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冒険者編 5

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 中は天井を見上げるほど広くて高い空間が広がってて、中を丸くくり抜いたような巨大な部屋だった。
 その奥に石でできた祭壇があって、数段の階段と上に動かない石の塊が飾ってあった。

「シリウス、あの岩はもしや…」

『ゴーレム』

 エルナト先生の言葉にコクリと頷いて、紙で書いて答えた。
 その直後、岩が擦れるような異様な音が空間に響いた。

「来ますぞ!」

 私を先頭に後方の二人も武器を出して構えてる。
 岩の塊が動き出して、どんどん人間みたいな形に変化してってる。
 そして音が鳴り止むと同時に、巨人のようなゴーレムが現れた。
 顔の形は無く丸みを帯びていて、胴体は人に近い形だけどどこか歪だった。
 石で出来た階段をズシンズシンと重量を感じさせながら降りてくる。

「たしかゴーレムは旧世界での錬金術でしか造られなかったものです。それがこのような場所に存在していたとは…この目で見ることができ、感無量ですね」

 エルナト先生はこんな状況でも初めてみたゴーレムに感動してた。
 この状況で流石だと思うよ。
 確かにゴーレムなんて滅多に見れないもんね。
 この時代に錬金術師は一人もいなくなってしまったから。

 祭壇を降りたゴーレムは私達の方へと向き直してる。
 体の比重が重いせいか、動きが緩慢じゃなくて動作にぎこちなさを感じるね。

「そっちに行きましたぞ!シリウス!」

 タウリの声と同時にゴーレムは私に向かって腕を振り上げてる。
 ゴゥゴゥと奇妙な鈍い音が響いて、重力を利用するように拳を下ろした。

 ドォドガーンーー!!

 自分に向かって垂直に振り下ろされる攻撃なんて余裕で避けられる。
 威力が凄いだけで意思のないゴーレムは人形と一緒。
 動きの鈍さと行動パターンが単調なせいか、まるで張り合いがないよ。

 後方へにジャンプして避けた私は、ここでの戦闘を思い出した。
 確かこのゴーレムの急所は頭部にあるコア
 硬い岩で出来た体を破壊するのは厄介だけど、逆をいえばそれさえなんとかしちゃえば直ぐにでもクリア出来てしまうってこと!
 ゴーレムは次にタウリを狙ってる。

「タウリ卿、来ますよ!」
「任されよ!」
 
 ゴーレムは同じ動きしかしないし魔法も出さない。けど、この巨体の攻撃を一撃でも浴びれば普通の人間なら即死か良くても重症は免れない。
 私は身体能力を一番強く強化する。
 魔力を身体の隅々まで行き渡らせ、鋼鉄のような強靭な肉体を思い描く。
 持ってた武器を細身のレイピアからタウリに持たせてたバトルアックスに持ち変えた。

 普通の状態ならかなり重みのある斧だけど、強化した今の私の身体には丁度手に馴染む重さだった。

『トルネード』

 エルナト先生は風魔法を使って応戦してるけど、ゴーレム相手に風属性は相性が悪い。

 ドッシィーン!!

 竜巻でゴーレムを浮き上がらせて、地面に叩きつけるけど決定的なダメージにはならない。
 数秒でゴーレムは転倒した地面から起き上がる。

「っぐ!ゴーレムとは厄介な輩ですな!」
「ふぅ…流石に硬いですね。岩や土その他の鉱物で構成されているゴーレムには、媒介となる核が存在しているはずですが…」

 バトルアックスを握りしめた私はエルナト先生の知識に感心した。

 ゴーレムなんてダンジョンでも滅多に出現しないのに、その構成や弱点まで知ってるなんてさすがエルトナ先生!
 仮面をつけているから判りづらいけど、尊敬の目をエルナト先生に向けた。
 前方にいる二人に気を取られてるゴーレムに背後からジャンプして、背中を伝って肩の部分まで瞬時に登ってく。

「おじょ…シリウスっ!危ないですぞ!」
「何をっ!」
 
 二人が肩に登った私を見て驚いてる。
 私は息を吸い込んで、渾身の力を込めて頭部に斧を振り下した。
 
 ガッ!!

