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自由を求める心

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 ローが二人を呼び出してほしいと言った次の日、アリシアは部屋で待機していた。
 こうしていると自分の体質が発覚して、両親がアリシアを部屋へ閉じ込めていた時の事を思い出す。
 あの頃も今もやはり同じだ。
 自分の自由を奪われるのは我慢ならなかった。
 
 私はもう誰にも束縛されたくない。
 ようやく…あの夫から逃れられたのに、どうしてまた捕まってしまったの?
 
 バルコニーへと繋がる窓の前に立って外を眺めていた。
 皇宮はとても広く、皇帝陛下が住まう場所ゆえ優雅に整えられている。
 だが、その造形美にアリシアはどこか虚しさを感じた。

 ここよりもローさんの庭園の方が温かみを感じるのはどうしてかしら…。
 あまりに整いすぎて、逆に不自然さを感じてしまう……。

 窓に手を当て、ポッカリと浮かぶ雲が流れる景色を目で追っていた。
 
 あの流れる雲のように、自分も自由に広々とした空を流れて行ければいいのに。
 アリシアは切実に願う。
 
 アリシアの立場はいつも中途半端だ。
 子爵家にいた時も、大公家に来てからも、この皇宮へ訪れてからも……。

 窓の外を見ていたら、いつの間にか鳥たちが広いバルコニーの手摺りに集まって来ていた。
 ここ最近、この体質が特に強くなった。
 なぜかはわからない。
 大きな開き戸の窓を開けて、外へと足を進めた。

「また…集めて来てくれたの?ありがとうっ!」

 手摺りに止まっていた鳥たちの嘴には、ローの心臓に効くヤツメ草が咥えられていた。
 アリシアが両手を差し出すと、鳥たちが次々と飛び立ち、アリシアの両手にヤツメ草を落としていく。
 全て終わる頃にはアリシアの両手には、こんもりとするほどのヤツメ草でいっぱいになっていた。
 アリシアはその草をバルコニーのテーブルに置き、お仕着せのポケットに入っている袋を取り出した。

「沢山食べて。またお願いね」

 袋には鳥たちの好物である雑穀が入っており、鳥たちはアリシアの両手に群がりながら我先にと餌を食べていた。
 アリシアはバルコニーの床にも撒き、バルコニーが鳥たちで埋め尽くされていた。

「あなた達のおかげよ?ローさんが歩けるまで元気になったの。だから遠慮せずにいっぱい食べてね」

 沢山あったエサもすぐに無くなってしまった。
 
「ありがとう。またお願いね!」
 
 次々と鳥たちか飛び立つ中、急に部屋側の窓からジェイデンが現れ、多くの鳥たちが一斉に空へと舞い上がった。

 バサバサバサッーー!!

「あっ……」

 アリシアはバルコニーから飛び立った鳥たちを見上げた。
 ジェイデンは息を乱しながら、ずんずんアリシアの元へと進んでいく。
 理由もわからず向かってくるジェイデンに、アリシアは反射的に身構えた。

「やっ……!」

 元夫のジムだと、この勢いのままアリシアを平手で叩いていた。それがアリシアにとっての日常であった。
 怒りや腹いせをぶつけるられる日々。条件反射で咄嗟に身構えた。
 しゃがみ込んだまま体を固くし、瞳をキツく閉じながら顔を両手で覆って、衝撃に備えていた。

「──」
 
 思ったような衝撃は訪れず、アリシアはキツく閉じていた瞳をゆっくり開けた。
 視界の先にはジェイデンが息を乱しながら立ち上がり、しゃがみ込んでいるアリシアを見下ろしていた。

 
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