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 3日後。

 ティアーナは朝から落ち着かなかった。
 今日はアーサーが訪ねてくる。
 きちんと話さなければという思いと、会える期待で心中がかなり複雑になっていた。

「ティアーナ様、大丈夫ですか?」

 仕事用のワンピースの上にエプロンを付け、髪を結わえながら、ティアーナはソワソワするのを抑えられなかった。

「大丈夫よ。ちょっと緊張しちゃって……」
「本当に、アーサー様にお話するんですか?」
「えぇ、こういう事は早めにはっきりさせないとダメなのよ。先送りにするのは良くないわ」

 椅子に腰かけていたティアーナは、沈んだ表情で視線を落とす。

「ティアーナ様が決めた事なら止めませんが……アーサー様が暴走しないといいんですがね」

 ボソッと呟いた言葉の最後が良く聞こえず、ティアーナは聞き返す。

「え?何か言ったかしら?」
「いえ、独り言です」

 アイシャの言葉はわからずじまいだったが、仕事の時間になったので、二人は店へと向かった。



 仕事中は働く事に夢中になっているから考えなくてすんだが、時間が経つにつれ、お客も減り、とうとうアーサーか訪ねてくる時間になってしまった。

 このまま来ないでほしいと少し思いつつも、アーサー達は約束通りやってきた。

 事前に女将に許可をとっていたので、この前の空いている部屋まで案内した。

「師匠、裏で稽古してもらって良いですか?」

 アイシャが案内の途中で、急にギルバートに訪ねた。

「俺は一応護衛で来ているんだが」
「部屋のすぐ裏ですから大丈夫です!お願いします!少しでも時間がある時に師匠に教えてもらいたいんです!」

 アイシャの言葉にティアーナはビックリする。ここまでアイシャが真剣に稽古を望んでいるなんて、一体どうしたんだろうか。

「あ、アシュリー、あまり無理を言っては……」

「ギル、せっかくだから行ってきなよ。可愛い弟子のお願いだろ?」

 そんな二人の様子を面白そうにアーサーは見ている。
 ギルバートはため息をつき、面倒そうに話す。

「俺は遊びで来ているわけじゃない」
「私も遊びでお願いしている訳ではありません!」

 ギルバートが睨み付けるが、アイシャは怯むことなく一歩も引かない。

「俺とティナで話を進めておくから、二人で稽古しててくれ」

 アーサーはそう言ってティアーナの手を引き、この前の部屋へ入って行った。

「さぁ、師匠!こちらです」
「お前は……」

 部屋の外からアイシャの声が聞こえるが、足音が遠ざかったということは、ギルバートも諦めて着いていったのだろう。




 部屋の中は二人きり。

 ティアーナはこの状況にちょっと危機感を抱いてしまう。
 急に襲うような真似はしないだろうが、密室に二人だけの状況は心臓によろしくない。

「アーサー様、こちらにお座り下さい」

 席に案内するティアーナの背後から、アーサーはすかさず抱きしめる。

「アーサー様!」

 急に抱きしめられ、心臓がおかしいくらいバクバクする。
 
 フードを取ったアーサーは、自分の腕の中にティアーナを閉じこめる。

「あ、あの……!」

 ティアーナの胸の上辺りに腕が回り、強く引き寄せられ、耳元で熱っぽく囁く。

「ティナ…会いたかった……」

「……っ!」

 背後から、耳朶に触れるほど近くで聞こえる声に、身体がビクッと震える。
 その反応に気を良くしたのか、アーサーはわざと耳元で話しだす。

「ティナに会う為に、仕事を全部終わらせて来たんだ……頑張ったから、ご褒美をくれないか」

 そう言って耳輪を軽く噛む。

「ひゃっ……!」

 ピリッとした刺激に思わず声が漏れる。
 アーサーは舌で耳の輪郭を舐めていく。

「やっ……あ……、いけま…せん……っぁ……」

 アーサーはティアーナの制止など、全く気にも止めず耳への愛撫を続けている。
 耳裏から生え際に唇が這い、項を強く吸われる。

「んっ!」

 ピリッとした痛みと共に唇が離され、今度は首筋に移動する。
 
「あっ……」

 首筋にあてられた唇が擽ったくて、ティアーナは首を横に捩りながら竦める。
 同じく痕をつけるように強く吸われ、背筋をゾクゾクした快感がかけぬけていく。

「やぁ…!」

「ティナの匂いがする……良い匂い……甘くて…酔いそう……」

 このままじゃ、まずい。
 アーサーを止めないと。
 今日はアーサーに誤解を解こうと思っていたのに、なんでこんな風になったのか、わからない。


 ティアーナは持てる力を総動員して、アーサーの腕の中から何とか抜け出した。







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