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 リアンタールの首都バルト。
 多くの賑わいを見せる港に面した大都市だ。

 母国であるカナン以外、ほとんど出たことのないティアーナは、その都市の大きさに目を輝かせる。
 貧困国であるカナンとは雲泥の差だ。
 街が活気に満ち、人で溢れている。

「アイシャ!凄いわ!人が沢山いる!」

 はしゃぐティアーナにアイシャは思わず笑ってしまう。

「お嬢様ってば、楽しそうですね」

 クスクスと笑い、アイシャもその景色を眺める。
 自国であるカナンは本当に寂れていた。
 まず若者の数が圧倒的に少ない。
 国民の大半は高齢者だ。過疎化も進み、主だった産業もない。国民達は自分の生活を繋いでいくので精一杯だ。
 なので税収も少なく、数少ない若者も国を離れ他国へと移ってしまい……と、負の連鎖が続いていく。

 キョロキョロと辺りを物珍しそうに見ているティアーナは、大都市に慣れていない田舎者に映るだろう。

「そろそろ今夜の宿を決めないといけませんね。一番は職の確保ですが……」

「そうね…使えるお金は限られているし、早めに見つけないとね」

 人混みの雑踏を掻き分け、二人は宛もなく歩き出した。

 とりあえず二人は雇ってもらえる場所がないか聞き込みをする。
 出来れば住み込みがいいのだが、なかなか難しい。

 宿を決めるも、今までの旅の消費が祟り、そろそろ生活に支障をきたしそうだ。
 
 宿屋で荷物を降ろし、女将に情報を聞くべく下に降りる。

「働き口かい?そうさね~。何ならここで働くかい?お前さん達のようなべっぴんさんなら歓迎だよ!」

「え!女将さんいいんですか!?」

 突然の申し出に驚くが、大変有難い。

「あぁ、うちは食堂も兼ねてるからね~、そこらで客寄せでもしとくれよ」

「はい!よろしくお願いします!」

 二人は手を取り合って喜んだ。いきなり舞い込んだ幸運に浮き足立つ。

「良かったわね、アイシャ!これで当面は何とかなるわ!」

「本当に良かったですね!頑張りましょう!」

 そんな二人の様子に女将さんが苦笑する。若い身空で色々とあるのだろう。
 沢山の人間を見てきた女将は、何らかの事情を抱えているであろう二人を優しい顔で見守っていた。







 ◇◇







 翌日から早速ティアーナとアイシャは働き出した。しかも住み込みで雇ってもらえた。

 ティナとアシュリーは共に美人なのもあり、宿屋兼食堂は大変な賑わいを見せた。

 だが、当の本人達は気付いていない。
 看板娘と化した二人に言い寄る輩ももちろん増えた。アイシャは問題外として、初めは戸惑っていたティアーナも、次第にあしらうのが上手くなっていく。
 
「ティナ!今日こそは一緒に屋台行こうぜ!」

 毎日熱心に口説いてくる男は後を立たない。初めは不思議でしょうがなかった。
 アイシャはわかるのだが、ティアーナは自分の容姿を平凡だと思っていたからだ。

「こんにちは、ダラスさん。今日は定食の売れ行きが良くないから、屋台に行くのはちょっと無理だわ。ごめんなさい」

「何!?俺が注文してやるから、食べたら行ってくれるか?」

「そうね……食べきれたら考えるわ」 

「よし、親父さん!今日の定食出してくれ!」

 そう言うと、食べきれない程の量が乗った山盛りの皿が出てくる。

「おい!何だこの量は!?」

「それが本日の定食だよ」

 親父さんは何事もないように淡々と話す。
 普通の定食の倍以上はあるだろう。ダラスは頑張ったが、完食は無理だった。

「うっぷ……ティナ………今日は……ちょっと…用事があるから、また………来るな……うっ!」

 ダラスは会計を済まし、口と腹を抑えながら足早に外へ出ていった。

 その様子にティナは苦笑を漏らす。

「全く、ティナを誘おうなど!100万年早い!」

 アイシャは注文を運びながら憤っている。
 そんなアイシャにも誘いは絶えないのだが、アイシャの冷たいあしらいに男達は中々近付けないでいた。
 一部の間ではその冷たさが癖になるようで、わざと怒らせては冷たい視線を浴びさせて、悦に入っている危ない輩も出てきている。

 基本的には遠巻きに見ている連中も少なくないらしい。

 ここ『宿り木』で雇ってもらい早二月ほど経つ。
 初めは追っ手にもびくびくしていたが、特にその様な出来事にも合わず、今のところ平和に暮らしている。

 
 
 仕事も終わり、二人は離れの部屋へ戻ってきた。ここが二人が住み込みで借りている部屋だ。

 そこまで広くはないが、十分環境が整っている。

 宿屋の方でお風呂に入り、寝る準備は万端だ。

「アイシャ、お疲れ様。だいぶ資金が貯まってきたわね!」


 寝間着に着替え、ベッドに腰かけたティアーナは同じく対面で並んでいるベッドに座っていたアイシャに話しかける。

「えぇ、ようやくですね。このままいけば後半年程で何とかなりそうです」

 アイシャも満足そうな顔でティアーナを見る。

 実は、この働いた資金を元手に託児所を開設しようとしているのだ。

 この世界に託児施設なるものはない。あるのは弧児院のみだ。
 このリアンタールは働く女性が多い。だったら託児所は絶対に必要なハズだ。
 特に小さな子供のいる母親には少なからず需要がある。

 二人はここに移り住んでそう導き出した。

 しかもティアーナの前世は主婦。もちろん子育てもしてきている。だったらこの知識を活用するべきだ。

 こうして二人は開業資金を工面すべく、頑張って働いているのだ。


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