34 / 67
予期せぬ出来事
しおりを挟む
息を切らし逃げてきた場所へと戻ってきたが、皇宮内に人はいなかった。
急いで誰かいないかキョロキョロと探す。
誰かっ?!…誰か、いないの!?
ここでさらに最悪な事に、少し前に会った侍女達と鉢合わせてしまった。
「あっ、性懲りもなく、まだここにいましたわっ!!」
「あら嫌だわっ!随分と薄汚れた格好ね!」
「やはり勝手に皇宮に侵入した不届き者ですわっ。衛兵に連れて行ってもらいましょう!」
騒いでいる皇宮の侍女達を見つめた。もう、なりふり構っていられない。ローの一大事に自分の事がどうのなど、どうでも良かった。
「私は、大公家の侍女です。大公様に確認して頂ければ、証明できますっ。それよりお願いしますっ!誰か、お医者様を…お医者様を急いで連れて来て下さい!!」
必死でお願いしているが、端から信じていない侍女達は周りを巻き込むように、騒ぎ出している。
「きゃっ!汚らしいわね!近寄らないでっ!」
「大公家の侍女が、このような小汚い姿をしている訳がないでしょ!」
「侵入者よっ!誰かぁ!!」
どうしようっ、何故こんな事にっ…!
そしてまた物事は最悪な方向にしか進まない。
廊下の奥の方からどこか見覚えのある立派な男性が歩いて来た。
「何事だ…?」
その男性はおそらくジェイデンとそう年は変わらないように見えた。
だが、持ち合わせる雰囲気が普通の男性とは違う。
「「「皇帝陛下にご挨拶申し上げますっ」」」
─っ!こ、皇帝陛下っ…!!
アリシアの顔色がサァーと青くなる。
こんな場所で不祥事など起こしたら、もう極刑になるかもしれない。
ここにはアリシアの知り合いも、庇ってくれる人もいない。
「一体どうしたと言うのだ?俺の宮で騒ぎを起こすとは…」
立っていたアリシアも近くにいた侍女の手で頭を押さえられ、無理やり膝を付かされた。
「痛っ…!」
「陛下のお足元を騒がせてしまい、大変申し訳ございません。ですが、陛下の御身を脅かす不届きな輩が侵入したようです」
一人の侍女が頭を下げているアリシアを見ながら皇帝陛下に進言している。
「ほぅ…、不届き者とな…」
頭を下げているアリシアにはわからないが、皇帝陛下も膝をついているアリシアをじっと見ていた。
しばらく考えた後、ロウエンはアリシアに声を掛ける。
「おい、お前…顔を上げよ」
「…っ」
あまりの恐怖に顔を上げられなかった。
「ちょっとあなたっ、陛下のお言葉が聞けないの!?」
「あっ!」
なかなか頭を上げないアリシアに痺れを切らした侍女が、無理やり髪を掴んで顔を上げさせる。被っていた頭飾りが取れてしまった。
騒ぎを聞きつけたのか、ジェイデンとブルーノが遠く後ろの方からから歩いてきていた。
アリシアはこの二人の事を信用していない。
しかも言い付けを守らなかったのはアリシアだ。そして、ここまで騒ぎを大きくしてしまった。訴えたとしても、おそらくこのまま白を切られ、切り捨てられるだろう。
「皇帝陛下、この者が侵入者です!恐れ多くも大公家の侍女を名乗り、陛下に近づこうとした不届き者にございますっ」
「度々こちらに侵入し、陛下の様子を伺っていたようです!」
近くにいた皇宮の侍女達はここぞとばかりに、ある事ない事をロウエンへと進言していた。
「大公家…」
ロウエンは泥にまみれたお仕着せを着ているアリシアを眺めた。
「皇帝陛下、無礼を承知で申し上げますっ!私はどうなっても構いません…。どんな罰でも受けますから、お医者様を呼んで頂けませんか!お願い致しますっ」
