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旅行編
最終日 4
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嬉しさいっぱいで湯あみを終え、ルーシェはハンナに着替えを用意してもらい自ら着替えた。脱衣所から出ると別室へ通され髪を乾かして貰う。
この旅ではサラシを巻いていない。コルセットが苦手なので常に持ち歩いているのだが、着けることをウィルソンが嫌がるからだ。
サラシが無いとちょっと心許ないのだが仕方ない。
着替えを終えウィルソンがいる広間にやってくると、そこには何故かサンノエルがいて二人で何やら難しい顔をして話し込んでいた。
ルーシェには気付いていないようなので邪魔しない様にそっと近くのソファーに座る。
ハンナが気を利かせて飲み物を用意してくれる。
仕事の話だろうか。内容まではわからないが、ウィルソンが渋っているのをサンノエルが説得しているように見える。海が全面に見える窓際で話しているのだが、その様子もルーシェにとっては1枚の絵のように映る。
二人の様子をそっと見守っていると、不意にウィルソンと目が合った。
ルーシェは慌てて席を立つ。
「ルー、来ていたのか?」
「…はい。あの…どうかなさいましたか?」
その言葉にウィルソンは苦虫を噛んだ様な顔になる。少し離れたとこでサンノエルも何故か済まなさそうにルーシェを見ている。
(?どうしたんだろう………?)
窓際で話していたウィルソンは、中央のソファーにいるルーシェに近づく。
表情からいってあまり良い話ではなさそうだ。すぐ側まで来るとルーシェの肩をガシッと掴む。
「ルー」
「はい?」
「嫌なら嫌だと断ってくれて構わない。私は君に強要するつもりはないからな」
「?えっと?どういう事ですか?」
珍しく一方的に話すウィルソンに驚きながら、迫って来るウィルソンに問いただす。
仕事の話かと思ったが、どうやらルーシェに関係のある事のようだ。
少し身体を離したウィルソンは、ため息をつきながら嫌そうにサンノエルを見る。
「ノエル……説明してくれ」
「…はい」
窓際に立っていたサンノエルはルーシェ達のいる中央へとゆっくり歩いてくる。
ルーシェはウィルソンに促され、広めのソファーに一緒に腰をかける。
「休暇中に申し訳ございません。実は…ルーシェ様に謝罪したいと申し上げている者達がおりまして……」
サンノエルも近くに立ちながら、ひどく困った様な顔をして話している。
「私に?謝罪ですか?」
「はい…」
ルーシェは思考を巡らせるが、自分に対して何かしでかした人物など居なかった筈だ。
しかも者達とは、一人では無いという事だ。
ますます心当たりがない。
「すみませんが、どなたでしょうか?」
サンノエルを見ながら検討のつかない人物について訪ねてみる。
「それが…その…実は、自警の連中なのです……」
サンノエルは頭を掻きながら、変わらず困ったような表情でルーシェに向かっている。
「え……?自警団の方々が何故私に謝罪を?」
「えぇ、先日の一件でどうしてもお会いして直接謝罪したいと…」
先日の一件というとオズワルドの事だろう。
しかしどうして自警団の人達が謝りたいのか訳がわからない。
「どういった事か良くわかりませんが、謝って頂く事は無かったと思いますよ?」
ルーシェの言葉を聞いてサンノエルも少し表情を和らげる。
「そう言って頂けると僕としても安心です。どうやらルーシェ様に縄をかけてしまった事を連中は猛省している様なのです」
「縄……」
呟きながら、ベッドの上でウィルソンに縛られ攻められた事がパッと思い浮かんでしまった。
顔を赤くしながら、邪な考えを振り払う様に首をブンブンと振る。
隣に座っていたウィルソンがルーシェの行動を不思議そうに見ている。ルーシェはコホンと咳払いをして話し出す。
「そ、その事でしたら特に謝罪など必要ありません。自警団の皆様にもそうお伝え下さい」
「ご厚意ありがとうございます。僕としましても御旅行中のお二人を煩わすなと釘を指したのですが…如何せん元が海の男達ですので、義理堅いと言うか自分達の信念を中々曲げようとしないのです。直接謝罪するまではこちらにまで押しかけそうな勢いで困ってしまっているんです」
なるほど。それで先程のウィルソンの台詞に繋がるのか。
ルーシェは納得する。
この様子だとサンノエルも相当説得した感じだ。ルーシェ達を邪魔しないように取り計らってくれたのだろう。
それなのに別邸まで来たという事は、自警団を止めることが出来なかっただろう事は良くわかった。
「そうでしたか……とりあえず私が行って納まるのでしたら…」
相手の気が済めば納まるのなら、そうするしかない。謝罪など本当に必要ないのだが、そうしなければ相手も気が収まらないの要求を飲むしかない。
「左様でございますか!了承して頂き、ありがとうございます!御旅行をお楽しみの中、煩わせてしまい申し訳ございません」
ホッと安堵に表情を変えたサンノエルとは対象に、ウィルソンは不機嫌になる。
「ルー、無理に合わせる必要は無いぞ。あんな奴らの言う事など聞かなくてもいい」
どうやらウィルソンは自警団の詰め所に行く事を嫌がっているみたいだ。
「それでは大変申し訳ございませんが、早速訓練所までご案内致します。早めに行ってパパッと終わらせちゃいましょう!」
ウィルソンを無視してサンノエルはさくさくと物事を進めていく。ウィルソンの不機嫌なオーラを物ともしないサンノエルは、笑顔で促していく。
さすが付き合いが長いだけあり、ウィルソンの扱いも良く分かっているようだ。
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読んで頂き、ありがとうございます!