 瞬時に岩が飛び散って、中心部にあった核もろとも破裂するように破壊された。

「うおわぁ!」
「危ないっ!」

 下にいたエルナト先生は咄嗟に風のバリアを張って、飛散した石が当たらないようにしてくれた。

 ウソ…私ってここまで馬鹿力なの…。

 自分のやった所業に自分でビックリしちゃった。
 昔やった餅つきの要領で思いっきり打ち込んでみたけど、ここまで派手に飛び散るとは思わなかったなぁ。

 電源を失ったようにゴーレムは途端に動かなくなる。
 肩の上に乗ってた私は、黒い手袋に包まれた自分の掌を仮面越しに見る。

 私のこの力って、何なんだろう…。魔力を使ってるのに、魔法って感じが全然しないよ。

「シリウス、お見事です。ゴーレムを倒したので隠し部屋の鍵も開きました」
「いやはや…これではわしらの出番もありませんな。ここまで成長されているとは…」

 しみじみと語ってるタウリはほっといて、エルナト先生が言うように祭壇の奥にある隠し部屋の鍵がガチリと開く音が聞こえた。
 ピョンピョンとゴーレムの体を伝い下へと降りる。
 祭壇の前にみんなで移動して、私を先頭に階段を登ってく。

「驚くほど早く攻略出来ましたな…じゃが、これが普通だと思ってもらっては困りますな」
「うむ…それは一理ありますね。シリウスの能力を基準にされると世界の理が変わってしまいます」

 んん~?要するに私が規格外だと言いたいのかな?

 階段を登りながら背後でグチグチ言われるのは嫌だが、確かに自分でもその自覚はある。
 ゲームをやってる時もそうだけど、戦闘においてこの世界はレベルが低過ぎると思っていた。
 目立ちたくないからこの能力を発揮するのは一人の時か、もしくはこの二人がいる時以外なるべく標準に沿うよう努めなくちゃ。
 階段を登って上にあがると、何かを祀ってあった石の祭壇が出てくる。
 このダンジョンは伝説の剣が祀られている唯一の場所。
 本来なら主人公と行動を共にする皇太子のレグルス様か、剣士であるアケルナーが手に入れるものなんだけどね。
 青白い光が瞬く中、狭いスペースの石の扉が開いて、中から石の棺が出てくる。
 それを開くと中から透き通るような銀色に輝くオメガニウム合金の大剣が現れた。
 
「なんと…素晴らしい輝きですな…かなりの業物ですぞ」
「武器に関しては素人ですが、これは逸品ですね…」

 オメガニウム合金とはこの世界での超金属。

 神が星々の力を集結させ大地に落としたといわれてる希少なもの。
 旧世界ではこのオメガニウム合金を加工できる部族が存在したんだけど、今ではその部族は滅亡しちゃって加工することは不可能。
 オメガニウム合金の武器や防具はすでに過去の遺物になってしまってる。
 
 この剣の名はデュランダル。

 このゲームでは二番目に強いといわれてる伝説の剣なのだ。
 棺の前で跪き、剣を手に取り掲げると青白い光を放ってる。
 これはデュランダルが私を主と認めた証。
 
「美しい…」

 エルナト先生の口から自然に言葉が溢れる。

 試しに近く積んであった石段に向い剣を振るってみる。
 ホントにさほぼ力入れないのに十字に石段がスパッと切れちゃった。まるで豆腐でも切ってるように軽い。

「こ、これは!…なんとも…恐ろしい怪物が誕生してしまいましたな…」

 冗談めかして言うタウリを他所に、私はひどく感動してた。
 こんなに物凄い切れ味なのに、刃先を手で触っても主人を傷付けない。
 伝説の武器、最高だね!これでまた一つ準備が整ったぞ。


 目的を達成した私達はダンジョンを後にした。

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