上 下
70 / 113
旅行編

お出掛けデート 1

しおりを挟む
 

 朝の行為の後疲れてしまい、朝食を食べてから戻って休んでいたら、いつの間にかウトウトと寝てしまった。ウィルソンも気遣って寝かせてくれたようで、起きたら結構時間が経っていた。

 結局お昼近くになってから街に繰り出すことに。

 昨日は暗くて良くわからなかったが、こうして街の様子を見ていると活気があり、ルーシェが働いていた下町の様な感じがして親しみが持てる。
 アレキサンドロスの北側に位置するこのペパレッドという街は貿易や物流が栄え、漁業も盛んなことから人々の賑わいも凄かった。

 あまり他の街に遠出したことのないルーシェは、見るもの全てが珍しくて、ついつい足を止めて、露店やブティックに見入ってしまう。

「何か気に入ったものがあったら言ってくれ」

 ウィルソンがその度に聞いてくるが、ルーシェは慌てて首を振る。
 ただでさえ連れて来てもらっているのに、これ以上何かしてもらうつもりはない。
 お金なら自分も少しは持って来ている。
 クロウドのお屋敷の人達や、両親にお土産として何か買おうと思っていたから。

「見るのが好きなので大丈夫です。あ、ウィル様…あれはなんでしょう?」

 少し離れた露店でアクセサリーを売っている。
 ルーシェはめったに買ったり身に付けたりしないが、こうしてキラキラしたものを見るのは大好きだ。

「うわぁ~可愛い!これって、珊瑚ですよね?」

 珊瑚の赤ピンク色が鮮やかに台を彩っている。近くにより、屈んで見ていると声をかけられる。

「あら、良く知ってるわね!そう、これは全部珊瑚から出来た物なのよ!うちの自慢の商品なの!綺麗でしょ?」

 ルーシェより少し上くらいの売り子が、得意気に説明していく。

「はい、凄く綺麗です!あ、これはもしかして翡翠ですか?」

「そうよ!あなた……本当に良くわかるわね?ここら辺でも滅多に取れない貴重な石なのに。ほとんど市場には出回らないのよ」
 
 そこ言葉にギクリとする。前世ではそこまで珍しくない石だっただけに、そんな貴重な物だとは思わなかった。

「えー…と、あの…たまたま、見かけたことがあって……」

 しどろもどろになりながら、誤魔化す。

「君は意外と博識なんだな」

「ウィル様!すみません……自分ばかり楽しんでしまって!」

 見ている後ろから声を掛けられ、立ち上がって慌てて謝る。

「大丈夫だ。しかし、良くこんな場所でヒスイが出ているな。王都でもあまり見ない」

「ウィル様…こんな場所とは失礼ですよ」

 ルーシェがすかさず突っ込む。

「いえいえ!とんでもない!お気になさらずに!!」

 ウィルソンを見た売り子が、目を輝かせ顔を真っ赤にして喋り出す。

「ルー、そろそろ行こう。疲れただろう?」

 ルーシェの髪を一房手に取ると、そこにキスを落とす。そのあまりに自然な仕草に一瞬外だと忘れてしまう。ハッとして、恥ずかしさに俯いてしまう。

「はい…でも、まだ疲れてはないです……」
 
 人前だから少し遠慮してくれているとは思うが、周りにいた女性達や売り子の女の子もポーとした顔でその光景を目に焼き付けている。

 実はさっきからこうなのだ。
 またしても同じ反応にルーシェは辟易とする。
 
 ウィルソンは見目がかなり良い。その立ち振舞いも格好も、滲みでるオーラも、どう見たって位の高い貴族そのものだ。
 偉そうにしているわけじゃないのに、溢れでる品格は隠せるものではない。

 その隣にいる自分と来たら、むしろこの街の一部になっているんじゃないかというほど馴染んでいる。化粧はあまりしていないが、派手ではないわりと良いドレスも着せてもらった。なのに、どうしても貴族のご令嬢には見えない。
 見えたとしても、裕福な商家の娘くらいだろう。
 なんで一緒にいるのがこの娘なの?という顔で見られるが、もう慣れっこだ。散々学園で経験してきたので、そんな視線も余裕を持ってかわしている。
 

(本当にウィル様は、私には勿体ないくらい素敵な人だから、他の人の気持ちはよくわかる………ん?…そういえばウィル様って、何で私のこと好きになったんだろう?)


 改めて隣を歩いているウィルソンを見るが、相変わらず見惚れるほど秀麗な顔で、ルーシェがはぐれないように腕を組んでエスコートしてくれている。

(うーん…今さらだけど、全く理由はわからない……そもそもウィル様は女嫌いなはず……あのメモには幼い頃、酷い目にあったとしか書いてなかった)

 その事に関し、もちろん詮索するつもりはない。

 ウィルソンもルーシェの前世過去を無理に聞こうとはしてこない。
 
 これもルーシェの偏見だが、恋人同士になれば、何でもお互いの事を知っていて当然なんだと、自分勝手に思っていた。
 前世の友達なんかは良く彼氏の行動やスケジュールで知らないこともあり、なんで恋人同士なのに、と不思議に思っていた。

 お互い好きあっていても、やはり踏み込んで良い部分と踏み込まれたくない部分があるのは、どのような関係でも同じなんだ。としみじみ思う。

(私が知らないウィル様の顔なんて、きっと沢山ある。それを知ったとしても……私がこの人から離れたいなんて思うことは、一生来ないんだろうな………)

 まぁ、逆はあるかもしれないが……
 ウィルソンが自分に愛想を尽かすことはあるかもしれない。
 そんな日がもし来るとしたら、自分はどうなるんだろう……想像もしたくない。
 
 腕に添えてあった手をギュッと握る。

 もう、この手は離せないし、離したくない。
 
「どうした?」

 急に腕を握った事を疑問に思ったのか、気遣わしげに聞いてくる。

「いえ、何でもありません」

 誤魔化すように笑顔で答えると、ちょっと不思議そうにしながらも、ウィルソンも笑って返してくれる。そして組んでいた腕を崩し、ルーシェの手を絡める様に繋ぎ直す。恋人繋ぎといわれるものだ。

「もう少しで着くから、そこでお茶にしよう」

「は、はい」

 ルーシェは顔を真っ赤に染める。
 こうしたデートでこうやって手を繋ぐのが、前世からの憧れだった。
 絡まる指が熱くて、胸がドキドキする。

(これは思った以上に、ヤバい………)

 ウィルソンの仕事の関係上、まともにデートやお出掛けなどしたことがない。自分も仕事や学業に忙しく、不満なども特になかった。
 
 だから学園の偽婚約者以来、久しぶりに人前でこうして手を繋いだ様な気がする。

 あの時はまだウィルソンとは恋仲ではなく、婚約者のフリなのだからと、なるべく深く考えないようにしていたから。

 周りの視線が更に痛い気がするが、気にしない。
 昔の自分を振り返り、ルーシェは今ある幸せをかみしめるのだった。


 















 ********************************
 いつも読んで頂き、ありがとうございます!プライベートが少し忙しく、更新が不定期になると思います。申し訳ございません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

処理中です...