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安らぎ
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アリシアの瞳から次々と涙が溢れては流れる。
ここまでアリシアを心配し、わかってくれた者など今まで誰もいなかった。こんな風に助けられた事も、怒りを顕にしてくれた者も、当然の如くいなかった。
アリシアの体を引き寄せたまま、腫れた頬に唇を寄せる。
「可哀想にっ!……こんなに赤くなって……」
そっと触れるくらいの軽いキスを落とし、泣いていた目元にも唇を当てていく。
「ん……」
「許せませんねっ!貴女に、このような卑劣な暴行をッ!」
叩かれた時、傷になった頬を舌を出してぺろりと舐める。
「っ、ん」
わずかな痛みと擽ったさと、胸が締めつけられるような切ない思いに、アリシアはぎゅっと目を閉じた。
あれだけジムに触られることに激しい抵抗と嫌悪感があったのに、ジェイデンに触れられることは安心できるくらいとても心地良く感じる。
こんなにも違うのかと、アリシア自身驚いていた。
ジェイデンの唇が腫れた頬を癒すように触れ、そしてそのままアリシアの唇に軽く触れる。
初めはいたわるように軽く……次第にしっとりと重なり、そして深く口づけていく。
「んっ、……んッ!」
こうしてキスされることもアリシアにとって初めてだった。初めて触れ合う唇が思いのほか心地良く、貪るようなキスに夢中になっていた。
「っ!ツゥ!」
口の中が切れていたせいか、ジェイデンの舌が入ってきた瞬間、ピリッと痛みが走った。
ジェイデンも驚いてすぐに唇を離す。
「も、申し訳ございません!大丈夫ですか?!」
慌てたように顔を離し、アリシアの様子を伺っているジェイデン。その様子が何だか可笑しくて、アリシアは痛む頬をそっと押さえながら笑った。
「ふふっ、大丈夫、です」
ジェイデンは途端に切ない顔をしてアリシアを抱きしめた。
今までジェイデンに触れられて、ここまで安らげた事はなかった。
救いの手を差し伸べられたことはなかったが、ジェイデンはアリシアを探し出し、元夫への怒りと共に救いだしてくれた。
「ふぅ……アリシアさんの姿が急に見えなくなったので、心配でずっと探してました。他の者に聞いてもわからないと言われて……」
「よく、ここだと……わかりましたね?」
「はい。貴女の香りを辿って来ました」
「香り?私の?」
「えぇ。貴女からは常に甘くて、とても良い香りが漂っているんです。その香りを頼りに、ここを特定できました」
そういえば……とアリシアは思う。
抱かれている時、ジェイデンはよく口にしていた。自分から甘い香りがしている、と。
「そんなに、匂いますか……?」
特別、自分からそんな香りがしているとは思えなかった。
アリシアを抱きしめていたジェイデンはそっと身体を離し、腕を上げて自分の匂いを嗅いでいるアリシアに向かい、くすりと笑っていた。
「竜族は愛しい者の匂いを決して違えません。特に運命の伴侶である貴女の香りは、こうして嗅いでいるだけでとても安らぐのです」
「運命の……伴侶……」
「竜族にとって運命の伴侶とは、症状を抑える相手、という意味ではありません。その言葉通り、唯一無二の愛しい存在という事になります」
「愛、しい……?私が……?」
「えぇ。私が貴女を愛している、ということです」
「あ、愛!?」
アリシアはジェイデンの告白に思わず瞠目する。これまでのジェイデンの行動を思い返すが、そんな素振りは一切なかったように思う。
ジェイデンはにこりと笑い、アリシアの手を取る。その手を自らのほうへ引き寄せ、手のひらにそっと唇を寄せた。
「――っ!」
唇を離したジェイデンはそのままアリシアの手を握り、俯いた状態で瞳を伏せた。
「貴女に謝らなければなりません……」
「え……?大公様が、私に、謝るのですか?」
「はい」
「それは、一体……?」
「とにかく、一旦ここから出ましょう。まずは貴方の治療が優先です。それに……コレが視界の端にいるだけで不快ですからね」