嬉しさいっぱいで湯あみを終え、ルーシェはハンナに着替えを用意してもらい自ら着替えた。脱衣所から出ると別室へ通され髪を乾かして貰う。
この旅ではサラシを巻いていない。コルセットが苦手なので常に持ち歩いているのだが、着けることをウィルソンが嫌がるからだ。
サラシが無いとちょっと心許ないのだが仕方ない。
着替えを終えウィルソンがいる広間にやってくると、そこには何故かサンノエルがいて二人で何やら難しい顔をして話し込んでいた。
ルーシェには気付いていないようなので邪魔しない様にそっと近くのソファーに座る。
ハンナが気を利かせて飲み物を用意してくれる。
仕事の話だろうか。内容まではわからないが、ウィルソンが渋っているのをサンノエルが説得しているように見える。海が全面に見える窓際で話しているのだが、その様子もルーシェにとっては1枚の絵のように映る。
二人の様子をそっと見守っていると、不意にウィルソンと目が合った。
ルーシェは慌てて席を立つ。
「ルー、来ていたのか?」
「…はい。あの…どうかなさいましたか?」
その言葉にウィルソンは苦虫を噛んだ様な顔になる。少し離れたとこでサンノエルも何故か済まなさそうにルーシェを見ている。
(?どうしたんだろう………?)
窓際で話していたウィルソンは、中央のソファーにいるルーシェに近づく。
表情からいってあまり良い話ではなさそうだ。すぐ側まで来るとルーシェの肩をガシッと掴む。
「ルー」
「はい?」
「嫌なら嫌だと断ってくれて構わない。私は君に強要するつもりはないからな」
「?えっと?どういう事ですか?」
珍しく一方的に話すウィルソンに驚きながら、迫って来るウィルソンに問いただす。
仕事の話かと思ったが、どうやらルーシェに関係のある事のようだ。
少し身体を離したウィルソンは、ため息をつきながら嫌そうにサンノエルを見る。
「ノエル……説明してくれ」
「…はい」
窓際に立っていたサンノエルはルーシェ達のいる中央へとゆっくり歩いてくる。
ルーシェはウィルソンに促され、広めのソファーに一緒に腰をかける。
「休暇中に申し訳ございません。実は…ルーシェ様に謝罪したいと申し上げている者達がおりまして……」
サンノエルも近くに立ちながら、ひどく困った様な顔をして話している。
「私に?謝罪ですか?」
「はい…」
ルーシェは思考を巡らせるが、自分に対して何かしでかした人物など居なかった筈だ。
しかも者達とは、一人では無いという事だ。
ますます心当たりがない。
「すみませんが、どなたでしょうか?」
サンノエルを見ながら検討のつかない人物について訪ねてみる。
「それが…その…実は、自警の連中なのです……」
サンノエルは頭を掻きながら、変わらず困ったような表情でルーシェに向かっている。
「え……?自警団の方々が何故私に謝罪を?」
「えぇ、先日の一件でどうしてもお会いして直接謝罪したいと…」
先日の一件というとオズワルドの事だろう。
しかしどうして自警団の人達が謝りたいのか訳がわからない。
「どういった事か良くわかりませんが、謝って頂く事は無かったと思いますよ?」
ルーシェの言葉を聞いてサンノエルも少し表情を和らげる。
「そう言って頂けると僕としても安心です。どうやらルーシェ様に縄をかけてしまった事を連中は猛省している様なのです」
「縄……」
呟きながら、ベッドの上でウィルソンに縛られ攻められた事がパッと思い浮かんでしまった。
顔を赤くしながら、邪な考えを振り払う様に首をブンブンと振る。
隣に座っていたウィルソンがルーシェの行動を不思議そうに見ている。ルーシェはコホンと咳払いをして話し出す。
「そ、その事でしたら特に謝罪など必要ありません。自警団の皆様にもそうお伝え下さい」
「ご厚意ありがとうございます。僕としましても御旅行中のお二人を煩わすなと釘を指したのですが…如何せん元が海の男達ですので、義理堅いと言うか自分達の信念を中々曲げようとしないのです。直接謝罪するまではこちらにまで押しかけそうな勢いで困ってしまっているんです」
なるほど。それで先程のウィルソンの台詞に繋がるのか。
ルーシェは納得する。
この様子だとサンノエルも相当説得した感じだ。ルーシェ達を邪魔しないように取り計らってくれたのだろう。
それなのに別邸まで来たという事は、自警団を止めることが出来なかっただろう事は良くわかった。
「そうでしたか……とりあえず私が行って納まるのでしたら…」
相手の気が済めば納まるのなら、そうするしかない。謝罪など本当に必要ないのだが、そうしなければ相手も気が収まらないの要求を飲むしかない。
「左様でございますか!了承して頂き、ありがとうございます!御旅行をお楽しみの中、煩わせてしまい申し訳ございません」
ホッと安堵に表情を変えたサンノエルとは対象に、ウィルソンは不機嫌になる。
「ルー、無理に合わせる必要は無いぞ。あんな奴らの言う事など聞かなくてもいい」
どうやらウィルソンは自警団の詰め所に行く事を嫌がっているみたいだ。
「それでは大変申し訳ございませんが、早速訓練所までご案内致します。早めに行ってパパッと終わらせちゃいましょう!」
ウィルソンを無視してサンノエルはさくさくと物事を進めていく。ウィルソンの不機嫌なオーラを物ともしないサンノエルは、笑顔で促していく。
さすが付き合いが長いだけあり、ウィルソンの扱いも良く分かっているようだ。
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