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それが意味するもの

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「シリウス様に説明するまでもないのかもしれませんが……、我がジュピター神聖国では近頃、奇妙な病が広範囲で流行しているのです。しかもその病が、遥か昔に何度か流行していた症状と似通っています」

 ソファーに掛けてた聖王様が、途端に神妙な顔付きで話してる。

「…なるほど。…だから公妃にこの禁書を解読させ、特効薬のような薬を作りたかったということか……」
「えぇ、公王陛下の仰る通りです。あわよくば……、ポーション開発を成功させたドラコニス大公家に指示を仰げればと期待して、遥々大公国まで足を運ばせていただきました」

 ――えっ!?

 禁書を読んでた私はバッと顔を上げて聖王様の顔を見た。

 もしかして、本当に私たちに会うことを前提に、こんな場所まで聖王様が直々に長旅をしてきたの?! 
 嘘でしょぉぉぉっ~~!? 
 てっきり何かのついでに寄っただけなのかと思ってたのに!
 だってドラコニス大公国からジュピター神聖国まで、最低でも馬車で一ヶ月はかかる道のりだよ?!

 視線に気づいた聖王様も私を見て、朗らかにニッコリと笑ってる。

 いやいや、ちょっと待って!
 大公国の財政管理や騎士団の統率や商団の運営やなんやって、私の時間てないに等しいんだよ。
 そこに他国の薬の開発なんて……悪いけどやってる暇なんてないからね!

 微笑んでる聖王様を見て、私は短くため息を吐いてから口を開いた。

「聖下……、率直に申し上げますが、私たちも暇ではありません。聖下もご存知の通り、この大公国はできたばかりで、現段階でも様々なことを決めている最中です。最大限、禁書の解読に協力いたしますが……その後の薬の開発までは、お約束できかねます」

 要するに諦めてくれ、って言ってる。
 神聖国ってくらいだから、医療機関も整ってるだろうし、魔法に関してもどこよりも進んでるのは把握してる。
 それに近年、各国で失われた四大元素ロストマジックを秘めた魔法使いが急速に発現してるのも知ってる。特に神聖国での魔法使いの発現者が多いらしいし。
 おそらく私の読みだと、デネボラとアヌを倒したことに繋がってると思うんだけどね。

「では、これではどうでしょうか。もし、シリウス様が薬の開発に成功し、ジュピター神聖国を救っていただいた場合……我々神聖国は、ドラコニス大公国と友好条約を結ばせていただきたいと思っております。もし大公国に不測の事態が起こった際に、我々は協力を惜しみません」
「「なっ!」」

 ポーカーフェイス決めてたのに、思わず声が漏れちゃった。同じように驚いたのか、アルファルドと声も重なって、二人で顔を見合わせてる。

 だって、この提案がそれだけすごいことだから!
 ジュピター神聖国ってどんな国にも中立を貫いてて、どこで何が起こっても、どんなことがあっても協力なんてしないで沈黙を守ってた。
 そんな大国がドラコニス大公国と友好関係になったら、これ以上有力な申し出なんてないんだよ。  
 今は私やアルファルドっていう脅威的な存在がいるから、周りにいるみんなは手を出してこないけど、私たちだっていずれは死んじゃうし……これからの未来を考えると、少しでも確実な切り札は用意しときたいとこだよね。

「――」

 まだにこりと笑ってる聖王様を見極めるように、私も座ったまま沈黙してる。

「…公妃っ、どうする?」

 隣にいたアルファルドも驚いてて、私の返答を焦るように待ってる。これは国王のアルファルドが決めることじゃなく、私に対しての依頼だからね。

 アルファルドも公王になってから、他国のことも勉強するようになった。だから大陸の主要国の情勢はそれとなく把握してるし、私も何かあるとアルファルドに報告してた。
 
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