顔を上げ元夫のジムを鋭く一瞥して、ジェイデンはにこりと微笑んでいたが……開いた瞳は、ヘビのような瞳孔をしていた。
ここまでアリシアを心配し、わかってくれた者など今まで誰もいなかった。こんな風に助けられた事も、怒りを顕にしてくれた者も、当然の如くいなかった。
アリシアの体を引き寄せたまま、腫れた頬に唇を寄せる。
「可哀想にっ!……こんなに赤くなって……」
そっと触れるくらいの軽いキスを落とし、泣いていた目元にも唇を当てていく。
「ん……」
「許せませんねっ!貴女に、このような卑劣な暴行をッ!」
叩かれた時、傷になった頬を舌を出してぺろりと舐める。
「っ、ん」
わずかな痛みと擽ったさと、胸が締めつけられるような切ない思いに、アリシアはぎゅっと目を閉じた。
あれだけジムに触られることに激しい抵抗と嫌悪感があったのに、ジェイデンに触れられることは安心できるくらいとても心地良く感じる。
こんなにも違うのかと、アリシア自身驚いていた。
ジェイデンの唇が腫れた頬を癒すように触れ、そしてそのままアリシアの唇に軽く触れる。
初めはいたわるように軽く……次第にしっとりと重なり、そして深く口づけていく。
「んっ、……んッ!」
こうしてキスされることもアリシアにとって初めてだった。初めて触れ合う唇が思いのほか心地良く、貪るようなキスに夢中になっていた。
「っ!ツゥ!」
口の中が切れていたせいか、ジェイデンの舌が入ってきた瞬間、ピリッと痛みが走った。
ジェイデンも驚いてすぐに唇を離す。
「も、申し訳ございません!大丈夫ですか?!」
慌てたように顔を離し、アリシアの様子を伺っているジェイデン。その様子が何だか可笑しくて、アリシアは痛む頬をそっと押さえながら笑った。
「ふふっ、大丈夫、です」
ジェイデンは途端に切ない顔をしてアリシアを抱きしめた。
今までジェイデンに触れられて、ここまで安らげた事はなかった。
救いの手を差し伸べられたことはなかったが、ジェイデンはアリシアを探し出し、元夫への怒りと共に救いだしてくれた。
「ふぅ……アリシアさんの姿が急に見えなくなったので、心配でずっと探してました。他の者に聞いてもわからないと言われて……」
「よく、ここだと……わかりましたね?」
「はい。貴女の香りを辿って来ました」
「香り?私の?」
「えぇ。貴女からは常に甘くて、とても良い香りが漂っているんです。その香りを頼りに、ここを特定できました」
そういえば……とアリシアは思う。
抱かれている時、ジェイデンはよく口にしていた。自分から甘い香りがしている、と。
「そんなに、匂いますか……?」
特別、自分からそんな香りがしているとは思えなかった。
アリシアを抱きしめていたジェイデンはそっと身体を離し、腕を上げて自分の匂いを嗅いでいるアリシアに向かい、くすりと笑っていた。
「竜族は愛しい者の匂いを決して違えません。特に運命の伴侶である貴女の香りは、こうして嗅いでいるだけでとても安らぐのです」
「運命の……伴侶……」
「竜族にとって運命の伴侶とは、症状を抑える相手、という意味ではありません。その言葉通り、唯一無二の愛しい存在という事になります」
「愛、しい……?私が……?」
「えぇ。私が貴女を愛している、ということです」
「あ、愛!?」
アリシアはジェイデンの告白に思わず瞠目する。これまでのジェイデンの行動を思い返すが、そんな素振りは一切なかったように思う。
ジェイデンはにこりと笑い、アリシアの手を取る。その手を自らのほうへ引き寄せ、手のひらにそっと唇を寄せた。
「――っ!」
唇を離したジェイデンはそのままアリシアの手を握り、俯いた状態で瞳を伏せた。
「貴女に謝らなければなりません……」
「え……?大公様が、私に、謝るのですか?」
「はい」
「それは、一体……?」
「とにかく、一旦ここから出ましょう。まずは貴方の治療が優先です。それに……コレが視界の端にいるだけで不快ですからね」
顔を上げ元夫のジムを鋭く一瞥して、ジェイデンはにこりと微笑んでいたが……開いた瞳は、ヘビのような瞳孔をしていた。
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