「おい、お前っ!陛下の許しもなく勝手に発言するなっ!」
頭を下げて涙を流すアリシアに、近くいた側近が諫めている。
こうしている間にもローの容態がどうなっているかわからない。アリシアは焦る気持ちを抑えきれない。
「いや、良い。それより…医者とは?」
「ローさんがっ…、庭師のローさんが倒れてしまって!早く診てもらわなければっ、危険な状態なのですっ!!」
「庭師のロー?」
庭師の名前まで把握していないロウエンは、隣にいた側近をちらりと見る。
「陛下、庭師にその様な名の者はおりませんっ」
隣にいた堅物そうな側近はすかさず言葉を返し、アリシアが虚言を言っていると言いたげだった。
「そんな訳はありませんっ!お願い致します!急いで下さい…!!」
涙を流し訴えるアリシアを侵入者だと疑い、誰も信じてくれない。
このままアリシアが投獄されれば、ローが死んでしまう。
「──なんて事をっ!!」
ここでようやく事態に気づいたジェイデンが焦った様子で走ってきた。
「大公様っ、こちらに大公家を名乗る不届き者がっ…」
アリシアの隣で逃げないよう押さえていた侍女が、手柄を自慢するように喜々としてジェイデンに話し掛けている。
「無礼者がっ…!下がりなさいッ!!」
激しく激昂しているジェイデンの剣幕に、侍女は慌ててアリシアから離れた。
「ひっ…!」
ジェイデンはしゃがみ、アリシアの体を支えるように立ち上がらせた。
「アリシアさんっ!アリシアさんッ、大丈夫ですか!?」
てっきり切り捨てられると思っていたアリシアは、意外なジェイデンの行動に驚いていた。
「……私は…、平気です」
「これは一体、どうしたのですか?!」
そこで、アリシアはハッとする。
もうこの際、誰でもいい。ジェイデンに頼むのが嫌などという、自分のちっぽけなプライドなどきっぱりと捨てた。
「大公様…、お願い致します!お医者様をすぐに呼んで下さいませんか!?ローさんが危険なんですっ!お願い、しますっ…」
縋り付くように、アリシアの体を支えていたジェイデンに懇願する。
沢山の人が集まっていたが、その場にアリシアの声だけが響いていた。
急いで誰かいないかキョロキョロと探す。
誰かっ?!…誰か、いないの!?
ここでさらに最悪な事に、少し前に会った侍女達と鉢合わせてしまった。
「あっ、性懲りもなく、まだここにいましたわっ!!」
「あら嫌だわっ!随分と薄汚れた格好ね!」
「やはり勝手に皇宮に侵入した不届き者ですわっ。衛兵に連れて行ってもらいましょう!」
騒いでいる皇宮の侍女達を見つめた。もう、なりふり構っていられない。ローの一大事に自分の事がどうのなど、どうでも良かった。
「私は、大公家の侍女です。大公様に確認して頂ければ、証明できますっ。それよりお願いしますっ!誰か、お医者様を…お医者様を急いで連れて来て下さい!!」
必死でお願いしているが、端から信じていない侍女達は周りを巻き込むように、騒ぎ出している。
「きゃっ!汚らしいわね!近寄らないでっ!」
「大公家の侍女が、このような小汚い姿をしている訳がないでしょ!」
「侵入者よっ!誰かぁ!!」
どうしようっ、何故こんな事にっ…!
そしてまた物事は最悪な方向にしか進まない。
廊下の奥の方からどこか見覚えのある立派な男性が歩いて来た。
「何事だ…?」
その男性はおそらくジェイデンとそう年は変わらないように見えた。
だが、持ち合わせる雰囲気が普通の男性とは違う。
「「「皇帝陛下にご挨拶申し上げますっ」」」
─っ!こ、皇帝陛下っ…!!
