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様変わりした立場
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「アリー……、巡礼は負担になっていないかい?」
「はい! むしろ私の能力をみんなが必要としてくれていて、すごくやり甲斐があります!」
ここはローの手入れしている庭園。
あの婚約発表から数ヶ月が経っていた。
『古の聖者』として帝国各地を巡礼しているアリシアは、ときたま暇をみつけてはローのいるこの庭園へと足を運んでいた。
「そうなんだね……。アリーの能力はわたしが付加価値を見出していたが、ここまで帝国の問題に多大なる影響を及ぼすとは思ってもみなかったなぁ……」
いつも通り花々が咲き乱れる庭園に外付けされているテーブルセットで、ぶつぶつと独り言のように呟いている。
「え……? どうか、しましたか?」
いつも通りヤツメ草を煎じて煎れていたアリシアに、その言葉は届いていなかった。
「いや。アリーが充実した日々を送っているようで、安心したよ」
顔に深いシワを刻み、にこりと笑ったローにアリシアも笑いかける。
「ありがとうございます! この前は熊に襲われている村があって、その熊は実は山に木の実や食べ物がなくて……」
アリシアは自分が苦しんでいる人々から必要とされていることが嬉しくて、お茶を優雅に飲んでいるローに自分がこれまで体験した出来事を矢継ぎ早に話していく。
ローもアリシアが淹れてくれたお茶を飲みながら、嫌な顔一つせず、笑顔でアリシアの話に耳を傾けていた。
◆◇◆
そして、ここはハミルトン大公家。
ジェイデンはようやく心を入れ替えたのか、アリシアとの婚約発表をしてからというもの、侍女長に命令し使用人を大幅に入れ替えた。
アリシアに対し高圧な態度で接していた使用人は全員解雇させていた。
アリシアをハミルトン大公家の女主人として使用人に紹介し、屋敷にあるすべての権限をアリシアへと譲った。
アリシアと仲の良かったアンはアリシア専属の侍女となり、今では待遇も改善されていた。
「アン。明日から行われる地方の巡礼の予定はどうなっているかしら?」
「アリシア様。明日からは帝国の害獣における被害の多い――」
アンはアリシアの補佐官のような役割まで担っていた。元々アンもそういったことが嫌ではなかったのか、アリシアの秘書官のように振るまい、今ではハミルトン大公家の中でも揺るぎない地位を確立していった。
基本的には神殿に属しているアリシアだが、その所有権は大公家の当主であるジェイデンが把握していた。
何故なら神殿で『神聖なる者』として登録されたアリシアは、ハミルトン大公家の人間であり、ハミルトン大公夫人としても名を馳せていたからだ。
支度をしながら報告を受けているアリシアの部屋の扉が、音を立てて勢いよく開かれた。
「アリシアっ!」
「――っ! た、大公様……!?」
アリシアが支度をしている鏡台の前までやってくると、アリシアの側に控えていたアンは一礼してその場を離れた。
アリシアも驚いて支度を終えた格好のまま立ち上がる。
「また、巡礼へ行ってしまうのですか……?」
「……はい。遠出ではないので、三日ほどで戻れると思いますが……」
「三日もッ……!!」
ジェイデンはクラリと目眩でも起こしたようによろけている。大げさな……と思いながらも、アリシアは冷静さを崩さなかった。
いい加減ジェイデンの扱いにも慣れてきたのか、少しのことで物怖じはしなかった。
「ご安心ください。大公家の名に恥じぬよう、迅速に務めを全うして参ります。大公様は――」
「違いますっ!!」
いつも通りすらすらと決まり文句を並べていたアリシアに、ジェイデンはここぞとばかりに思い切り否定的な言葉を吐き出した。
「はい! むしろ私の能力をみんなが必要としてくれていて、すごくやり甲斐があります!」
ここはローの手入れしている庭園。
あの婚約発表から数ヶ月が経っていた。
『古の聖者』として帝国各地を巡礼しているアリシアは、ときたま暇をみつけてはローのいるこの庭園へと足を運んでいた。
「そうなんだね……。アリーの能力はわたしが付加価値を見出していたが、ここまで帝国の問題に多大なる影響を及ぼすとは思ってもみなかったなぁ……」
いつも通り花々が咲き乱れる庭園に外付けされているテーブルセットで、ぶつぶつと独り言のように呟いている。
「え……? どうか、しましたか?」
いつも通りヤツメ草を煎じて煎れていたアリシアに、その言葉は届いていなかった。
「いや。アリーが充実した日々を送っているようで、安心したよ」
顔に深いシワを刻み、にこりと笑ったローにアリシアも笑いかける。
「ありがとうございます! この前は熊に襲われている村があって、その熊は実は山に木の実や食べ物がなくて……」
アリシアは自分が苦しんでいる人々から必要とされていることが嬉しくて、お茶を優雅に飲んでいるローに自分がこれまで体験した出来事を矢継ぎ早に話していく。
ローもアリシアが淹れてくれたお茶を飲みながら、嫌な顔一つせず、笑顔でアリシアの話に耳を傾けていた。
◆◇◆
そして、ここはハミルトン大公家。
ジェイデンはようやく心を入れ替えたのか、アリシアとの婚約発表をしてからというもの、侍女長に命令し使用人を大幅に入れ替えた。
アリシアに対し高圧な態度で接していた使用人は全員解雇させていた。
アリシアをハミルトン大公家の女主人として使用人に紹介し、屋敷にあるすべての権限をアリシアへと譲った。
アリシアと仲の良かったアンはアリシア専属の侍女となり、今では待遇も改善されていた。
「アン。明日から行われる地方の巡礼の予定はどうなっているかしら?」
「アリシア様。明日からは帝国の害獣における被害の多い――」
アンはアリシアの補佐官のような役割まで担っていた。元々アンもそういったことが嫌ではなかったのか、アリシアの秘書官のように振るまい、今ではハミルトン大公家の中でも揺るぎない地位を確立していった。
基本的には神殿に属しているアリシアだが、その所有権は大公家の当主であるジェイデンが把握していた。
何故なら神殿で『神聖なる者』として登録されたアリシアは、ハミルトン大公家の人間であり、ハミルトン大公夫人としても名を馳せていたからだ。
支度をしながら報告を受けているアリシアの部屋の扉が、音を立てて勢いよく開かれた。
「アリシアっ!」
「――っ! た、大公様……!?」
アリシアが支度をしている鏡台の前までやってくると、アリシアの側に控えていたアンは一礼してその場を離れた。
アリシアも驚いて支度を終えた格好のまま立ち上がる。
「また、巡礼へ行ってしまうのですか……?」
「……はい。遠出ではないので、三日ほどで戻れると思いますが……」
「三日もッ……!!」
ジェイデンはクラリと目眩でも起こしたようによろけている。大げさな……と思いながらも、アリシアは冷静さを崩さなかった。
いい加減ジェイデンの扱いにも慣れてきたのか、少しのことで物怖じはしなかった。
「ご安心ください。大公家の名に恥じぬよう、迅速に務めを全うして参ります。大公様は――」
「違いますっ!!」
いつも通りすらすらと決まり文句を並べていたアリシアに、ジェイデンはここぞとばかりに思い切り否定的な言葉を吐き出した。
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