29 / 35
29
しおりを挟むティアーナの言葉が静まり返った室内に響く。
アーサーはティアーナの言葉を頭の中で何度もリピートする。
「呪い?……ティナが、何故?」
こんな純真無垢の穢れない少女が呪いをかけられているなど、想像もつかない。
真っ直ぐな、でもどこか不安そうな眼差しを向けるティアーナ。
この世界における呪いとはそんな単純なものではない。魔術による呪いが主だが、それに伴う対価や犠牲が必要となり、かけた術者にもそれ相応の反動が返ってくる。極めて危険な代物だ。
よほどの事でもない限り、好き好んで呪いをかける者などまずいない。リスクが多すぎる。
ティアーナはアーサーから身体を離し、掛けてもらった服の合わせをギュッと握る。
「我が一族に代々受け継がれている、絶えることのない呪いです。血脈にかけられた呪いなので、子供にも受け継がれていきます」
「……そんな高等魔術を一体どうやって……解呪の方法はないのかい?」
ティアーナは首を横に振る。
「この呪いはかけた者にしか解くことは出来ません。その者は既に遥か昔に亡くなっております。解呪は不可能です」
俯いて沈んだ声で話すティアーナの身体をアーサーは再び抱きしめる。
「その呪いというのは、一体どんなものなんだい?」
呪われていると言ったのに、アーサーは自分を嫌悪する事なくこうして触れてきてくれている。
その些細な事が思いの外嬉しくて、胸の奥が温かく満たされていくように感じた。
だがしかし、呪いの説明をするのは少し抵抗がある。
恥じらっている場合ではないのだが、変な言い回しにならない様に頭の中で説明を考える。
アーサーの胸元に頬を寄せ決意を決める。
「この呪いは…初めて契りを交わした者以外と交わる事が出来ないものです……」
さすがに面と向かって言うことが出来ず、控えめな声で話したが、アーサーにはちゃんと聞こえているようだ。
「初めて、契りを交わした者………」
ティアーナの台詞を繰り返すように呟くアーサー。
アーサーの胸元から顔を離し、今度はきちんと瞳を見ながら話す。
「はい…もしもその者以外と不貞を働けばその先に待つのは……死、です」
見つめていたアーサーの瞳が更に開く。
背中に回っていた手からは僅かに力が抜けていく。
ティアーナの胸がズキッと痛む。
こんな話を聞いて引かれない筈はない。
見ていられなくてアーサーから瞳を逸らしたティアーナは、溢れそうになる想い胸の内にグッと押し込める。
期待などするな。
初めからわかっていた筈だ…こうなることは。
寧ろ、もっと早くに伝えるべきだった。でも伝えてしまえばそこで終わってしまう気がして。
ティアーナはそれが怖かった。
どうしてなのかは自分ですらわからない。
信じていた、好意のある人物に嫌われたり侮蔑されるのが嫌だったのだろうか。
随分都合の良い話だ。
自分が嫌になる。
これは今まで先送りにして来た自分への罰だ。アーサーの心を弄んだ。
「ティナ」
俯いていたティアーナにアーサーが静かに声を掛ける。
「……はい」
次に言われる言葉が安易に想像出来てしまう。
『何故今まで黙っていたんだ』
『騙された』
『汚らわしい』
何と言われようとも甘んじて受け止めよう。嫌われても何らおかしくはない。
むしろそれが当然だ。
ティアーナは覚悟を決めてアーサーを見上げた。
*****************************
読んで頂き、ありがとうございます!
3
お気に入りに追加
335
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
そうだ 修道院、行こう
キムラましゅろう
恋愛
アーシャ(18)は七年前に結ばれた婚約者であるセルヴェル(25)との結婚を間近に控えていた。
そんな時、セルヴェルに懸想する貴族令嬢からセルヴェルが婚約解消されたかつての婚約者と再会した話を聞かされる。
再会しただけなのだからと自分に言い聞かせるも気になって仕方ないアーシャはセルヴェルに会いに行く。
そこで偶然にもセルヴェルと元婚約者が焼け棒杭…的な話を聞き、元々子ども扱いに不満があったアーシャは婚約解消を決断する。
「そうだ 修道院、行こう」
思い込んだら暴走特急の高魔力保持者アーシャ。
婚約者である王国魔術師セルヴェルは彼女を捕まえる事が出来るのか?
一話完結の読み切りです。
読み切りゆえの超ご都合主義、超ノーリアリティ、超ノークオリティ、超ノーリターンなお話です。
誤字脱字が嫌がらせのように点在する恐れがあります。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
↓
↓
↓
⚠️以後、ネタバレ注意⚠️
内容に一部センシティブな部分があります。
異性に対する恋愛感情についてです。
異性愛しか受け付けないという方はご自衛のためそっ閉じをお勧めいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる