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複雑な気持ち
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「失礼いたします」
「何用だ…」
ここはアリシアの隣の部屋にある、ジェイデンの執務室だ。返答に応じたのは最側近のブルーノだ。
机で事務仕事をしているジェイデンはアリシアを見てパッと顔を上げる。
「アリシアさんっ!?私に会いに来てくれたのですか?!こちらへおいで下さいっ。お茶でも淹れましょう!」
すでに何日も滞在しているが、お務めの日以外でこの部屋を訪れるのは初めてだった。
隣りにいて呼び出しもしないのに、アリシアが訪れてきたのがよぼど嬉しいのか、ジェイデンは自ら席を立ってアリシアの元に駆け寄った。
「っ!……いえ、お気遣いは結構です」
「お前っ…、大公殿下に対し、何たる無礼をっ……!」
書類整理をしていたブルーノはジェイデンを避けようとしているアリシアを見て、不快感を露骨に表している。
「ブルーノ、おやめなさい。無礼ではありませんよ」
「しかしッ、一介の侍女の分際でっ!」
「何度も言いますが、アリシアさんに関しては立場が違うのです」
駆け寄ったジェイデンはスッとアリシアの手を取り、手の甲に軽くキスを落としている。
「──っ!」
突然の出来事にアリシアは思わず手を引っ込めた。
「アリシアさん……」
拒絶の態度にジェイデンはアリシアを見ながら、悲しそうな顔をしているがアリシアには気にしている余裕はなかった。
突然、こんな事を、するなんてっ…。
アリシアはジェイデンの唇が触れた手の甲をもう片方の手で包み、動揺する気持ちを落ち着かせていた。
「も、申し訳ございません。実は…、ローさんがお呼びなのです。皇帝陛下もご一緒にお呼びになるよう仰せつかりました」
なるべくジェイデンと視線を合わせぬよう、アリシアは早口で話す。
傷付いた表情のジェイデンも、その言葉に驚いた表情に変わった。
「ローガン…上皇陛下ですか?」
「はい」
「何故お呼びになられたのか、聞いてらっしゃいますか?」
「いえ……、私も、お二人を連れて来るよう……言われただけです」
「皇帝陛下も?それは非常に珍しい事ですね」
チラリと隣のジェイデンを見ると、アリシアは複雑な気持ちになる。
陽の光の中、近くで見るジェイデンを眩しく感じる。キラキラと煌めく結わえられた白銀の髪、アリシアを切なく見つめる七色に輝く宝石眼、アリシアを見下すほど高い背丈に整った顔立ち。
こんなにも綺麗で何でも持っている人なのに、血の呪いにより自分のような女を抱かなくてはならない。
それにジェイデンは皇帝陛下であるロウエンに想いを寄せているのに、添い遂げる事ができない。
可哀想な人……。
お二人の事をどうにかすることはできないけど……、せめて血の呪いだけはどうにかしてあげられないかしら……。
そうすればアリシアを抱くという、呪縛からは解放される。
アリシアを抱く時のジェイデンは明らかに別人だ。恐らくそれが竜族の呪いによるものなのだろう。
想いを寄せる人がいるのに、他の異性を抱かなくてはいけないのはきっと想像以上に辛い事だ。
私が嫌がるから……、こうして機嫌をとっているのね。ご自身の症状の為にも、私がいなくなっては困るから……。
わかってるが、だからと言ってアリシアも簡単に受け入れられる事ではない。
「アリシアさん?」
急に黙り込むアリシアをジェイデンは心配そうに見ている。
「おい、お前。大公殿下に対する態度を改めろっ。お前のような者が気軽に話せるお相手ではないんだッ!」
書類を片手に持ち、ブルーノはアリシアに近づき高圧的な言葉を浴びせる。
そんな事はわかっている。
アリシアとてジェイデンと関わりたいわけではない。
では……、どうしろというのっ!?
そんなに私が気に入らないのなら、さっさと追い出せばいいじゃないッ!
逃げられないように縛られてるのは私なのにっ、どうしてこんな事を言われなくてはいけないの!?
