテテッ!痛ぇ~よ!!」

 容赦ない攻撃にゴロツキ達が悲鳴をあげる。致命傷にはならないだろうけど、あれはかなり痛いと思う。
 やっぱりメインキャラは違うね!この年でここまで魔法を使いこなしてるのは凄い!
 ゲームだとそんなに強く感じなかったけど、やっぱ現実世界を知った後だと彼らの実力は高く感じる。

「クソがっ!舐めやがって!他のヤツらも呼んで来いっ!!」
「ヘイッ!痛ッ!!」
 
 この辺のゴロツキは強くないけど、数は多いから仲間を呼ばれると結構厄介。しかもこの2人の正体がバレるのは良くないよね~。お忍びで来てるっぽいし。

「面倒になったな…」

 ボソッとレグルス様が呟いた。
 中途半端に攻撃したのが裏目に出たみたい。
 今はシリウスだし、ちょっとだけお助けしますよ!な~んて近くで2人の姿を拝みたいからって下心満載の理由なんだけど。

 私は屋根から飛び降り、仲間を呼びに走ろうとしていた下っ端の前に立ち塞がった。
 
「ひえッ!…し、シ、シリウス!?」

 下っ端は驚いて尻もちついてる。
 この連中にも何度か制裁を与えてるから、私に会っても近づかないようにしている。
 
「厄介なヤツが現れてくれたな」

 ちょっと殺気を出して無言で威圧する。
 静かに歩きながらお2人の前に立った。

「チッ、オメェの連れかよ!づらかるぜっ」
「今に見てろよっ!」

 いや、私は何もしてないからさ。
 やっつけてもいいけど、勝手に散ってくれるのはありがたいね。普段の行いの成果だよ!
 振り返ると2人は不審そうな顔でこっちを見てる。
 うぅ…わかってたけど、この2人にこんな目で見られるのはさすがに堪える。

「……いや、助けてもらったみたいだな…」
「え、えぇ…感謝いたします。時間もなかったので助かりました…」

 恐る恐る感謝を伝えられるけど、あまり関わりたくないってのが態度に出ちゃってるよ。
 2人が私の様子を窺ってるすきに、じ~っくりと仮面越しに見させてもらう。

 まだ背もそこまで高くないし、今声変わりの途中かなってくらい?
 フードが邪魔だけど近くで見ると顔もわかる!やっぱりメインキャラのお二方!
 シュッとした端正なお顔立ち。レグルス様は雪原のような光を放つ銀髪に高貴なロイヤルパープルの瞳、ルリオン様は光り輝く金髪に芽吹いた草木のような若葉色の瞳。
 隠れてて解りづらいけど、私にはわかる!!

 うわうわっ!やっぱりレグルス様とルリオン様だ~!!

 しっかり凝視して目に焼き付けてから高く跳躍し、私はその場を飛び去った。ずっと見てたいし話しかけたいしサインも欲しいけど、今は我慢我慢!

「なっ!」
「うわっ!」

 急に消えた私にビックリしたのか、2人は声を上げた後空を見上げて呆然としてた。

 うんうん、満足満足~!めちゃくちゃラッキー!!散策最高~!!来て良かったぁ~。

 風を切りながら屋根伝いに移動して大通りまで戻った。
 

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