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スタンピード編 2

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「スタンピードは最悪の天災ですぞ…アレを経験したら、いくらお嬢でも心が病みますぞ!」

 タウリは洞窟で立ちながらグッと拳に力を入れてる。

 いつもの厳つい顔も苦痛に満ちた表情に変わってて、話を聞かなくてもタウリが想像を絶するような悲惨な体験をした事がよくわかるよ。
 
「それでも、私は行くよ」 

 素材とアイテムを入れた袋を地面に置いて、真っ直ぐにタウリを見た。

「戦う力があるのに何もしないで自分だけ逃げるなんて、私はそんな事したくない!」
「…しかし!スタンピードはお嬢が行ってどうにかなる問題ではありませんぞ!」
「わかってる!」

 両手を広げて何とか説得しようとしているタウリに、私も必死に食い下がった。

「勇気と無謀は違うってタウリは言ってたよね。タウリには無謀に思えるかもしれないけど…でも、戦う事で救える命が一つでもあるなら私は喜んで立ち向かうよ」

 話で聞いただけで実際どうなるかわからないし、どれだけ多くのモンスターが発生するのかもわからない。
 でもさ、私はもう見てるだけのプレイヤーじゃないしこの現実で生きて、戦う術も身に付けてるから。

「お嬢…はっきりと言いますが、現実は遥かに厳しいですぞ。勇敢で屈強な戦士が叫びながら逃げ回り…挙げ句目の前で無惨に食われ、女子供関係なく無差別に殺戮が繰り返される。目を覆いたくなるような阿鼻叫喚の光景が待ってるのですぞ…」

 タウリの言葉はひどく重くて恐ろしい。
 実際体験した人がそう言うのなら、本当にそうなるんだろうね。
 項垂れて片手で顔を覆っているタウリは昔を思い出したのかいつもの覇気が全く無くなってる。

「肝に銘じるよ。私だって怖いよ。スゴく怖い…。でももう決めたの。大丈夫!危なくなる前に飛んで逃げるからっ」
「想像を絶するような地獄絵図ですぞ!しばらく飯も喉を通らなくなりますぞ!何よりお嬢自身が命の危険に晒されますぞ!」

「タウリ、私はよ」

 俯いて捲し立ててたタウリは静かに顔を上げて、一度深呼吸してから大きく息を吐いてる。

 ニコッと笑う私を見て、諦めたように力なく笑ってた。

「お嬢は一度こうと決めたら、ガンとして譲らない頑固なとこがありますからな…わかりましたぞ。その代わり、少しでもお嬢に何かありましたら、わしは本気で怒りますぞっ!」

 途中自分にも気合を入れるように語尾を強く話してる。
 タウリの心配してくれる気持ちは本当にすごく嬉しい。危険なのは百も承知だよ。それでも私の我儘を聞き入れてくれた。

「ありがとうタウリ!大好きっ!!」

 受け入れてくれた嬉しさにぴょんとジャンプしてタウリに抱きついた。
 
「ガッハハ、久々聞きましたな。お嬢の大好きは元気が出ますぞ!」

 すかさず受け止め笑ってくれるタウリにすごく安心する。
 状況が状況だけに仕方ないんだけど、さっきまでの深刻な雰囲気はタウリらしくない。
 あのタウリにあんな表情をさせてしまうほどスタンピードは凄まじいってことなんだよね。

 空元気でも元に戻ってくれて良かった。
 私もタウリに笑顔を見せて、タウリから離れてから置いてあった袋を再び背負った。

「よしっ、とりあえずギルドに報告に行こう。他の素材は後回しで、先ずはこれからに備えよう!」
「わかりましたぞ」

 フンッと気合を入れる。
 タウリも頷いて、私達は来た道を引き返した。

 ダンジョンの外に出るとやっぱりいつもよりモンスターの遭遇率が明らかに高い。
 タウリと二人で顔を見合わせて、私はシリウスの仮面を被った。
 戦闘態勢に戻って出食わすモンスターを倒しつつ、急いでギルドへと向かった。





 ◇



「なっ、なっ、何ですってぇぇ~!!」

 冒険者ギルド中にサーラの声が響いてる。
 ギルド内にいた多くの冒険者たちもその声に驚いて一斉にこっちに注目してる。

 今回はタウリも着いて来てくれたからついでに説明してもらってるよ。 
 シリウスとしてこの場にいるけどさ、こういう時喋れないのは不便だけ仕方ないから。

「至急他のギルドにも緊急要請してランクの強い冒険者を集めるのだ!スタンピードは必ず起こる!皇宮にも早急に連絡し、守りを固めるのだ!!」

 サーラが座ってたカウンターをダンッ!と拳で打って力強く指示しているタウリはなんだかカッコいい。
 さすが熟練の冒険者は違うね!

 私は口出しできないからタウリの後ろでその様子を黙って見守ってる。

「スタンピードだと!」
「大丈夫か?あのおっさん…」
「そういえば今日はやけにモンスターの収獲が多かったな~」
「マジか!?逃げないと…」

 ギルド内が一気にザワザワと騒がしくなった。
 冒険者の反応も様々だね。


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