胸の内にふつふつ湧き上がる、行き場のない憤り。
アリシアはグッと拳を握り俯いた。
「ブルーノ、いい加減になさいッ!アリシアさんに対して態度を改めるのは貴方です!!」
咄嗟にジェイデンがブルーノとアリシアを間に入り、アリシアを庇うように背で遮る。
あ──……。
またジェイデンの突然の行動にアリシアは驚きに顔を上げた。
「ですがッ……!」
「私の命が聞けないのですか?何度も言いますが、この方は侍女ではありません。私の大切な人なのです」
「っ!かしこまり…ました……」
大切な、人……。
そうよね。大公様の症状を抑えるために、私はどうしても必要だから……。
そう思うアリシアだが、庇われたジェイデンの背を間近に見て、早る鼓動を押さえようと胸元を手で押さえた。
「何用だ…」
ここはアリシアの隣の部屋にある、ジェイデンの執務室だ。返答に応じたのは最側近のブルーノだ。
机で事務仕事をしているジェイデンはアリシアを見てパッと顔を上げる。
「アリシアさんっ!?私に会いに来てくれたのですか?!こちらへおいで下さいっ。お茶でも淹れましょう!」
すでに何日も滞在しているが、お務めの日以外でこの部屋を訪れるのは初めてだった。
隣りにいて呼び出しもしないのに、アリシアが訪れてきたのがよぼど嬉しいのか、ジェイデンは自ら席を立ってアリシアの元に駆け寄った。
「っ!……いえ、お気遣いは結構です」
「お前っ…、大公殿下に対し、何たる無礼をっ……!」
書類整理をしていたブルーノはジェイデンを避けようとしているアリシアを見て、不快感を露骨に表している。
「ブルーノ、おやめなさい。無礼ではありませんよ」
「しかしッ、一介の侍女の分際でっ!」
「何度も言いますが、アリシアさんに関しては立場が違うのです」
駆け寄ったジェイデンはスッとアリシアの手を取り、手の甲に軽くキスを落としている。
「──っ!」
突然の出来事にアリシアは思わず手を引っ込めた。
「アリシアさん……」
拒絶の態度にジェイデンはアリシアを見ながら、悲しそうな顔をしているがアリシアには気にしている余裕はなかった。
突然、こんな事を、するなんてっ…。
アリシアはジェイデンの唇が触れた手の甲をもう片方の手で包み、動揺する気持ちを落ち着かせていた。
「も、申し訳ございません。実は…、ローさんがお呼びなのです。皇帝陛下もご一緒にお呼びになるよう仰せつかりました」
なるべくジェイデンと視線を合わせぬよう、アリシアは早口で話す。
傷付いた表情のジェイデンも、その言葉に驚いた表情に変わった。
「ローガン…上皇陛下ですか?」
「はい」
「何故お呼びになられたのか、聞いてらっしゃいますか?」
「いえ……、私も、お二人を連れて来るよう……言われただけです」
「皇帝陛下も?それは非常に珍しい事ですね」
チラリと隣のジェイデンを見ると、アリシアは複雑な気持ちになる。
陽の光の中、近くで見るジェイデンを眩しく感じる。キラキラと煌めく結わえられた白銀の髪、アリシアを切なく見つめる七色に輝く宝石眼、アリシアを見下すほど高い背丈に整った顔立ち。
こんなにも綺麗で何でも持っている人なのに、血の呪いにより自分のような女を抱かなくてはならない。
それにジェイデンは皇帝陛下であるロウエンに想いを寄せているのに、添い遂げる事ができない。
可哀想な人……。
お二人の事をどうにかすることはできないけど……、せめて血の呪いだけはどうにかしてあげられないかしら……。
そうすればアリシアを抱くという、呪縛からは解放される。
アリシアを抱く時のジェイデンは明らかに別人だ。恐らくそれが竜族の呪いによるものなのだろう。
想いを寄せる人がいるのに、他の異性を抱かなくてはいけないのはきっと想像以上に辛い事だ。
私が嫌がるから……、こうして機嫌をとっているのね。ご自身の症状の為にも、私がいなくなっては困るから……。
わかってるが、だからと言ってアリシアも簡単に受け入れられる事ではない。
「アリシアさん?」
急に黙り込むアリシアをジェイデンは心配そうに見ている。
「おい、お前。大公殿下に対する態度を改めろっ。お前のような者が気軽に話せるお相手ではないんだッ!」
書類を片手に持ち、ブルーノはアリシアに近づき高圧的な言葉を浴びせる。
そんな事はわかっている。
アリシアとてジェイデンと関わりたいわけではない。
では……、どうしろというのっ!?
そんなに私が気に入らないのなら、さっさと追い出せばいいじゃないッ!
逃げられないように縛られてるのは私なのにっ、どうしてこんな事を言われなくてはいけないの!?
胸の内にふつふつ湧き上がる、行き場のない憤り。
アリシアはグッと拳を握り俯いた。
「ブルーノ、いい加減になさいッ!アリシアさんに対して態度を改めるのは貴方です!!」
咄嗟にジェイデンがブルーノとアリシアを間に入り、アリシアを庇うように背で遮る。
あ──……。
またジェイデンの突然の行動にアリシアは驚きに顔を上げた。
「ですがッ……!」
「私の命が聞けないのですか?何度も言いますが、この方は侍女ではありません。私の大切な人なのです」
「っ!かしこまり…ました……」
大切な、人……。
そうよね。大公様の症状を抑えるために、私はどうしても必要だから……。
そう思うアリシアだが、庇われたジェイデンの背を間近に見て、早る鼓動を押さえようと胸元を手で押さえた。
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