冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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子供編 6

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 早歩きで裏庭までやってきた。
 庭っていうより遊び場だよね。  
 花が咲き乱れるガーデンみたいなものじゃなく土で固めてあって、グラウンドみたいに整備されていて遊んだり走ったりしやすい場所。
 
 実技を始める前にまずやることがある。それは自分の属性を調べることだ!
 だだっ広い草原のような裏庭に、大きなクルハの木が生えている。
 エルナト先生はその樹から大きな葉を一枚取った。

「では初めに属性診断をさせてもらいます。方法は簡単です。まずこの葉に魔力を少しずつ流していきます。葉が燃えれば火属性、葉から水が滴れば水属性、葉が膨らめば風属性、葉が砕ければ土属性となります」

 エルナト先生は手に持っていた葉に微弱な魔力を流してる。ユラリと陽炎のように揺らめく魔力は美しい緑色をしてた。
 葉っぱはプックリと膨らみ、パンッと弾けてしまった。これはかなり強い風属性の証。

 私は感動してパチパチと激しく拍手を送る。

「このように私の属性は風属性となります」
「うわあぁぁ~すごいスッゴいっ!さすが先生!!」

 この時点でエルナト先生は風属性なのだが、あと7年もすると土属性にも覚醒するんだ。
 発端はゲーム中では説明されなかったけど、公式サイトにはスタンピードがキッカケだったと書いてあった。
 
 若干照れ臭そうに笑って、クルハの木から葉を一枚取った。
 そのまま取った葉を私に差し出してる。

「さぁどうぞ。今度はミラさんの番ですよ」

 ドキドキしながら手を伸ばして受け取る。じっとりと汗をかいている手で葉を持ってジッと見つめた。

「魔力の流し方はこの前教えた通りです。身体の中に巡っている魔力を、少しずつ外に外に押し出す感じです」

 正直毎日魔力を循環させている私にとって、この程度は朝飯前なのだがここでそれを悟られる訳にはいかない。
 深呼吸をしてから慣れない風を装って、たどたどしく葉に魔力を流していく。
 ゆっくりと無色透明の魔力を葉に浸透させていくけど、何故だか何も変化が起きてこない。

 あれ?おかしいな…とちょっと多めに魔力を流すけど、変わらず変化が無いよ?

「せ、先生…ちゃんと…出来てますか?」

 いつまで経っても変化の無い葉に、私は段々と不安になってくる。
 エルナト先生も焦ったように私の手元を間近で見ている。

「魔力の流し方は完璧ですね。淀むことなく均一に流せていると思います。…しかし、ここまで流して変化がないとは……」

 嫌な予感が過る。
 これはまさかの、まさかなの!?

「いや、これは……もしかしたらあなたは、魔法が使えないのかもしれません…」
「えええぇぇーー!!」
 
 衝撃の一言に私の絶叫が辺りにこだまする。
 なんで!?どうして!?魔力はすっごくあるのに!!?
 そんなの理不尽過ぎるよー!!
 エルナトは顎に手を置きながら難しい顔をして考えている。
 私は泣きながらエルナト先生の腰に縋りついた。

「ぜんぜ~、グスッ、わだじ、まほう、ヒック…づがえないの~~?!」

 号泣してエルナト先生の服の裾で涙を拭く。
 難しい顔をしていたエルナト先生は慌てたようにしゃがんで、私の肩に手を置いた。

「こういう事例は今まで無かったことなのです!大抵魔力のある者は魔法が使えるはずなのです!魔法が使えない者は魔力自体がありませんから」

 ズビズビ鼻水と涙を流している私に、エルナト先生はハンカチを差し出してくれた。
 もらったハンカチで遠慮なく涙を拭き鼻水をかんだ。

「ヒック、じゃ…ック…なん、で?」
「私にも正直……見当がつきません。あなたの魔力は確かに存在します。なので私は、当たり前の様にあなたが魔法を使えると思っていました」

 真剣な表情で今の状況を分析しているのか、私にというよりも自分に言い聞かせているようだった。

「じゃあ、どうしてなの?」
「それは……」
 
 エルナト先生は若き天才で、将来的には魔法の知識も大陸一博識だと言われる。
 そんな彼が解らないなら、きっと誰に聞いたって解るはずない。
 口を噤んでしまったエルナト先生を悲しい表情で見ていると、目の前の美男子が切羽詰まったように肩を掴んだ。

「ミラさん、暫らく私はお休みします」
「ふぇ!?なんで!?」
「実家に帰り、古い文献を調べてきます!」
「へっ?」
 
 スクッと立ち上がり、エルナト先生は空を見上げてる。
 
「我が家は代々魔法使いの家系です。何人も偉大な魔法士を輩出している事から、実家の書庫には古い魔道書が数多く存在します。その中ならもしかしたら、ミラさんの様な方の記録書が見つかるかもしれません」

 そう…エルナト先生はエルナト・バスグ・インテルクルースといい、インテルクルース辺境伯家の次男。
 優れた魔法使いの一族で、国境での警備も担っている凄いおうちなんだ。
 そんな凄い先生が調べてくれるなら、どうにかなるかな?

 すっかり泣き止んだ私は、エルナト先生と一緒に青空を見つめた。


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