薔薇の呪印 ~逃亡先の王子様になぜか迫られてます

ウリ坊

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 ティアーナの言葉が静まり返った室内に響く。

 アーサーはティアーナの言葉を頭の中で何度もリピートする。

「呪い?……ティナが、何故?」

 こんな純真無垢の穢れない少女が呪いをかけられているなど、想像もつかない。
 真っ直ぐな、でもどこか不安そうな眼差しを向けるティアーナ。

 この世界における呪いとはそんな単純なものではない。魔術による呪いが主だが、それに伴う対価や犠牲が必要となり、かけた術者にもそれ相応の反動が返ってくる。極めて危険な代物だ。
 よほどの事でもない限り、好き好んで呪いをかける者などまずいない。リスクが多すぎる。

 ティアーナはアーサーから身体を離し、掛けてもらった服の合わせをギュッと握る。

「我が一族に代々受け継がれている、絶えることのない呪いです。血脈にかけられた呪いなので、子供にも受け継がれていきます」

「……そんな高等魔術を一体どうやって……解呪の方法はないのかい?」

 ティアーナは首を横に振る。

「この呪いはかけた者にしか解くことは出来ません。その者は既に遥か昔に亡くなっております。解呪は不可能です」

 俯いて沈んだ声で話すティアーナの身体をアーサーは再び抱きしめる。

「その呪いというのは、一体どんなものなんだい?」

 呪われていると言ったのに、アーサーは自分を嫌悪する事なくこうして触れてきてくれている。
 その些細な事が思いの外嬉しくて、胸の奥が温かく満たされていくように感じた。
 
 だがしかし、呪いの説明をするのは少し抵抗がある。
 恥じらっている場合ではないのだが、変な言い回しにならない様に頭の中で説明を考える。

 アーサーの胸元に頬を寄せ決意を決める。

「この呪いは…初めて契りを交わした者以外と交わる事が出来ないものです……」

 さすがに面と向かって言うことが出来ず、控えめな声で話したが、アーサーにはちゃんと聞こえているようだ。

「初めて、契りを交わした者………」

 ティアーナの台詞を繰り返すように呟くアーサー。

 アーサーの胸元から顔を離し、今度はきちんと瞳を見ながら話す。

「はい…もしもその者以外と不貞を働けばその先に待つのは……死、です」

 見つめていたアーサーの瞳が更に開く。
 背中に回っていた手からは僅かに力が抜けていく。
 ティアーナの胸がズキッと痛む。


 こんな話を聞いて引かれない筈はない。
 見ていられなくてアーサーから瞳を逸らしたティアーナは、溢れそうになる想い胸の内にグッと押し込める。
 
 期待などするな。
 
 初めからわかっていた筈だ…こうなることは。
 寧ろ、もっと早くに伝えるべきだった。でも伝えてしまえばそこで終わってしまう気がして。

 ティアーナはそれが怖かった。
 
 どうしてなのかは自分ですらわからない。

 信じていた、好意のある人物に嫌われたり侮蔑されるのが嫌だったのだろうか。
 随分都合の良い話だ。
 自分が嫌になる。
 
 これは今まで先送りにして来た自分への罰だ。アーサーの心を弄んだ。

「ティナ」

 俯いていたティアーナにアーサーが静かに声を掛ける。
 
「……はい」

 次に言われる言葉が安易に想像出来てしまう。
 
 『何故今まで黙っていたんだ』
 『騙された』
 『汚らわしい』

 何と言われようとも甘んじて受け止めよう。嫌われても何らおかしくはない。
 むしろそれが当然だ。



 ティアーナは覚悟を決めてアーサーを見上げた。















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