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 考えのまとまらないティアーナは、アーサーの腕の中で想う。
 このままこの温もりに浸っていられたら、どれ程幸福だろう。お互いの立場や境遇、自分の呪いの事も何も考えず、幼い頃のように気持ちの赴くままアーサーと一緒になれたら……。

 そこまで考えてティアーナはぎゅっと瞳を閉じる。
 だが無理なのだ。
 今はもうあの幼い頃の自分ではない。 
 アーサーと共に歩く未来を現実にする事は事実上不可能。
 互いがそれを望んだとしても周りが許さない。
 
 再び瞳を開き、アーサーの胸に手をあて身体を離す。

「ティナ?」

 身体を離したティアーナを琥珀色の瞳が少し不安そうに
覗き込む。
 ティアーナも顔を上げて端正な顔を見つめる。
 
(こんなに神々しくて美しい男の人は見た事がない。私には勿体ないくらい沢山の物を持っている……だから、例え私が───)

 吸い込まれそうな輝きを放つ琥珀色の瞳、顔のパーツ一つ一つが完成された美術品のように整っている。銀色に煌めく絹糸のようなサラサラの髪も、染み一つない白磁の肌も、見る者全てを魅了する。
 神に選ばれた人間に相応しい完璧な美貌。
 しかも大国の王太子殿下。
 ティアーナも王女だが、所詮は小国で貧窮し、国庫はいつ崩壊し国が傾いてもおかしくない。
 
 アーサーが掛けてくれた上衣の合わせを握り、膝の上から降りる。

 立ち上がり床に落ちていたタオルを拾うと、身体に巻き付けた。
 上衣を身体から外し、綺麗にたたみ直す。

「こちらは汚してしまったので、洗い直してからお返し致します」
 
「いや、その必要はないよ。そのままもらっていくよ」
 
 同じく立ち上がったアーサーは気にした風もなくティアーナに手を差し出す。
 
「さすがにそれは出来ません。」

「うーん…じゃあまた今度、ティナに会う為の口実って事でお願いしようかな?」

 笑いながらウインクされて、ティアーナはポッと赤くなる。
 アーサーは根っからのたらしなのだろう。自分を良くわかっているからか、こんな気障な仕草も自然にでてしまうのだろう。

「アーサー様…」

「今日は急にご──」

 アーサーの言葉に被せるようにドアがノックされた。

「お嬢様、私です。入ってもよろしいですか?」
 
 アイシャが帰って来た。
 ギクリとしてティアーナは慌てふためく。アーサーがここにいるのもおかしいし、何よりこの姿を見られたら変に誤解されてしまう。

「え!?や、あ、ちょっと、待って!アイ、アシュリー!」
 
 冷静さを失ったティアーナはベッドに置いてある着替えを取り、何とか急いで着替えようとするのに慌てているせいか全くうまくいかない。
 近くで見ていたアーサーが突然ガチャリと扉を開ける。

「やぁ、また会ったね。ギルから解放されたのかな?」

「─!!はっ?!…なっ!…ア、アーサー様?」

 爽やかにニコリと笑うアーサーと、真っ赤になりながら慌てて服を着ようとしている全裸にタオル姿のティアーナ。
 この状況を見てアイシャは開いた口が塞がらなかった。周りを見渡して慌てて中へ入り扉を閉める。

「まっ、まままさかっ!お、お、お嬢様!??」

「ち、違うわっ、誤解よっ」

 何が違うのかも良くわからないがアイシャも状況が理解出来ず驚き、ティアーナもアーサーがいるこの状況を細かく説明しないと理解してもらえないと慌て……。

 そんな2人とは打って変わり、この状況をアーサーは楽しそうに見ている。
 ティアーナの側まで近づくと耳元で囁く。
 
「ティナ、また楽しもうね…」

 意味ありげな一言を残し、フードを羽織りながら手を挙げて扉から出ていく。

「なっ!なにを……」

「それじゃあ」

 囁かれた耳を咄嗟に押さえ、赤面しながらアーサーの背中を見送る。
 パタリとまた扉が閉まり、部屋の中がシーンと静まり返った。

「「……」」

 今まで長い間一緒に居て、こんなに気まずくなったことなどなかった。

「……あー、お嬢様…もしや、アーサー様とその、そーゆーことが…」

 すぐにでも否定したいが、全く何もなかった訳ではない。ティアーナも未だに動揺していた。

「とりあえず…着替えるわ。説明はその後でね」









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読んで頂きありがとうございます!
長らく更新できずに申し訳ありません。間隔は空くと思いますが、また更新していきたいと思います。
よろしくお願い致します。
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