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とりあえずやってみますか

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 アルファルドは視線を下に落として、結構長い時間険しい表情で葛藤してた。
 色々な考えがせめぎ合ってるのか、眉間にすごくシワが寄ってる。

 けどしばらく考えてて、ようやく自分の中で折り合いがついたみたいに私に視線を向けた。

「…俺も、お前と離れるのは嫌だが……やはり、神聖国との関係は逃したくない」

 国王としての考えと、自分の本心との狭間でかなり悩んだみたいだね。
 アルファルドは基本真面目だから、理性と感情の間で揺れてたんだろうなぁ。
 今は決着がついたのか、迷いのないすっきりとした顔つきに変わってた。

「…ミラ。悪いが、行ってくれるか?」

 アルファルドの本音も建前もわかって私もスッキリ!
 私としては行っても行かなくてもどっちでも構わなかったけど、アルファルドは絶対こっちを選択すると思ってたからね。
 
「当り前だろ。すぐ解決して戻って来るから、その時は覚悟しとけよ!」
「…覚悟?」
「三日は寝かせないからな。特大級のご褒美もらうから!」
「…っ! お前は……それしかないのか……?」
「うん!」

 ニコッと笑ってはっきりと答えた私を見て、アルファルドは苦笑してる。

「…わかった」

 フッと綺麗に口角を上げて笑ったアルファルドの顔がめちゃくちゃ格好良くて、思わずドキッと心臓が跳ねた。

 ハァ……、やっぱり行きたくないなぁ……
 けど、今さら離れたくないなんて言えないし……しょうがないから頑張ってくるかぁ。

 コンコンッ!

 このタイミングで扉の向こうからノックが聞こえた。
 ちょっと乱暴に叩かれたノックに、こっちからも返答を返した。

「なんだ?」
「そろそろよろしいですかな、お嬢……。とうの昔に客人を案内してきたのですぞ」
「あー……、悪い。今いく」

 呆れたような声のタウリに、そういえば結構な時間が経ってたのを思い出した。
 やばっ……、アルファルドに夢中になりすぎて気にしてなかった。
 ま、でも、私の最優先事項ってアルファルドだし。こうしてちゃんと解消していかないと、アルファルドってすぐ自分のなかに溜め込んじゃうから。

 多少の気まずさを感じながら、私たちはようやく応接室から出ていった。
 その後、大公家の臣下たちを広間に呼んで事情を説明した。
 ひとまず神聖国に行くことと、私がしばらく不在になることを伝えると、途端にみんなざわついてる。
 
「公妃さまが不在になられるのは理解いたしましたが、さすがにお一人で神聖国まで行かせるわけにはまいりませんよね?」

 ここで発言してきたのはアケルナー。
 なんとなく目がギラついてて、自分も神聖国に行きたいのが見え見えだった。

「安心しろ。魔法士と魔法騎士を一名ずつ連れていく。だが、団長クラスは連れて行かない。俺がいない間の不測の事態に備えるためだ」
「しかし、二名だけで公妃さまの御身を守るには不十分ではありませんか?」
「心配は無用だ。本来なら俺一人で十分なところだが、それじゃ納得しないと思ったから最低限の人数に絞らせてもらった。すでに人選も決めてある」
「ですが――」
 
 しつこいなぁー……、どんだけ自分が行きたいんだよ!
 アケルナーって貪欲っていうか、自己中っていうかいつまで経っても苦手だ。
 
「異論は認めない! すでに決定事項だ。魔塔からはカテリーナ、魔法騎士団からはハダル。この二名に同行してもらう。以上だ」

 キッと睨みをきかせてちょっと強めに言ったから、アケルナーもさすがに黙った。
 
「あと、最後に言っておくが……、俺が不在の間、陛下に何かあってみろ……、どうなるかわかってるだろうな……?」
「「「――っ!!」」」

 腕を組んだまま緩やかに殺気を混ぜて、その場にいた全員に圧をかけていく。

「いいか! 全師団の名誉にかけて陛下をお守りしろッ! 如何なる場合においてもだッ!!」
「「「ハッ!!」」」

 これで一気に場の空気が引き締まったかな。
 アルファルドが強いのは承知の上だけど、どんな事が起きるかわからないから。
 特に王様って一番に狙われるから油断なんてできないよ!

「念のため初期ポーションを用意しておく。緊急時には惜しみなく使ってくれ」

 ここで臣下のみんなからどよめきが起きた。

 ちなみに初期ポーションていうのは、初めの頃にアカデミアで私とアルファルドとオクタンで作ってた時のやつ。
 なぜか世間でそう呼ばれるようになってたんだ。これにも理由があって、どうやら私の魔力を使ったポーションだと効果が全然違うらしいんだ。
 今魔塔で作ってるものはポーションのレシピを解禁して、オクタンとアンカを中心に他の魔法使いたちと一緒に作ってる。
 私が作ってたやつは古傷も欠損部も復元したらしいけど、今のものは傷は治るのに元通りにはならないみたい。
 だから巷では初期ポーションが万能薬扱いされてて、持ってる人はものすごく羨ましがられてるんだって。
 もちろん魔法誓約があるから持ってても売ったりはできないし、その人が使うしかないんだけど。
 今じゃポーションはドラコニス大公国の専売品になってるから、アルファ商団からは撤退させてる。けど、商団でも未だに問い合わせが凄いみたいで、ケイドからも再販できないかずっと言われ続けてる。
 でもさー……、私も忙しすぎてポーション作ってる暇なんてないから。
 だからこそ、今ではかなり貴重なものになってるんだ。
 
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