アリシアの顔色がサァーと青くなる。
こんな場所で不祥事など起こしたら、もう極刑になるかもしれない。
ここにはアリシアの知り合いも、庇ってくれる人もいない。
「一体どうしたと言うのだ?俺の宮で騒ぎを起こすとは…」
立っていたアリシアも近くにいた侍女の手で頭を押さえられ、無理やり膝を付かされた。
「痛っ…!」
「陛下のお足元を騒がせてしまい、大変申し訳ございません。ですが、陛下の御身を脅かす不届きな輩が侵入したようです」
一人の侍女が頭を下げているアリシアを見ながら皇帝陛下に進言している。
「ほぅ…、不届き者とな…」
頭を下げているアリシアにはわからないが、皇帝陛下も膝をついているアリシアをじっと見ていた。
しばらく考えた後、ロウエンはアリシアに声を掛ける。
「おい、お前…顔を上げよ」
「…っ」
あまりの恐怖に顔を上げられなかった。
「ちょっとあなたっ、陛下のお言葉が聞けないの!?」
「あっ!」
なかなか頭を上げないアリシアに痺れを切らした侍女が、無理やり髪を掴んで顔を上げさせる。被っていた頭飾りが取れてしまった。
騒ぎを聞きつけたのか、ジェイデンとブルーノが遠く後ろの方からから歩いてきていた。
アリシアはこの二人の事を信用していない。
しかも言い付けを守らなかったのはアリシアだ。そして、ここまで騒ぎを大きくしてしまった。訴えたとしても、おそらくこのまま白を切られ、切り捨てられるだろう。
「皇帝陛下、この者が侵入者です!恐れ多くも大公家の侍女を名乗り、陛下に近づこうとした不届き者にございますっ」
「度々こちらに侵入し、陛下の様子を伺っていたようです!」
近くにいた皇宮の侍女達はここぞとばかりに、ある事ない事をロウエンへと進言していた。
「大公家…」
ロウエンは泥にまみれたお仕着せを着ているアリシアを眺めた。
「皇帝陛下、無礼を承知で申し上げますっ!私はどうなっても構いません…。どんな罰でも受けますから、お医者様を呼んで頂けませんか!お願い致しますっ」
「おい、お前っ!陛下の許しもなく勝手に発言するなっ!」
頭を下げて涙を流すアリシアに、近くいた側近が諫めている。
こうしている間にもローの容態がどうなっているかわからない。アリシアは焦る気持ちを抑えきれない。
「いや、良い。それより…医者とは?」
「ローさんがっ…、庭師のローさんが倒れてしまって!早く診てもらわなければっ、危険な状態なのですっ!!」
「庭師のロー?」
庭師の名前まで把握していないロウエンは、隣にいた側近をちらりと見る。
「陛下、庭師にその様な名の者はおりませんっ」
隣にいた堅物そうな側近はすかさず言葉を返し、アリシアが虚言を言っていると言いたげだった。
「そんな訳はありませんっ!お願い致します!急いで下さい…!!」
涙を流し訴えるアリシアを侵入者だと疑い、誰も信じてくれない。
このままアリシアが投獄されれば、ローが死んでしまう。
「──なんて事をっ!!」
ここでようやく事態に気づいたジェイデンが焦った様子で走ってきた。
「大公様っ、こちらに大公家を名乗る不届き者がっ…」
アリシアの隣で逃げないよう押さえていた侍女が、手柄を自慢するように喜々としてジェイデンに話し掛けている。
「無礼者がっ…!下がりなさいッ!!」
激しく激昂しているジェイデンの剣幕に、侍女は慌ててアリシアから離れた。
「ひっ…!」
ジェイデンはしゃがみ、アリシアの体を支えるように立ち上がらせた。
「アリシアさんっ!アリシアさんッ、大丈夫ですか!?」
てっきり切り捨てられると思っていたアリシアは、意外なジェイデンの行動に驚いていた。
「……私は…、平気です」
「これは一体、どうしたのですか?!」
そこで、アリシアはハッとする。
もうこの際、誰でもいい。ジェイデンに頼むのが嫌などという、自分のちっぽけなプライドなどきっぱりと捨てた。
「大公様…、お願い致します!お医者様をすぐに呼んで下さいませんか!?ローさんが危険なんですっ!お願い、しますっ…」
縋り付くように、アリシアの体を支えていたジェイデンに懇願する。
沢山の人が集まっていたが、その場にアリシアの声だけが響いていた。
22
お気に入りに追加
586
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる